第19話 責任を引き受ける
夜が、静かに明けていく。
三領同時危機から一夜。
街は動き出し、兵は持ち場に戻り、倉庫は再び回り始めていた。
だが――
全員が、分かっていた。
これは、偶然うまくいっただけだ。
応接室。
グラーデン、ローデン、ベルク。
三領の代表者が揃っていた。
誰もが疲れている。
そして、誰もが同じ不安を抱えていた。
「……次も、同じ判断ができるとは限らない」
ミヒャエルが、重く口を開く。
「昨日は、あなたがいた」
視線が、アルトに集まる。
「だが、
毎回“暫定”では耐えられない」
誰も否定しなかった。
エーリヒが、唇を噛んだまま言う。
「俺は……正直に言う」
俯いたまま。
「判断が、追いつかない」
拳を握りしめる。
「自分の領ですら、
守り切れるか分からない」
それは、弱音ではなかった。
現実を見た者の言葉だった。
アルトは、しばらく黙っていた。
そして、静かに口を開く。
「昨日、
俺は“暫定的に”判断を引き受けた」
誰もが、頷く。
「だが、
暫定という言葉は便利だ」
少しだけ、声が低くなる。
「失敗しても、
誰の責任か曖昧にできる」
空気が、張り詰めた。
「俺は、それをやらない」
アルトは、はっきりと言った。
「判断する以上、
責任も、結果も、
全部引き受ける」
誰かが、息を呑む音がした。
「だから、提案がある」
アルトは、机の中央に地図を置いた。
三領が、一枚の紙の上に並ぶ。
「非常時に限り――」
指で、三領をなぞる。
「全領域の最終判断を、
俺に委ねてほしい」
一瞬、沈黙。
それは、
支配でも、併合でもない。
だが――
権限の集中だった。
ミヒャエルが、慎重に言う。
「それは……
あなたを“上”に置くということだ」
「違う」
アルトは、首を横に振る。
「前に出るだけだ」
言葉を選ぶ。
「失敗した時、
一番に責められる場所に立つ」
それが、彼の言う“上”だった。
エーリヒが、震える声で尋ねた。
「……逃げないと?」
「逃げない」
即答だった。
「責任を引き受けるなら、
逃げ場は作らない」
その言葉に、
部屋の空気が変わった。
ラグスが、前に出る。
「……俺は賛成です」
拳を胸に当てる。
「昨日、
あなたの判断で誰も死ななかった」
それが、全てだった。
ミヒャエルは、目を閉じ、
ゆっくりと息を吐いた。
「……分かりました」
目を開く。
「非常時判断権を、
あなたに委ねます」
視線を、エーリヒに向ける。
エーリヒは、長く黙っていた。
やがて、深く頭を下げる。
「……お願いします」
その言葉が、
最後の承認だった。
視界が、静かに揺れる。
【領域支配】
恒常的指揮権を確認
条件達成:
・恒常指揮権
アルトは、息を止めた。
(……来た)
だが、UIはまだ続けた。
未達成条件:
・制度の一本化
・境界の確定
すべてではない。
だが、戻れない所まで来た。
アルトは、ゆっくりと立ち上がった。
「約束する」
全員を見る。
「俺は、
“完璧な判断”はできない」
正直だった。
「だが、
逃げない判断はできる」
沈黙。
そして――
誰も、反対しなかった。
会議が終わり、
それぞれが部屋を出ていく。
最後に残ったラグスが、ぽつりと言った。
「……重いですね」
アルトは、苦笑する。
「軽いと思ったら、
引き受けちゃいけない」
夜。
アルトは、一人で地図を見ていた。
視界の端で、UIが静かに告げる。
【領域支配】
統合率:72%
次段階:
・制度一本化
彼は、地図を閉じる。
「……次は、
仕組みを作る番だ」
個人の判断に頼らないために。
自分がいなくても回る形を作るために。
それが、
本当の意味で
“責任を引き受ける”ということだった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




