4プレイ目 ゼロイス
しばし休憩してから再ログインした椛は、ログアウト中にアナウンスされた情報を確認した。
ワールドアナウンスが何度か流れて、ゲームが少しずつ進行しているのがわかる。
スタダ組がアンセムの街に到達したようで、ダンジョンを発見したとかβ版で判明済みの物は早い者勝ちだったらしい。
「野蛮人ルートを確定させてしまったかー」
椛は余計な口出しをする気がないので放っていたが、誰も止めなかったようだ。誰も気付いていなかっただけかもしれない。
ついでにゲーム内で閲覧・書き込みの出来る掲示板があるのでちょっと覗いてみた。
興味を惹かれるタイトルすらなかったので、すぐに閉じたが。
テントを出てから空腹を感じた椛は、満腹度を確かめて、黙って焼き肉を食べた。ログアウトしていただけでも腹は減るらしい。
椛の土地(予約中)の周囲もロープの柵で区切られていて、ここ1等地だもんなとだけ思う。
スタートダッシュに成功したはずの人たちが気付く前に、1等地は売り切れそうだ。
大通り(工事中)に出ると、その両サイドの土地もだいぶ売約済みになっていた。情報が一気に広がったようだ。
なんの店が建つのかなと、購入者らしきプレイヤーたちを眺めつつ歩くと、見覚えのある鍛冶師たちがいた。
「そこの土地を予約したの?」
「あ、名前聞いてなかったけど、情報源の人」
「双剣士の人と覚えておきたまえ」
特に名乗りあっていなかったので、微妙なあいさつになった。
「役所でいろいろ聞けたよ。他の街で店を出すのは絶望的でさ。結局ここに戻るしかないっぽいから、確保だけでも出来て良かったよ」
「そういえば個人の家は買えそう?」
「ダメ元で予約だけはした。間に合うかもだし」
工房も別途用意しないといけなくて、とぼやく。生産職は大変そうだ。
「あ、ボクは皮革師だから、魔物の皮があれば防具を作るよ」
「全員鍛冶師だと思ってた!」
「みんな初期装備が同じだし区別つかないよね」
鍛冶師が多かったのは確からしいが、生産職繋がりで混ざっていたようだ。わざわざ言及する場面でもなかったし。
そして皮革師のニコと名乗ったエルフの青年とフレンド登録して、猪は売ったが出し忘れていた森のウルフの皮を渡す。
防具は上から頭・胴・腕・脚・靴の5ヶ所に装備可能だ。アクセサリー枠は3ヶ所ある。
このゲームでは防御性能のないインナーと呼ばれるファッションアイテム扱いの服の上に防具を装備する。裁縫師も防具は作れるが、そちらはインナー作りが本命らしい。
もちろん鍛冶師も防具は作れるが重装備になるので、椛は軽装系の皮革が丁度良い。
「お金はあんまりないんだよなあ」
「1番高く売れたの猪だったよ」
「西の森に出るクモの魔物のドロップが、他の地域にはいないから割高って道具屋のおじさんは言ってたけどな」
道具屋のNPCはおしゃべりな質のようで、椛が聞いてないことまでけっこう教えてくれたものだ。客が来なくて暇を持て余していただけかもしれないが。
「あー、裁縫師たちが素材が高すぎて買えないって言ってたの、ソレかー」
「自分で狩ればプライスレス」
「バトルはほぼやらないタイプが多いよ、裁縫師とか料理人の女性陣」
没入型VRはバトルの臨場感が高いため、苦手な人はとことん苦手に感じるらしい。
バトルジャンキー寄りの椛には分からない感性だ。
とにかく西の森に行って、防具の製作費用を稼ぐためにクモ狩りをして来ることにした。
昼の間は順調に西の森でクモ狩りついでに採取もしていた椛だが、日が暮れたらクモが無限湧きしはじめて、慌てて街(建設予定地)に戻って来た。
夜間は活性化するらしいが、行く前に知りたかった情報だ。
おかげでレベルが9になったし、冒険者組合でドロップ品の糸を売却したら思ったより稼げたが。
「それ、掲示板で話題になってたぞ。死に戻った連中が騒いでたから」
ニコのところに戻って愚痴ったら、他の皮革師に言われてしまった。椛が情弱なだけだったのだと。
