第18話 三領、同時危機
異変は、同時だった。
夜明け前、ほぼ同刻に三通の急報が届く。
「グラーデン領、北部で魔獣の大群を確認!」
「ローデン領、南街区で暴動発生!」
「ベルク領、主要街道が寸断されました!」
報告を読み上げる声が、重なる。
一つなら、対処できる。
二つでも、何とかなる。
だが――
三つ同時は、話が違う。
地図が広げられる。
三領それぞれに、赤い印。
ラグスが、歯を食いしばった。
「……判断が、分かれる」
ミヒャエルも、険しい顔で言う。
「各領の領主判断に任せれば、
対応速度は落ちます」
エーリヒは、俯いたまま呟く。
「……俺の領が、
一番遅れる」
誰も責めなかった。
それが、現実だ。
アルトは、黙ってUIを開く。
【重層領域支配】
警告:
同時多発危機を検出
統合率が不十分です
続けて、冷たい表示。
最適化失敗予測:
・判断遅延
・戦力分断
・被害拡大
(……足りない)
力が、ではない。
権限が足りない。
「各領で、個別に判断しますか?」
誰かが、そう尋ねた。
それは、安全な選択だ。
責任も、分散される。
アルトは、首を横に振った。
「それでは、誰かが必ず遅れる」
視線を上げる。
「……そして、
一番遅れた場所で、人が死ぬ」
重い沈黙。
エーリヒが、震える声で言った。
「……俺は、判断が遅い」
正直だった。
「俺の領で、
何かあったら……」
言葉が、続かない。
アルトは、はっきりと言った。
「だから、
俺が判断する」
全員が、息を止めた。
「待て」
ミヒャエルが、慎重に言う。
「それは……
全責任を、引き受けるということだ」
「そうだ」
即答だった。
「成功も、失敗も、
俺の判断だ」
それは、支配宣言ではない。
責任宣言だった。
一瞬の沈黙の後。
ラグスが、前に出た。
「……従います」
拳を胸に当てる。
「あなたの判断で、
俺たちは動きます」
ミヒャエルも、頷く。
「この局面では、
一本化が最善でしょう」
エーリヒは、深く頭を下げた。
「……お願いします」
その言葉が、
最後の鍵だった。
視界が、歪む。
【領域支配】
一時的全権委任を確認
統合条件を再計算します
赤い警告が、黄色に変わる。
権限:暫定統合指揮
(……来た)
アルトは、深く息を吸った。
「ラグス」
「はい!」
「グラーデン北部、迎撃。
時間を稼げ」
「了解!」
「ミヒャエル。
ローデンは鎮圧じゃない。
物流を回せ。腹を満たせ」
「承知しました!」
「エーリヒ」
「……はい」
「ベルク街道は、
捨てるな。
別ルートを即時開け」
「分かりました!」
命令は、短く、明確だった。
現実が、動き出す。
グラーデン北部では、
防衛線が整理され、
被害は最小限に抑えられる。
ローデン領では、
倉庫が即座に開放され、
暴動は空腹の前に鎮まる。
ベルク領では、
地元案内人が動員され、
新しい街道が即席で機能する。
完璧ではない。
だが――破綻しない。
夜。
被害報告が、次々と集まる。
「死者……ゼロです」
その一言で、
全員が深く息を吐いた。
だが、UIは告げていた。
【警告】
暫定対応は限界です
恒常的統合が必要です
アルトは、画面を見つめる。
(……やはり、ここまでか)
協力では、足りない。
調整では、追いつかない。
次は、引き受けるしかない。
夜更け。
アルトは、静かに言った。
「……次は、
責任を曖昧にしない」
誰も、反対しなかった。
それが、何を意味するか
全員が分かっていたからだ。
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