81プレイ目 ルヴィス
アルヴィーナ王国のルヴィスの街といえば、なんと言ってもストロベリーである。
椛は真っ先に直売の屋台を探してしまったが、この街に来たのは幻獣探しのためだ。でもこの街に来て買わずに帰るという選択はありえなかった。
玄幽も「美味い!」という顔で食べていたものだ。
美味しすぎて、もっとよこせと強請られた。
「玄幽はお値段も考えて!ストロベリー1個と梨2個が同じくらいの値段なの!」
「ガウ…?」
リンゴや梨は1個10Rだがストロベリーは1個20Rだ。
そこまで高い訳ではないが比べると高く感じる。大きさ的にストロベリーは一度に数個は食べたいし。
玄幽は計算が出来るのか出来ないのか、指折り数える仕草で驚いていた。
「でもそのお値段に納得できるから買ってしまうのだよ…」
「ガウ…」
そこは玄幽も深く頷いていた。
懐に余裕があれば、もう少し買って帰りたいものだ。
などと寄り道してから、冒険者組合に向かった。幻獣の生息地の情報を調べるためだ。
手のひらサイズのハムスターがいるはずなのだが、棲みついている場所が遺跡らしいのだ。しかも迷路タイプの。
ダンジョンではないが、だいぶややこしいフィールドになっているという話だった。
冒険者組合の中は、何故か戦闘職に見えないプレイヤーがひしめき合っていた。
混雑しているので玄幽は送還してから中に入った。
人は多いが受付は空いているし、椛は気にせずに受付嬢に声をかけて冒険者カードの照合をしてもらう。
「資料室を使いたいんだけど、上も混んでるの?」
「いえ、資料室の利用者は少ないはずです。みなさん、幻獣を探していらっしゃるとかで同行者を募集なさってますね」
「え、レベル50のフィールドに非戦闘員を連れて行ってくれる人がいるの?どこの聖者かな」
「護衛依頼でしたら相応のお値段になりますからね」
受付嬢の笑顔が眩しい。
きっとお話にならない報酬で連れて行けとゴネてた奴でもいたのだろう。
「そういう相場はプロに相談すればいいのにネ」
「ご相談には応じさせていただきますが、値切り交渉は受け付けておりません。規定で定められていますので」
「お礼の気持ちを上乗せする依頼者はいても、値切る人は見たことないわー」
そんな奴の依頼など絶対受けたくない。
椛はわざと大きな声で言ってから、絡まれる前に2階の資料室に向かった。
追いかけて来る者はさすがにいなかった。
資料室に入ると、受付嬢の言う通り利用者は2~3人で職員が1人いるだけだった。
「うーん、ハムスターの生息地の資料は出払っている感じ?」
「君も幻獣が目当てなの?」
「召喚士なので!」
図書館の司書の雰囲気がある女性職員に冒険者カードを提示して見せる。メイン職はそれで確認できるのだ。
とはいえ召喚士以外が契約したがるのはおかしな話ではない。人が殺到しているからNPCたちに訝しく思われているのだろう。
「なんていうか、移住者って流行りものに弱いから。誰かが自慢すると我も我もと殺到するところがあるんだよね」
「そういうことなら分かるわ。新製品が発売って聞いたら殺到するのと同じね」
「遺跡にいる幻獣が手のひらサイズで可愛いよって話題になってたから」
「挿し絵はただのネズミだったのに、実物は可愛かったの?」
資料が空くまで職員さんと雑談して過ごした。他の資料を見ても良かったのだが、そんな気分だったのだ。
先に来ていた人たちがなかなか終わらせてくれないので、ちょっと長話になってしまったが。
遺跡の探索に時間がかかるだろうから、資料を見たあとは街をブラついて過ごした。
時間に余裕を持ってログインできる日に、改めて幻獣の棲む遺跡に向かった。
タダ同然で連れて行けと喚く者に付きまとわれたりもしたが、騎獣すら持っていなかったので街の門のところで「歩いて行くとか正気ー?」と笑って置き去りにしておいた。
非常識なプレイヤーってどこにでもいるんだなとうんざりした。
掲示板に何か書かれるかもしれないが、もう気にしないことにしたのだ。最近、召喚獣自慢スレしか見てないし。
