83プレイ目 ヴィスタ
ルヴィスの街はハムスターを求める非常識派プレイヤーが多くて危険なので、椛は早々に王都ヴィスタに移動して来た。
本当はそのままアンセムに戻るつもりだったが、教官たちが相手をしてくれないのに急いで帰る理由もない。
それにログインしたらハロウィンイベントが始まっていたのだ。
詳細は開始時まで伏せておいて、サプライズを狙ったようだ。
「わざわざ隠すような内容じゃない時ほどサプライズしたがる運営、あるあるだと思います」
「全くじゃな」
ずっとヴィスタにいた訳ではないらしいが、ここを拠点にしているロウガイに会ったのでロウガイの行きつけのカフェーでコーヒーブレイク中だ。
カフェーと呼ぶのはロウガイだけだが。
スイーツと軽食が注文できたので、椛はベリーのタルト、玄幽はサンドイッチを頼んだ。
「いたずらゴーストに盗まれた宝を取り戻そう…お宝ポイントを貯めるとハロウィンの限定アイテムと交換できるぞ…」
「目新しさがないのう」
「盗難事件ってコレだったのね、知ってた」
ほぼ予想通りで、逆にびっくりだ。もう少しおかしいイベントでもやる気かと思っていたものだ。
「いたずらゴーストってn番煎じってやつでは…」
「黙っておるのが武士の情けというものじゃ」
「ガウ」
玄幽が分かっているのかいないのか、何故か重々しく頷いている。
野武士っぽい着物と言っていたのを覚えていたのだろうか。
「でも街ごとにポイントが違うから、イベント中は移動しないほうがいいかな」
「街ごとに景品が違ったら…炎上していたじゃろう」
「やりそう…」
そういうイメージが付いてしまったというだけで、そこまで酷いイベントではない。
他に何か隠していなければ。
「でも狼男セットは良いな。玄幽に耳としっぽを付けてやる」
「ガウ?」
「ただのアクセサリーだよ」
インナーの服とも少し違う、見た目を変えるだけのアイテムだ。他に肉球ハンドや肉球シューズもセットにあるが、そこまではいらない。
ハロウィンにちなんだコスプレ衣装が何種類かあるので、ロウガイも「この大魔導士セット、なかなか良いのう」と眺めている。
女性用は大魔女セットがある。
「ジャック・オー・ランタンはアイテムのランタンなのか」
暗い所で必須になるランプの、イベントデザインのアイテムだ。これも見た目が違うだけで性能は同じようである。
でもハロウィン期間以外は使わないかな、と椛は思う。可愛いのだが。
他にもハロウィンのイメージのデザインが可愛い家具なども多い。家具を飾れる家を持っている人などまだいないことを除けば、どれも人気が出そうだ。
「高性能の武器とかはないね」
「これ、RPGじゃないからのう」
「便利な言葉ですこと」
このゲームのジャンルはあくまで『異世界生活シミュレーション』なのだ。
冒険者プレイを選ぶとRPGっぽいだけで。
つい景品のほうばかり注目していたが、椛は改めてポイントの集め方を確認した。
「あのさ、ロウガイ」
「なんじゃ?」
「ポイントはあくまでいたずらゴーストからお宝を取り戻したらもらえるって、どういう意味だと思う?」
「…生産職はどうするんじゃ?」
「知らん」
街の中にも隠れてるのかな、と頭を抱えるハメになった。
隠れているものを見つけると言えば、仲間になったばかりの公星の星影の出番である。
星影をかくれんぼ師匠と慕う流星の頭の上で、腕組みをしてフンスと仁王立ちをしている。
とりあえず可愛かったのでスクショを撮っておいた。
もちろん師匠と一緒でご機嫌の流星も可愛い。
王都の北に推奨レベル50の雷鳴平原もあるが、今回は東側の森に来ていた。ここは推奨レベル45だが、平原よりゴーストが隠れていそうだなと思っただけだ。
普通の魔物を倒して進むと、たまにいたずらゴーストも出て来る。だが隠れているいたずらゴーストもいて、星影が指摘して姿を現すまでバトルにはならなかった。
常時召喚枠が1つしかないので、星影のCTが切れて送還している間は流星が張り切って探してくれた。
見逃しもありそうだが、なかなかの発見力だった。
そんな感じで余計なことを忘れてポイント集めをするのは、イベントらしくて楽しい。
ポイントの回収率も、狙っているアイテムくらいは交換できそうなのでモチベも上がる。
だが街に戻れば、イベントの仕様を理解してしまった生産職と思われるプレイヤーたちが初日からフルスロットルだぜ、という勢いで駆け回っていた。
今回は本気で参加する様子のない住民NPCたちが異様なものを見る目を向けていたものだ。
椛は裏通りのほうにある喫茶店に入って、甘いジュースを注文してからフレンドリストを確認した。
[イベントの検証で忙しいだろうけど、聞いてもいい?とりあえずハムスターがいるといたずらゴーストの発見率が高かったよ]
検証クランのシラベにチャットを送ると、少し間を置いてから返事が来た。
[むしろ言い訳できて助かった。でもその情報は隠しておきたい]
[ですよね。やっぱり生産職は街の中で探し回るしかなさそう?]
