48プレイ目 迷宮都市バロワ
「大剣に攻撃力が2倍の技があるって言ってたじゃん?『森狼憑依』をかけてから使えば海のサンダー・エレメント並みの4倍ダメージになる計算」
「バフの効果時間内に使えればじゃな」
「条件がシビアだよなー。敵は案山子じゃないんだぞ」
椛の最後の攻撃がタグとほぼ同じダメージを出していたので「どういうこと!?」と驚くタグに解説しているところだ。
椛、タグ、ロウガイの3人はまだダンジョン五層のボス部屋でのんびりと休んでいた。ボスに一度勝てば、次からは「再戦しますか?」のアナウンスウインドウにyesと答えない限りバトルは発生しなくなる。
つまり広いセーフティエリアと同等の場所になっていた。
「アーツの出が速い武器じゃないと使いにくいよね」
「出が速くても威力が落ちるアーツを使うくらいなら、他のボス素材スキルのほうが良いってことか」
「あと消費MPの量も比較対象でしょ」
ちなみに『森狼憑依』で上がるステータスはSTRとAGI──攻撃力と速度だけだ。森の主の特に高い能力を借りるイメージなのだろう。
魔術士は弱点属性で攻撃すれば威力が2倍になるが、こちらはステータスそのものを上げるバフである。
もちろん魔術士もINT上昇系のバフをかければさらにダメージは上がる。残念ながら『森狼憑依』ほどの効果のあるスキルが見つかっていないだけだ。
「あと使ったアーツは元々は威力1.5倍だから、3倍になってるはずなのに大剣の2.5倍と同等ってことだよ。一撃の威力は期待しちゃいけない武器とはいえ」
「しかも30分に1回しか使えないって言ってたっけ」
「双剣で出せたのは、それだけ制限があったからだったんじゃな」
大剣ならもっと気安く出せるダメージなのにと思うとがっかりするが、双剣の必殺技っぽいので椛は満足している。
日頃から大ダメージのロマン技が使いたい人間だったら、最初から双剣なんて選択していなかった。
「それより、ミノタウロスの攻略情報はどうする?ちょっとは掲示板に上げておく?」
「え?森の主の素材がいくつ必要だったか、とか?」
「ボスの行動パターンや対処法のヒントあたりじゃよ」
もちろん椛たちの場合はこうだった、というだけの話で別のパターンがあったとしても責任は取れない。
アドバイスも相手の職やプレイスタイルで変わるので、役立たない人もいるのだし。
「推奨レベルでやってないから、あんまり言えないやつだよ、タグ君」
「あ、そうだった」
「レベル45なら1か所くらいあれば安心、程度になっとるかもしれんのじゃな」
「下手なやつは推奨レベルにした上で主どん装備で固めてもクリア出来ない。そんな気はする」
「そうか?」
「エリアボスに勝てなくて寄生しようとしてた連中だぞ」
「あー…」
世の中には驚くほどバトルが下手な人種もいる。
得手不得手があるのは仕方がないし、自覚して他人に迷惑をかけないようにしている人なら問題もない。
得意分野でお返しすればWin-Winというやつだ。
ただ認めようとしなかったり、他人を利用して強くなった気になりたがる者もいるという話である。
「こんな無理ゲー勝てるわけねえだろ、嘘つくな!って絡まれるから、余計なことは書かないようにネって話」
「自分に出来なかったことは嘘と決めつけるからのう」
「オレは何も書き込まない!」
「攻略組だって情報出してないらしいし、提供する義理はないんだけどね」
多少の親切心から聞いてみただけだ。
誰かの役に立ったら嬉しいな、くらいの気持ちだった。
ダンジョンを出た椛たちは、さっそく冒険者組合でクリア報告をして、ランクBに昇格した。
プレイヤーの大半がランクC以下なので、それなりに先行している証になるだろう。
「いやあ、ダンジョンでレベル上げ出来ると思ってたから、もっと長くかかるはずだったのに」
「オレもそのつもりだった。ドロップも美味しいって噂だったし」
「レベル55以上になるまで、ドロップすら不味いとは思わんかったのう」
用事が済んだので組合の外に出ながら3人は話していた。
迷宮都市にも用がなくなったのだ。
「ほとぼりが冷めてないだろうし、どこ行こうかな」
「オレは闘技場かなー。ようやくバニーの話以外をするようになった頼闇が、向こうのネタを出しててさ」
「ワシはヴィスタで魔術士の限定クエストをこなしつつ、カフェーでまったり過ごしたいのじゃ」
魔法大国の王都ヴィスタには、魔術士限定のクエストが多いらしい。
犬猿の仲だと言われる帝国は、逆に騎士系の物理職の限定クエストがあるそうだ。騎士ではなくても、物理職向けの国のようだ。
「闘技場も行きたいけど、ミュウテラ国かなあ。そこのエリアボスの素材が双剣士御用達みたいな効果を防具に付けるらしくて!」
「主どん装備は捨てる、じゃと!?」
「使い分けるんですー。魔防特化のも欲しいところだし」
「ボス素材、それも欲しい…」
やりたいことを指折り数えると、無限に湧いて来る気がして困る。
だがお互いに優先順位をつけて、それぞれの道を進むことにした。
「さらばだ、友たちよ。またいずれ相まみえる日があらんことを!」
「あらんって、あるのないのか迷うよな」
「意訳すると『会いたくねえよ』になるのじゃな」
「そんなこと言ってないのにー」
椛がカッコつけても乗ってくれないので不発に終わった。ノリの良いフレンドが欲しい。
「芸術の国の劇場街で、演技力を磨いて来るからよ」
「そ、それはワシも行きたいのじゃ!」
「お前ら好きだよなー、そういうノリ」
ぐだぐだ話しつつ、ダンジョン前の転移門へ向かった。3人ともここには用がないところは一致していたので、キールファン王国の王都に戻ってから解散した。
基本ソロと言ってもフレンドたちと賑やかに遊ぶのは椛も好きなので、ちょっと寂しい気分にはなった。
しかし短期間だから楽しいのであって、ずっと一緒だと窮屈になってしまう性格なのだ。
タグとロウガイも、スケジュールの決まったゲームとか苦痛になるタイプらしい。
気楽に「今日は何して遊ぼうかなー」とその日の気分で遊びたいのである。
クランだのチームだの固定パーティだのは、椛にとっては他のプレイヤーとの距離感が『適度』から逸脱しすぎているのだ。
それにフレンドを優先している間は、召喚獣たちと戯れる時間が少なかった。愛狼たちをモフってのんびりしたい。
「芸術の国の次は闘技場かな。ずっと行きたいと思ってるのに、なんかタイミングが悪かったからなあ」
全ての予定を放り出して行っても良かったが、そこまでして行きたい訳じゃないんだよなと思ってしまったのだ。いまいち勢いに乗れなかったというか。
でも次こそは、と思う程度には心惹かれる椛だった。




