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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 山奥たける


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第1話 スキル空白

この世界では、

人の価値は“スキル”で決まる。


剣を振れれば戦士。

魔法が使えれば術師。


そして――

何も表示されなければ、無能。


スキル測定の日、

俺の結果は「空白」だった。


水晶は沈黙し、

周囲は同情すら浮かべない。


無能。

不要。

管理官としては危険すぎる。


そう判断され、

俺は辺境へ送られた。


だが後になって分かった。


表示されなかったのは、

俺が無能だったからじゃない。


この世界の測定方法そのものが、

俺を測れなかっただけだった。

王立高等学園・中央大講堂。

天井まで届く白亜の柱の間に、緊張した空気が満ちていた。


今日は年に一度のスキル測定式。

この国に生まれた者が、自分の“価値”を知る日だ。


壇上中央には、神代遺物《神印式スキル測定儀》が鎮座している。

半透明の水晶球と、それを取り囲む魔導陣。触れた者の魂を読み取り、スキルを可視化する装置。


「次、前へ」


名を呼ばれた生徒が一人、前に進み出る。

水晶球に手を置いた瞬間、淡い光が走った。


――《剣術 Lv2》

――《身体強化 Lv1》


「おお……!」

「戦闘系だ!」


講堂がざわめく。

教官が頷き、記録官が淡々と書き留める。


スキルが表示される。

それだけで、その者の将来はほぼ決まる。


戦闘系なら騎士団。

生産系なら工房。

統治系なら官僚。


スキルを持つ者が、正しい者。

それが、この国の常識だった。


次々と測定が進む。


――《農業 Lv1》

――《火魔法 Lv2》

――《補助魔法 Lv1》


派手ではないが、表示されるたびに安堵の息が漏れる。

“無”よりは、何でもいい。


そして――


「次。アルト・レインハルト」


呼ばれた瞬間、アルトは一歩前に出た。

周囲から向けられる視線は、興味半分、値踏み半分。


(いつも通りだ)


特別な期待も、不安もない。

ただ、測定を受けるだけ。


アルトは水晶球に手を置いた。


ひんやりとした感触。

魔力が流れ込む感覚。


――だが。


何も、起きない。


光らない。

文字も浮かばない。


水晶球は、ただの透明な球体のままだった。


「……?」


最初に声を漏らしたのは、周囲の生徒だった。


「今の……反応、あった?」

「表示、されてないよな?」


教官が一歩前に出る。

測定官が眉をひそめ、水晶球を覗き込んだ。


「……再測定だ」


アルトは無言で、もう一度手を置く。


結果は、同じ。


沈黙が、講堂を支配した。


「――スキル、測定不能」


測定官の声が、やけに大きく響いた。


「測定不能……?」

「そんなの、聞いたことないぞ」


教官は一瞬、言葉に詰まった後、咳払いをする。


「……スキル空白。

 すなわち、欠損者だ」


その言葉で、空気が変わった。


「欠損者……?」

「スキルなしってことか」


ざわめきが、嘲笑に変わる。


「マジかよ」

「運悪すぎだろ」


アルトは、何も言わなかった。

理解できなかったからだ。


(空白……?)


測定官は視線を逸らし、記録板に何かを書き込もうとして――

ふと、手を止めた。


板をもう一度見つめ、

水晶球を見て、

アルトを見る。


その顔から、血の気が引いた。


「……」


測定官は、何も言わず、記録板を閉じた。

代わりに、教官へと小声で囁く。


アルトの位置からは聞こえない。

だが、その言葉は、はっきりと読めた。


「……上に、報告を」


教官の眉が、わずかに動いた。


「アルト・レインハルト」


呼ばれて、アルトは顔を上げる。


「本日の測定は以上だ。

 君は――後で、別途指示を受けるように」


それは、他の誰にも言われなかった言葉だった。


アルトが壇を降りると、周囲の視線が刺さる。


好奇。

嘲笑。

そして、どこか――恐れに似たもの。


だが、アルト自身には分からない。


なぜ、自分だけが。

なぜ、誰も説明してくれないのか。


講堂の奥で、測定官がもう一度、水晶球を見た。


そして、誰にも聞こえないほど小さく呟く。


「……表示されない、か」


その声は、安堵と緊張が入り混じったものだった。


測定式が終わった後も、講堂のざわめきは消えなかった。


「スキル、出なかったよな」

「欠損者って……本当に存在したんだ」


アルト・レインハルトは、列の最後尾を歩きながら、周囲の声を聞いていた。

聞こえないふりをする必要はなかった。

彼らは、隠す気もなく話している。


(欠損者……)


