82プレイ目 ルヴィス
椛はルヴィスの街の近くにある、ハムスターの幻獣が棲むという遺跡フィールドに来ていた。
南米の森の奥にありそうな外観の大きな遺跡である。その遺跡の頂上にある入口の前にいた。入口の前に祭壇があった。
祭壇の周りを検分するように飛んでいたバルムンクだが、あまりピンと来なかったようでがっかりしていた。
イメージと違ったのだろう。
「こういうのって生贄を捧げる祭壇って感じだから、合わないかもね」
椛もそう感じるのだから、方向性が違いすぎた。
「石の台座ならまだ、そこに安置してたって雰囲気が出たのに」
そうそうそう!とバルムンクが頷いている。
「もしくは選定の剣っぽくがっつり刺さってたら挑戦者を待ってたムーブが出来たのに」
刺さる場所がないし、デザインが合わない。
祭壇を片付けて小道具の台座でも持ち込みたいところだ。
そういえば石工って生産職だかスキルがあったような、と考えているところに流星が「早く行こうよ」と急かして来たので、脱線しかけていた椛はうなづく。
バルムンクも中にいい場所あるかもと移動していた。
祭壇の側にある迷路の入口を覗けば、遺跡内へ向かう階段が延々と続いているように見える。最低限の光源を保つ壁掛けの松明はあるが、先は薄暗くて見通せなかった。
組合の資料室で確認した情報では三層からなる迷路で、遺跡内ではマップの機能が働かなくなる。出口は最下層にあるが、一方通行で再度入るなら頂上に戻るしかない。
救済措置として「ギブアップ」と言えば入口に転送してもらえるらしいから、出られなくなる心配はなかった。
どう考えてもゲーム的な都合だが、たまにはそんなカジュアルな迷路で遊んで欲しいと思ったのかもしれない。
苦情とかSOSが殺到して面倒になると悟って先に対策しただけかもしれない。
どちらにしろ気軽に挑めるのは確かだ。
マップが使えれば解決するなんてそんな、迷路の存在意義がなくなることを言うものではないのだ。
流星を先頭にして階段を降りて行くと、一層目というより構造上は三階にあたるフロアに着いた。ここからマップが使えなくなっている。
さっそく通路が分かれていて、前方に真っ直ぐ伸びる道と左右に伸びる三叉路になっていた。
「出来ればクリアしたいけど、1番の目的は手のひらサイズのハムスターの幻獣を見つけることだよ。次にいい感じの撮影スポット探し」
隠し部屋や隠し宝箱もあるらしい。
もちろん推奨レベル50の魔物も出没するので、油断できない。
「ハムスターは白とか灰色とか茶色とか、個体によって色が違うらしいけど、『隠れる』ってスキルを持ってるから見つけにくいんだって」
気付かずに素通りする可能性もあるのだろう。
1体ずつ遺跡のあちこちに隠れているようだが、生息数はそれなりに多いと考察されていた。
好みの子を求めてあえてスルーして進んだというプレイヤーも、何体か発見できたらしいのだ。
椛は最初に見つけた子で良いやくらいにしか思っていないが、流星が「全部見つけちゃうぞー!」と張り切っていた。
時間に余裕はあるので、できるだけ付き合うつもりだ。
うろうろして迷っていた流星が、まずはこっちと左の通路を選ぶ。誰も反対しなかったので、流星の勘を頼りに進み出したのだった。
最初の隠し部屋を見つけたのは、ずっと椛の肩に乗っていた賢翼だった。
先を越された流星ががっかりしてから、次は負けないぞと闘志を燃やしていた。
隠し部屋の扉は、壁の中の1か所だけ色の違う部分を押すと開くいうベタなものだったが、言われないと気付かないくらいの差だ。
宝箱でもあるのかと期待したら、中ボスがいた。資料に載っていたが1番に出ることはないと思うのだ。
中ボスの名前はドグハニー。
土偶と埴輪を足して2で割ったような外見をしていた。たぶん。
詳しくない椛は土偶と埴輪の違いがイマイチ分からなかったが。
ボスと言ってもそれほど強くなく、ドロップがおいしい訳でもない。
ただ『ドグハニーの像』という限定アイテムが確定で入手できるだけだ。
確定ドロップなので珍しくはないし、高く売れるでもない。高さ20CMほどの大きさなので、棚などに飾りやすいサイズだ。記念に持っていても良い。
そのままアイテムポーチの肥やしになる気がしているが。
その後も迷路をうろうろして、途中で階段を発見したので2階に降りて見た。3階の3分の1が未探索だったが、流星が降りたそうにしていたのだ。
このあたりで召喚獣のCTの問題でメンバーを入れ替えた。
遺跡に出る魔物はミイラにゾンビ──ではなく、ゴーレムが多い。体の中心に属性を主張するコアがあるので倒しやすいあのゴーレムさんである。
