84プレイ目 ヴィスタ
ハロウィンイベントは現実の時間で2週間続いた。
ポイントを獲得した時ではなく、アイテムと交換した時に貢献度もわずかに上がることが判明してしまい、飢えていたプレイヤーたちはさらに狂乱したらしい。
椛はのんびり街の外に出ていたので、あまり関わらずに済んだ。
「あ、ロウガイ、どう?どう?オオカミ耳」
「何故獣人がヤマト国の民族衣装を来ているのか、という目で見られておらんか?」
「些細な問題だよ、ロウガイくん」
オオカミ耳を付けているのは、もちろん玄幽だ。召喚獣の中でも唯一装備を付け替えできる玄幽は、見た目装備も問題なく装備できたのだ。
犬派の椛は自分で付ける気はないが、付けている人を見るのは好きである。
玄幽にはなかなか似合うので満足だ。
王都ヴィスタでロウガイに会ったので声をかけたら、呆れられてしまったが。
イベントは昨日終了しているので、街は元の静けさを取り戻していた。文字通り駆け抜けたプレイヤーたちは果てていることだろう。
「ロウガイは大魔導士セットは使わないの?」
「宮廷魔導士に似ていて紛らわしいからやめろと言われてしまったのじゃ…」
「運営よ…」
なんでそんなデザインをイベントの報酬にしたのか。
せめて使えるものにしておけ。
「まあ、流行りで使いたがる者が多くて、逆に埋没するからもういいのじゃ」
「ハロウィンじゃなくても使えるデザインだったのにね」
季節ものはシーズンが終わると使いにくいので、コレクション要素が強くなってしまう。
だから汎用性が高いデザインのほうが使いやすいものだ。
狼男も耳としっぽだけなら、ハロウィンじゃなくて獣人の真似でしかないし。
ちなみに猫娘セットはなかったので猫派が怨嗟の声を上げていたが、きっといつか妖怪イベントでもあるのだろう。あるといいね。
そんな話をしながら冒険者組合に2人で行くと、イベントの後日談のような話が聞けた。
盗難被害に遭った盗品が全て戻って来て、無事に解決しました、というだけの話だが。
「じゃあアンセムに戻って、今度こそ教官殿に指導してもらうんだ…!」
「この王都の特殊クエストは確認したのかのう。ランクが上がると増えることもあるのじゃぞ」
「…何故今言った!?」
「イベント中は邪魔になるかと思ってのう」
イベントと同時進行で片付けられたよ!と言いたかったが、確認したら片付かなかっただろうクエストもあった。
「ああー、なんかいい感じのアクセサリーが報酬のクエストがあるー。街中クエストに」
「どんなアクセサリーじゃ?」
「装備すると雷属性が25%付くやつ。海で活躍する、間違いなく」
「付与魔法より強いじゃと?…ワシには出てないな」
ロウガイががっかりしているが、職が条件になっていることが多いので、メインもサブも違うから仕方がない。
「幻獣図鑑に載っていない召喚獣を3体見せるって内容だから、そのうち条件をクリア出来るかもね」
「召喚士以外は当分無理じゃな」
椛も救援クエストでギリギリ3体と契約できていただけだ。
いくつか他の情報が出ているのは知っているが、現地に行くのが大変なのだ。
今はアンセムに帰りたいし。
「えーと、シゲミと陸と紺碧!3体いる!」
「その連れてる召喚獣は違うのかのう」
「ガア!」
「あー、そうだったネ」
毎日顔を見過ぎて、そんな珍しい幻獣だったことを失念していた。玄幽にも怒られてしまった。
謝りながらクエストを受けて、他にもクリア出来そうだったので2つ受けておいた。
帰るのが1日遅くなったのだった。
クエストで指定されている場所は、王都の北西部にある魔術学園の近くの研究所だった。
召喚術を専門に研究している者はいないが、手に入るのなら幻獣の情報も欲しい。その程度の熱意の依頼だったらしい。
〈召喚士友の会〉は10人くらいしかいないし、ここの研究所にも入れてもらえないし、召喚士の不遇さがさらに際立った。
「冒険者組合は現地に行かないと分からないとかふざけた返事をしていたが、何故国内のイスタルの街の情報すら王都で把握できないのか…」