[自分でもバトルする生産職は仕方がないって外に行くけど、それ以外は今のところそんな感じ。他の方法を早く教えろって無理難題を喚かれてる]
自分で探しもしないで、ただの1プレイヤーに当たり散らしているらしい。
検証クランは趣味で検証しているだけで、お前らのシモベでも手下でもないんだぞ、と部外者の椛でも思うのに。
運営はなんでこんな仕様にしたのやら。
[じゃあ、盗まれた宝を見つける、つまり被害者に盗品を返してあげるイコール貢献度がもらえるって説は?]
[検証したい。でもさらに目の色を変えて喚くのが分かる…]
[こんなところにいないで探しに行けって追い払いなよ]
シラベは確証がないからなあとボヤキながらも、その可能性を示唆して検証したいと逃げるそうだ。
貢献度が欲しいと喚いていたのもきっと似たような連中だろうし。
チャットを終えて、その間に届いていたジュースを飲む。今日はアップルにしたので、甘いけれどさっぱりした後味だ。
思いつきで言ってみた貢献度も一応確認はしたが、最後に見たのがいつか分からないので増えた気もするがイベントは関係なさそうでもある。
椛はちょっと考えて、他に店内にプレイヤーはいないことを確認してから星影を召喚した。街の中が戦場のようだったので玄幽は送還したままだ。
「ねえ、星影。このお店の中にいたずらゴーストはいる?」
また用かい?というように首をかしげた星影は、椛の質問に店内を見回すと「あそこだ!」と指をさした。
すると隠れていたいたずらゴーストが「きゃーっ」とばかりに出て来て、そのまま消えた。
森ではバトルになったが、街の中は発見するだけで良いらしい。
「わあ、なんですか、今の!」
「盗難事件の犯人?のいたずらゴーストだって。あちこちに隠れてるらしいよ」
店主や客たちも驚いていたが、代表のように聞いてきた給仕に答えるとアレがそうなのかと納得していた。
NPCたちにもお触れは出されているのだ。
「店に入られるなんてなんたる不覚…このネズミちゃんはすごいですね」
「ハムスターの召喚獣で、探しものが得意なんだ」
星影がここぞとドヤっている。
けっこうお調子者だ。
「なんかご褒美目当てで駆け回って探してる移住者が多いけど、お店の中にもいたことは内密に…あの勢いで店まで入ったら…」
「あー、はい。外の人たち、アレを探してたんですねえ」
「そういうことだったのか」
椛は基本的にNPCの味方なので、プレイヤーに不利になろうが構わず口止めしておいた。
住民たちもわざわざすごい形相のプレイヤーたちに教えはしないだろう。
それにしてもハムスターがイベントの特攻キャラすぎる。
他の人も気付くだろうが、余計なことを言わないといいなと思ったのだった。
いたずらゴーストは人魂モチーフの、良く見る可愛いモンスターを思い浮かべていただければと