つまり小妖精のブルーが活躍する場所だった。
バルムンクの打属性攻撃も効いていたが。
「地属性の陸と水属性の紺碧、そして嵐(風)属性の賢翼…火属性もいれば楽だったのに」
足りない属性はバルムンクの攻撃や魔法玉で賄っていたが、ブルーのおかげで2階はサクサク進んだ。
MPという制限もあるから、ずっと行ける訳ではないのが残念だ。
隠し部屋や隠し宝箱、隠れていない宝箱も見つかって攻略は順調だが、ハムスターはまだ見つからない。
「かくれんぼが上手いハムスターだね」
「くうん…」
流星もなかなか見つけられなくて、ちょっと元気がなくなって来た。難しすぎると萎えるものである。
斥候系のスキルが必要とは聞いていなかったが、少し上がっている椛の気配察知スキルでは魔物の気配しか見つからないし。
探し方を変えないと駄目なのかな、と思い始めたところで月牙が流星に何か合図を送った。
いや、さり気なく誘導したのかもしれない。
流星は大好きな月牙の呼びかけに甘えながら応じていたが、途中ではっとして「あんあんっ!」と元気に吠えた。
椛は何も気付いていなかったので、驚いて流星の示す先に目を向けた。なんか白いのがいる。
そう思ったところで流星が白いものに駆け寄って、はむっと咥えて戻って来た。
見つけたよ!すごい?すごい?と褒め言葉を期待するきらきらの目と、ブンブンと元気なしっぽの動きが可愛い。
もちろん椛は手放しで褒めた。ワシャワシャと撫で回した。玄幽が便乗しても放っておいた。
満足するまで流星にかまってから、ようやく白い物体を受け取った。ずっと流星にぶら下げられていたせいか、ぐったりしていた。
「あ、ごめんね。ハムスター君」
手のひらサイズのハムスターだった。
掲示板でいくつかスクショで見ていたが、人気になるのが分かるデザインだ。
特徴的なデザインなどいらない。ただ可愛いを優先してリアリティよりアニメちっくなデフォルメを加えるだけで良い。
そんな感じ。
「ところで契約してもらいたいんだけど、大丈夫?」
かくれんぼに負けたら、勝負は決まったとばかりに契約してくれるという噂だった。
でもちょっと放置しすぎて怒らせたかも。
椛が少し反省していると、ハムスターは右前肢を上げて、グッと親指を立てるサインを送って来た。小さいのに芸が細かい。
同時に契約が成立していた。
「おお、よろしく。えっと【公星】…ルビが振ってない…」
コウセイか?と首をかしげた椛ははっと気付いた。
「公星…!」
名前がダジャレすぎる。
良く見たらハムスターの後ろの首のあたりに目立たないがうっすらと星のマークが入っていた。
月牙の額の三日月はすぐ分かるが、こちらは隠されているようだ。
かくれんぼが好きすぎる。
「名前は色を見て決めよう、白かったら中二御用達のドイツ語のヴァイスでいいかなって思ってたのに…星影って忍者っぽい名前にしたくなってるわたしがいる…!」
ブルーの名前がマシに思える椛のネーミングセンスでは、事前に考えてもこれが精一杯だった。ホワイトよりマシだろうと思ったのに。
当のハムスターが、星影の名前のほうに反応しているのも悲しいポイントだ。
「星影がいいの?」
右前肢で親指をグッと立てる。
可愛いのに、という気分になったが、本人の意思を尊重しておいた。
こうして仲間が増えた椛一行は、時間はあるのでゴールまで迷路を楽しんだ。
新入りが迷路の構造を知っているのか、それとも能力なのか、隠し部屋などをすぐに見つけて、かくれんぼしているハムスターまで見つけてくれたので、流星が「かくれんぼ師匠!」と尊敬の眼差しを注ぐようになっていた。
ちなみにゴールの少し手前で宝物庫を発見し、宝箱が3つあったのも良かったが、バルムンクの撮影会も無事に行うことができた。
宝箱の中身以外は持ち出せない背景のような物だったが、これでもかと豪華だったし、そんな中に紛れた錆びた大剣というのも物語性が出せたのだ。
期待させておいて何もなかったらどうしようと思っていたので、本当に良かったとほっとしたものだ。
椛が公星という種族名を初めて見たような反応してますが、見たけど読み流して忘れたとかハムスターとしか認識してなかっただけです
と言い訳できて便利な性格だなって思いました
宝箱は1人1回中身を獲得できる仕様なので、早い者勝ちなどはありません
ただし中身は消費アイテムばかり
ここはダンジョンではなくフィールドなので、他のプレイヤーと遭遇することもあります
作中に書いとけよという補足が多くて申し訳ありません
サムズアップという単語が出て来なかった回




