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2プレイ目

 神殿(建設予定地)から北に向かって歩いて来た(もみじ)は、ぽつんと建てられたテントが近くで見ると他のテントより大きいことに気付いた。

 ここはゼロイスの街の役所(建設予定地)のはずだ。


 テントを覗いてみればNPCが5人いて、今は暇そうに休んでいる。


「こんにちは。土地を買う話とかここで聞けって言われたんだけど」

「はじめまして。移住者の方たち、誰1人として立ち寄られないので、興味がないのかと思ってましたよ」


 軽い嫌味で返されたが、椛もなんで1人も確認してないんだよ!と他のプレイヤーたちを問いただしたい気分だ。

 対応に出て来たNPCは、予定の時間になって次々と移住者が出現したかと思えば集団でわーっと北に向かって駆け去った、とぼやく。意味不明な行動に、こんな連中と付き合って行く自信がないと感じてしまったようだ。


 椛はスタートダッシュの概念をどう伝えたものかと悩みかけたが、NPCたちの反応はもっと深刻なものなのだと気付かされた。


「王の決定ですから従ってますけど、他国はどこも受け入れないような得体のしれない異世界の連中に…」

「おい」


 テントの奥から鋭い声が割り込んで、口を滑らせた男を止める。

 一気に気まずい雰囲気になってしまったが、この段階で追求していい話題とは思えなかったので、椛は聞かなかった振りで話をそらした。


「移住者ってこの場所以外で土地を買って住むことは不可能なのかな」


 最初から土地の話を聞きに来ていたものの、言ってからそらしきれていないとやや焦った。だが相手も話を変えたかったからか、微妙な部分に触れずに答えた。


「基本的にはそうなりますね。ですが名を挙げてどこかの国に召し抱えられることにでもなれば、その国に所属することになるでしょうから」

「あー、冒険者を辞めて国に仕えるやつ」


 何かしらの制限がかかるだろうから、椛は選ばないルートだ。メリットが大きいとしても性格に合わないのである。

 そのためこの街の土地の買い方を確認した。


 商業地区、工房地区、住宅街など、おおまかな区分けがされていて、個人の家を建てられる場所は決まっていた。だが1番乗りなので選び放題だった。

 値段はもちろん高いのだが、ゲーム内の時間で半年以内に払えば良いということで予約をすることは可能だった。もし間に合わなくても特にペナルティはない。


 椛は神殿前広場や大通り(メインストリート)に近い、いわゆる1等地を選んで予約を入れた。利便性がかなり高い。


「他の街ならもっと高いよね」

「比較的田舎のアンセムでもこの10倍20倍…王都だったら、どのくらいでしょう…」


 きっと半年ほど金策に励めば買える値段設定になっているのだろう。

 まだこのゲーム内の物価はよくわかっていないが。

 そして土地代であって、家屋はもちろん別途用意する必要がある。


「それで今日からテントを張って住み着いても良いと」

「はい。かまいませんよ」


 まだ誰のものにもなっていない場所なら適当な空き地にテントを張っても良いらしいが、自分の土地(予約中)なら他者が入って来られないそうだ。

 テントは簡易なセーフティエリアになるので、宿屋もない荒野では必要だろう。初期アイテムとしてテントやランプなどがセットになったキャンプ用品一式がインベントリに入っていたし。


「じゃあ役所(ここ)で出来ることは以上ですかね」

「そうですね」

「そうですね、じゃないだろ」


 椛が満足して役所を去ろうとしていたら、奥にいた別の役人が止めに入った。


「土地の購入手続きを優先するのはかまわんが、重要なものがあるだろう」

「…あ!お渡しするものがございました」


 椛の対応をしていたほうの役人が、誤魔化し笑いを浮かべながら数冊の本を取り出した。

 そこそこの厚さのものと、薄い冊子がいくつかあった。


「この国の王国法は、おおまかにでもいいので目を通しておいて下さい。こちらは先遣隊の方々の様子から、伝えておきたい常識集を作ってみたものです。きっとお役にたてると思いますよ。それと覚えておかないと不便なスキルをお配りすることに決まったので、どうぞご活用下さい」

「どんな常識のない奴らがいたんだ…」


 聞かなかった振りをした役人の台詞(セリフ)まで思い出して、住民(NPC)の初期好感度の低さを考えさせられる。


「これ、他の街では配ってないよね」

「まあ、ここだけですね」

「北のほうに駆け去った連中、ますます常識のない野蛮人の烙印を捺されるんだろうなあ…」


 役人たちはノーコメントだったが、雰囲気で伝わって来るものがあるのだった。





 とりあえず貰ったスキルブックを使って生活魔法などを覚えてから、椛は街の外に出た。

 街をぐるりと囲む壁(建設中)で一応の区別はつくが、中も外も荒野である。

 それでも街の敷地内には魔物が出ないので、何かしらの仕掛けが施されているのだろう。


 広い荒野にはウサギの姿の魔物が散見された。レベル1~5の最弱の魔物だという話で、ウサギ狩りをしているプレイヤーの姿すらない。

 初心者でも少し遠くの森まで行って、森に出る魔物を狩るほうが経験値効率が良いらしい。


 椛もウサギは通りすがりに少し斃すだけに留めて、南の森に向かった。

 道具屋で肉を狩るなら南の森にしかいない猪が美味しいよと聞いたのだ。

 東と西は兎が多く、北だと鹿が捕れるらしい。北はまだ行かなくていいかなと思っている。


 椛のメイン(ジョブ)は双剣士で、武器はもちろん双剣だ。

 重くて動きを阻害する武器種は苦手で、他のソフトでもスピードタイプを好んで使っている。

 中の人はアラサーなので、ゲーマー歴はそれなりである。


 そして日進月歩のゲーム業界では、システム面でも変化が激しい。最近の流行りのシステムは椛には合わなかったので、バトルをしながら動きを確かめて、満足しているところだ。


「モーションアシストとか採用するのはいいけど、任意でオンオフさせろって話だよ」


 技術の向上で、ユーザーに違和感を感じさせないアシスト機能が実現した。それにより運動の苦手な人でも一定のバトル体験が可能となった。

 例を挙げると、後先考えずに全力で剣を振り抜いても態勢を崩して転ばなくなるし、カウンターを食らって弾き飛ばされても尻もちをつくことはない。


 しかし10数年遊び続けて身についた動きがあると、操られているような違和感がなくても何か気持ち悪いとなってしまうのだ。


 その点、この『リアース オンライン』は、モーションアシスト機能がついていなかった。最新のソフトで採用されていないのは非常に珍しいと言える。

 開発・運営の言い分は「リアリティの追求」とのことだが、エンジョイ勢に受けが悪いのは当然だ。

 代わりに椛のようなユーザーには需要があるので、住み分けというものだ。


 蛇足ながら『リアース オンライン』は日本国内限定販売で、初版が限定一万本のみとなっている。

 予約で完売して2陣はアナウンス待ちだというが、つまるところ、結構なマイナーソフトということである。









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