「救援クエストは召喚士以外が聞いても、現地でも教えてもらえなかったって話も聞きましたね」
組合もけっこう融通が利かないお役所仕事をしていることがあるものだ。
儲け話と悟った瞬間に捻じ曲げ始める商業組合のほうも大概だが。
果物の苗の件で行った時に「そんなものは利益の前では無力ですよ」と迷言を言い放っていたものだ。
どんな利益を見込んだのか良く分からなかったが。
それはともかく、召喚獣たちを見せてクエストは無事にクリア出来た。
続きがありそうだが、また報酬がおいしいのなら大歓迎である。簡単だし。
「そういえば伝説の魔神は知っているかね」
「この世界って伝説が多いッスね。初めて聞きました」
「確かに様々な伝説があるからな。魔神とは魔界の存在で、地と水と炎と風の4種類が伝えられている。幻獣ではないが召喚士なら契約できるらしい」
「火じゃなくて炎?」
「うむ、そう伝えられている」
何かしらのこだわりを感じるが、制作者の個人的なこだわりかもしれない。
「どこかのダンジョンの奥に封じられているらしいが、これまた組合の連中がな」
「現地で聞いて下さいってやつですね」
「情報を整理して共有する程度の知能もないのか、あいつらは!」
そっとクエストリストを見ると、伝説の魔神というものが増えていた。このクエストの発生条件だったのかもしれない。
ここでフラグを立てることが必須とは思わなかったが、情報を得る機会になっていたようだ。
あとで図書館で調べてみようと思った。
他の事をこなすとすぐに忘れてしまうほうの椛だが、今回は別のクエストを2つクリアしても図書館のことを覚えていた。
しかし館長の存在は忘れていた。今日は頼りになる司書さんがお休みの日だった。
「ワルツのリズムで回る緑の子!」
「…なんで人の顔を見るなり契約してるぽよぽよのことを言い当てるのか…」
「契約者を覚えておけば会えるからね!」
仕方がないのでぽよちーを召喚する。
玄幽が何こいつという様子で館長を見てから、何故か椛を見て納得していた。
「何を納得したの!?」
「ガウ」
玄幽がジェスチャーで伝えて来た。
流星を愛でる時と同じだな、と。
器用なことしやがってという気持ちと、否定できない気持ちで肩を落とした。
「あ、館長、伝説の魔神って知ってる?」
「どこで聞いたの?資料は閲覧制限があるから出せないよ」
「禁書か何か…?」
「そこまでじゃないけど、詳細は教えたくないってところかな。かなり強力な召喚獣になるらしいからね」
館長はぽよちーに夢中だが話は聞こえているようで、きちんと答えてくれた。
椛は受けたクエストと研究所で聞いた話を簡単に伝えておいた。
「ああ、情報を集めたいから、わざと教えたんだね」
「そうだとしても、こっちも情報は欲しいからなー」
ギブアンドテイクである。
利用されていても、利用し返すくらいでないと何の情報も入って来なくなるだけだ。
一方的な利用なら縁を切るけど。
「本の内容は言えないけど、そうだねえ。炎の魔神は大柄な体に筋肉もりもりで、なんかカッコいいらしいよ」
「…肉弾戦もこなすの?」
「え?火魔法特化だよ」
ただの見せる筋肉だった。
ボディビルダーだろうか。
「挿し絵を見たエドワード殿下が一目惚れしてたんだよ。お可愛らしいよね」
「王子様?2人いらっしゃるのは聞いたかな」
「そっか、この国の民じゃないからか。エドワード殿下は第二王子様だよ」
マッチョに一目惚れをするくらいの年齢なのだろうか。まだ美女より筋肉に興味があるような。
「殿下は無邪気なところがおありになるからねえ。聡明でお優しくて城でも侍女や女官たちに人気がおありだよ」
館長は自国の王子というだけで持ち上げる性格にも見えないが、身内びいきということもある。
「ふうん、王様はどんな方?」
「ん?無能…じゃなくて、暗愚…も駄目か。自分のことしか考えてない人間だよ」
…身内びいきとかしないタイプすぎた。
何を言い出すか分からないので、それ以上館長に聞くのはやめた椛だった。