「掲示板、盛り上がってるの?」
「不平不満と愚痴と文句が多い印象」
「見る気失せるー」
「思ってたのと違う、素材もまともに手に入らないっていう生産職も多いからな。近くでウサギ狩りすればそこそこ素材が手に入る皮革師は、逆に肩身が狭いし」
おまえらは良いよなあ、とか言われてしまう奴だなと椛も理解した。
まともな街に行けば解消する格差ではあるのだが、行くのも大変らしい。北の森を抜けなければいけないためバトルは避けられないし、ボス魔物まで出て来るそうだ。
「でも鉱石素材は見つかったから、鍛冶師たちはこぞって出掛けてるよ」
「鉱山でも見つけたの?」
「ううん、ソロ専用ダンジョン。なんでソロ専用なんだってクリア出来なかった人たちが怒ってるけど」
思わず「今すぐ行って来る!」と駆け出したくなったが、椛は大人しく話を聞いた。
東の森の奥にあるのが見つかったそうだ。β版では見つけていないので、攻略情報もまだないとのことだ。
ニコから防具を買い取って、ダンジョンの位置を調べて、日が昇るまで西の森には近付けないしと自分に言い訳して、椛は東に向かったのだった。
ゼロイスの街(建設予定地)の周辺は、東・南・西・北の順に魔物のレベルが上がって、難易度が上昇する。
椛は東の森は荒野に出るウサギと大差ない魔物しかいないと聞いたので、南から始めただけである。猪も罠で捕まえたかったし。
東の森は夜でもウサギとネズミとコウモリといった弱い小動物系の魔物ばかりで、西の森とは大違いだった。
キャンプセットに入っていたランプを腰に下げて、サクサクと進んで行く。目的地の近くまで行けばプレイヤーたちが集まっていたので、迷うこともなかった。
列が出来ていたので、声をかけて最後尾に並ぶ。
「クリアした人、どのくらい出たか知ってる?」
「そんなに多くないっぽいけど、失敗してもダンジョン内で拾った素材は手に入るし、それで武器とか新調出来るし、躍起になってる人は少ない感じかなー」
「ああ、デスペナないもんね、このゲーム」
「それもあるけど、転移門じゃなくてダンジョンの入口に戻されるだけなんだよ。インスタンスらしくてすぐに入れるし」
そう話している間にも列は進み、椛の番がまわって来た。
鍛冶師たち、無限周回中なのかなあ、なんて思いながらダンジョンに入ったのだった。
ダンジョンをクリアしても失敗しても入口に戻されるだけなので、並んでいるプレイヤーたちにはどちらか区別はつかないだろう。
椛はそれなりに強いボスがいたので、やや機嫌良く外に出て来た。
「あ、鍛冶師の人だ!武器作って欲しい!」
「おお、いいぜ。でも受け渡しは明日以降になるけどな」
「わたしもそろそろログアウトして寝たいし、それで。鉱石足りないならもう一周して来るけど」
見覚えのある鍛冶師がいたので頼んでみると、あっさりと了承が返って来た。
少し列を外れて、必要な素材の数や費用の相談をする。椛は防具は必要ないので、一周目で集まった分で間に合った。
ドワーフの助次郎というプレイヤー名の鍛冶師とフレンド登録して、素材を渡す。
「双剣か。モーションアシスト機能がないと途端に難易度上がるって聞くけどなあ」
「アバターは永遠の17歳だけど、中の人はそれなりに歴戦の双剣士なもので」
「ここのダンジョンはクリアしたのか?」
「『初めての試練を超えた証』っていう記念品ならあるよ」
クリア報酬の貴重品扱いのアイテムを出してみせる。
助次郎は「マジかー、あのボス強いじゃねぇか」とぼやいていた。
「防御力をガッチガチに上げてるんでもなければ、ソロでやるなら回避重視のほうがクリアしやすいと思うよ。まあ、ここで素材集めて全身重装備で固めれば、重量系の武器でも行けそうだけど」
「それが結局 近道っぽいな」
椛は基本ソロでやっているので、このダンジョンと相性が良いほうだっただけだろう。
助次郎が列に戻るのを見送って、椛は街へ戻った。
明日は北の森に行ってみようかなと思いながら。




