80プレイ目 カレル
相変わらず教官たちは忙しいようなので、椛は召喚獣を増やすためにアルヴィーナ王国に来ていた。
カナーラント王国との国境にも近く、北の街道を進めばすぐにキールファン王国に入れる交易の街カレルにいる。
この街の南西方面にある森にフクロウの幻獣が棲んでいるのだ。
何度か通ったことはあったがほぼ素通りだったので、椛は改めて街を見て歩いていた。
木工製品が有名なドゥナンとドワーフの多く住むキールファン王国に近いこともあって、冒険者向けの装備品を扱う店が多い。
農業や牧畜が盛んなアルヴィーナ王国の特産品もたくさん持ち込まれるようで、食材を扱う店も多い。
「屋台は多いけど、食べ物屋さんが多い訳じゃないな」
「ガウ」
特にキールファン王国向けの輸出品は食糧が多いとかで、食材のままのほうが都合が良いようだ。
椛は玄幽と買い食いしながら、ちょっと残念に思った。買ったコロッケは美味しかったけど。
そういえばこの街の転移門に登録したかな、と念のために確認したら未登録だった。
良く忘れていた頃に素通りしたのだから仕方がない。確認するようになっただけ椛も成長しているのだ。たぶん。
それにこの街、椛にとってはあんまり用がなさそうだった。
椛は騎獣の月牙に、玄幽は召喚獣の流星に乗って森までやって来た。
玄幽は特性で常時召喚しているが、召喚士特典の常時召喚枠には流星をセットしている。
月牙は騎獣なので召喚時間に囚われないが、森の中では乗らないので流星のモチベのためだけに同行させている。
いや、犬派の椛のモチベも上がるが。
「森のフィールド効果でパワーアップしてるらしいけど、シゲミの木属性はあんまり効果ないし…狭いから紺碧も呼びにくいし…というか敵の木属性が刺さるし…」
レベルが低い仲間から使いたいのだが、フィールドの都合でそう上手くいかない。
あとサンダー・エレメントさんは海でレベルが上がりまくっているせいで、海以外では出番が減る運命だった。
ということで、CTを見ながら他の5体を順番に召喚することにした。
森の途中までは推奨レベルが低めなのでサクサク進んだが、奥に入って来ると推奨レベル50で椛のレベルより若干高い。
手強くなった魔物と戦いながら進むことになる。
「幻獣の出現場所が一定じゃないのも、ちょっとキツいねえ」
森のどこかであって、発見報告のあった場所はバラバラなのだ。その代わり隠れていないし、数羽で群れているらしい。
まだ見つけやすい部類のようだ。
マップを見ながら3時間ほど彷徨ってしまったが、どうにか遭遇できた。
召喚獣のCTが1時間なので、4セット目になったところである。
「おーい、マギオウルくーん、わたしと契約しておくれー」
疲れ気味だったので適当な呼びかけになったが、顔を見合わせる仕草をしたフクロウたちの中から、1羽が近付いて来た。
友好のためではない。戦うためだ。
「そうだった!フクロウさんはバトル必須だった!」
ここのフクロウたちは賢者のような思慮深い眼差しで魔法を使う種族だが、好戦的でもあった。
レベル50のボス並みの強さである。
CTを確かめながら、仲間を最大まで呼んで挑む。
──最終的に雷玉を呼んで助けてもらった。鳥系は雷属性に弱いという法則は、魔物だけではなく幻獣にも当てはまったのだ。
負けた気分にしかならなかったが、また出直すのは勘弁して欲しかったのである。
種族名は【マギオウル】
灰色のフクロウの姿の幻獣だ。特長としては羽根の先端が緑がかっていることだろうか。
属性は風の上位属性の嵐となっているが、レベル1で使えるのは風属性と同じものだけだ。緑は風属性を示す色である。
フクロウとミミズクの違いも良く知らない椛に分かったのはそのくらいだ。
「名前は賢翼にしようと思うんだけど、どう?」
魔法、賢者、翼…という単純な発想からの命名だが、拒否はされなかった。まあ、そんなものか、という反応だった気もしなくもない。
椛は召喚獣のリストを見て、つい漢字で名前をつけてしまう自分に気付く。
なんで可愛い名前が出て来ないのか。
相対的にブルーとミルクが可愛い名前に見える不思議。ぽよちーはいつ見ても異彩を放っているが。
ついでにバルムンクは伝説の剣の名前を借りただけなのでノーカウントだ。1番かっこいい気がするけど。
「でもフクロウにフク助とかつけない理性はある…だからつけないって!?」
フク助と言ったらマギオウルが怒り出したので、気に入らなかったようだ。けっこう気難しい性格らしい。
という訳で賢翼になった。
受け入れてもらえただけ良かったと思ったものだ。
「玄幽より賢翼の好感度のほうが低い気がするんだけど…」
「ガウ」
余程フク助が気に入らなかったのか、賢翼の反応が悪い。
レベルより先に好感度を上げる必要があるのではないか。
玄幽にも「だよな」とばかりに頷かれてしまったし。
カレルの街に戻って、神殿前広場の隅のベンチで玄幽とフルーツを食べて休んでいるところである。
「フクロウって果物を食べるかな。いや、肉食だった気も」
餌付けが可能かどうか。
玄幽以外は何も食べたがらないので分からない。
それとも知識欲を満たしたいタイプなのか。本が読めるとは思わないが。
悩みながらも賢翼を召喚してみる。
「賢翼、街の散策とか興味ある?おやつとか食べる?」
賢翼は椛が森で伐採したブルーベリーにも玄幽が手にしている梨にも興味を示さなかったが、目の前の神殿には関心があるらしい。
じっと見つめて、誘われるのを待っている気配がした。
「神官様のお話を聞くことになる予感がするけど、玄幽も行く?」
「ガアッ」
玄幽は「やだ!」と首を横に振って、残っていた梨を口に詰めこんでいる。
おれは帰る!と全身で訴えていた。
玄幽が食べ終わるのを待って送還してから神殿に向かうと、賢翼は椛の肩の上で明らかにそわそわウキウキしていた。
召喚獣たちに個性がありすぎる。
入口をくぐり近くにいた神官に話を聞きたい、案内して欲しいと頼むと二つ返事で引き受けてくれた。
神殿の構造はアンセムとほぼ同じだったが、中庭に大精霊が棲む大木はなかった。神官もアンセムは特別ですよと言っていた。
「世界各地に大精霊様に由来すると伝わる場所はありますが、お姿を拝見できたとは聞きませんね。ですが稀に加護や祝福を授かることがあるそうですよ」
「アンセムの大精霊様は風属性って言ってたし、あとで行ってみようか、賢翼」
賢翼は胸を膨らませて応える。いや期待に胸が膨らんだだけだろうか。
比喩表現じゃなかったのだろうか。
「大精霊様に関することが載っている書物はありますかね」
「どこの神殿でも取扱っている『神話大全』にも載っていますよ。全10巻ですが」
「…帰りに売り場を教えて下さい」
今度は両の翼をペンギンみたいにぱたぱたさせて、賢翼が何か期待している。買うしかなさそうだ。
読めるのか。椛が音読する必要があるのか。
「神話の読み聞かせ会とか、朗読会はやってるんですか?」
「子供たち向けにやってますよ」
それならそっちで満足してもらおう。
椛の棒読みより賢翼も喜ぶはずだ。
他の街に行く予定なので、どこの神殿でもやっているのかなどを聞き出しておく。
椛にも余計な日課が増えそうだった。