その言葉が、頭の中で何度も反響する。


意味は分かる。

だが、納得はできなかった。


測定官に呼び止められたのは、講堂を出てすぐだった。


「アルト・レインハルト。こちらへ」


案内されたのは、学園内でも古い棟の一室。

窓は小さく、机と椅子が最低限置かれているだけの部屋だった。


そこにいたのは三人。


測定官。

学園教官。

そして、見覚えのない男――中央から来たという役人だった。


「座りなさい」


言われるまま、アルトは椅子に腰掛ける。


「結論から言う」


教官が、事務的な声で告げた。


「君のスキルは、測定不能だった」


「……はい」


「よって、学園の通常課程には進めない」


一瞬、言葉の意味が頭を素通りした。


「通常……課程?」


「代わりに、“矯正課程”へ進んでもらう」


その言葉に、測定官がわずかに視線を伏せた。


「矯正課程とは」


役人が、淡々と補足する。


「スキル欠損者、または社会適応に問題のある者を対象とした特別課程だ。

 主に雑務、基礎労働、規律訓練を中心とする」


要するに――


「……下働き、ですか」


アルトの言葉に、教官は即座に頷いた。


「そうだ。君には、専門教育を受ける資格がない」


「理由を、聞いても?」


測定官が、ぴくりと反応した。


「理由?」


「スキルが表示されなかっただけで、

 ここまで扱いが変わる理由です」


一瞬、沈黙。


役人が口を開く。


「この国では、スキルは“役割”だ。

 役割を持たぬ者に、専門教育は不要」


正論だった。

この国の、揺るがない正論。


「君は、価値がないわけではない」


教官が続ける。


「だが、“使い道”がない」


その言葉は、丁寧に選ばれていた。

だからこそ、残酷だった。


「今日から君は、矯正課程の所属となる。

 測定結果は――」


教官は一瞬、言葉を切る。


「“スキルなし”として記録される」


アルトは、拳を握りしめた。


「……一つ、質問を」


「許可する」


「もし、測定が間違っていた場合は?」


その瞬間、測定官が明確に顔色を変えた。


「ありえない」


食い気味に、そう言った。


「神印式測定儀は、間違えない」


「ですが、“表示されない”という事象が起きた」


「それは――」


測定官は言葉を止め、役人を見る。


役人は、静かに首を横に振った。


「それ以上の説明は不要だ」


空気が、凍った。


「アルト・レインハルト」


役人が名を呼ぶ。


「君は今日から、“欠損者”として扱われる。

 それ以上でも、それ以下でもない」


アルトは、ゆっくりと息を吐いた。


(説明は、しないのか)


分からないのではない。

説明しないと、決めている。


「分かりました」


その返事に、三人はわずかに安堵した。


「理解が早くて助かる」


教官はそう言って、書類に署名する。


「では、退出していい」


アルトは立ち上がり、扉へ向かう。


背中に、役人の声が投げられた。


「……余計なことは考えない方がいい」


アルトは振り返らなかった。


廊下に出た瞬間、空気が変わった。


すれ違う生徒たちの視線。

さっきまでと、明らかに違う。


値踏みではない。

分類だ。


「……欠損者」

「近づかない方がいいぞ」


誰かが囁く。


アルトは、歩みを止めなかった。


だが、胸の奥に、どうしても消えない疑問が残る。


(なぜ、あの測定官は――

 あんな顔をした?)


恐怖。

焦り。

そして、ほんのわずかな――安堵。


「……分からないな」


アルトは、小さく呟いた。


自分が無能だという宣告よりも、

説明されなかったことの方が、ずっと引っかかっていた。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


当面の間は、1日に3話を投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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