「あーあ、流星を召喚する間もなかったよ、月牙」
「うおん」
月牙はスピードを緩める素振りもなく駆ける。
めんどくさい系プレイヤーが多かったので玄幽は召喚してなかったから、素早く脱出できたと言える。
遺跡のあるフィールドは森の中だが、その手前は草原になっていた。おかげで爽快な走りで目的地の近くまでやって来れた。
「…もしかして、いつも流星に合わせてスピードを抑えてた?」
「…おん」
内緒だよ、とばかりの控え目な返事だった。
それは全然かまわないというより感謝するところだが、椛が月牙の実力を侮っていたというか、見誤っていたことが申し訳ない。
激レア枠の月狼は、珍しいだけではないのかもしれない。
そんなことを思いつつ流星を召喚すると、ここどこ?と森と草原を見比べて、気付いてしまったようだ。
「ボクも一緒に走りたかったのにー!?」と怒って拗ねて、月牙に宥められてもまだ拗ねていたが、落ち着きはしたようだ。
その間に召喚した玄幽が、モフりたいのに今はマズそうと諦めていた。案外気遣いの出来る子になっている気がする。
「ごめんね、流星。めんどくさい人に絡まれて、急いで逃げて来たから呼んでるヒマもなくて」
「…くうん」
「帰りは一緒に走ってね。玄幽も流星に乗りたいって」
「ガア!」
乗りたいんじゃない、モフりたいんだ!と言っている気もしたが、流星が気にしていないのでセーフのようだ。
「今日は森の遺跡でかくれんぼしてる幻獣を探して、仲間になってもらうよー!」
「あおんっ!?」
かくれんぼ!?と流星のお目々がきらきらして来た。可愛い。単純可愛い。
「手のひらサイズの、ネズミっていうかラットっぽい外見なんだって」
「あんっ」
「遺跡だからバルムンクが好きそうだし、賢翼も好きかな…あいつの好みはまだ分からんな…」
一応は時間のある時に神殿に連れて行っているし、街歩きに同行させてみたが、興味を示す物の傾向がイマイチ分からなかった。
1万Rで買った『神話大全』全10巻セットも、やはり読めるわけではなかったし。
読まないが表紙を眺めて満足していたから、完全に無駄だったわけではない。
でも1万Rは痛かった。
アンセムに帰ったら金策頑張ろうと思いながら、賢翼とバルムンクを召喚する。
遺跡の話をすると思った通りにバルムンクは喜んでいた。
賢翼は澄ましているだけなので好みではなかったようだ。
とりあえずはこのメンバーで森に入る。遺跡はさほど奥にあるわけではないので、何体かの魔物を倒しながら進めばすぐに見えて来た。
遺跡と一言で言っても、外観に違いがある。
ここの遺跡は椛が知っている中だと、南米のマヤとかアステカ遺跡っぽい。
詳しくないのだが、森の中に佇む雰囲気もまさにそれだ。
ただ、中が巨大迷路になっているせいか、スケール感が異なる。やたらデカい。
「入口は頂上の祭壇のところだっけ。外階段が長げえ…」
「あんあんっ」
流星が楽しげに駆けのぼる。バルムンクもすいーっと飛んで行った。
賢翼は椛の肩から動かない。おまえも飛べ、というのは控えておいた。
「うおん」
月牙が乗るか?と聞いてくれたようだが、ここは玄幽と一緒に歩いて登ることにする。
リアルだったら途中でうずくまるだろう長い階段も、ここならスキップしながらだって登れる。
いや、流星とバルムンクに急かされたので駆けあがるハメになった。
頂上まで来ると巨大なだけあって森の上に出て、遠くまで見渡せた。絶景である。
「広い森だね。西の向こうに見えてるのは、カナーラントとの国境の山地かな」
ドゥナンからゼロイスまでずっと続く山地だが、標高はさして高くない。歩いて越えることも出来るはずだが、推奨レベル90くらいの恐ろしい場所だ。
関所破りもあんなところには入るまい。
手前の森はそんなにレベルが高くないところもあるのだが。
周囲を見回すのはそこまでにして、椛は祭壇を見る。その奥に開いた入口を。
「まあ、下り階段だよね…」
迷路はこの中に広がっているのだ。
でも下に入口欲しかったな、と思わなくもなかった。




