199プレイ目 カナリア
《炎の溶岩洞》は過酷だった。
防熱スキルのおかげで熱くはないし、暑くもない。しかしうっかり溶岩に落ちたらHPがゴリっと削られ、モタモタしていると継続ダメージで死に戻りそうである。
出て来る魔物はマッチョ…大型が多く、攻撃を躱したつもりが大きく吹き飛ばして来るのだ。そして溶岩にボチャン、である。
椛は自分より流星が溶岩ボチャした瞬間のほうが悲鳴を上げていた気がする。
玄幽の時は「カタナー!」と叫びそうになったのは内緒だ。
ゲームの仕様でどちらも無事だったから、まだマシかもしれない。
「なんか、どこかであったな、溶岩ボチャで全ロスト…さすがにMMOじゃなかったっけ」
リセット&ロードでなかったことにした覚えがあるから、多分ソロゲーのはずだ。
オートセーブでリセット封じをしているソフトの話も聞いた気がする。
冒険者組合はイキりキッズの巣窟なので行く気がしなかった椛は、商店街にあった喫茶店に来ていた。
大通り以外はマトモな店ばかりなので、組合より万倍居心地がいい。
あとスイーツが美味しい。
溶岩洞の暑苦しい空気のあとなので、ジェラートが冷たくて甘くて美味しいのだ。
ボヤきながらジェラートを完食し、どう進めようかなと考える。
メニュー画面を出してステータスの見直しでもするかと思ったが、シラベからメッセージが来ていることに気付いた。
「ああ、検証クランも尋ねたけど教えてもらえなかったのか。ホラーはやめて!の人みたいだったからな、あの職員…あそこの受付嬢も聞き方が悪いとポーカーフェイスで取り付く島もないし…」
あんまり親切ではないが、工夫すればちゃんと答えてくれたものだ。
きっとキッズたちも聞き方がなってなかったのだろう。奴らにコミュニケーション能力があるようには見えなかったし。
盗み聞きはコミュニケーションではないのだ。
資料室の職員は話にならなかった、よく聞き出したねと言われた。
あれも聞き方を変えないと駄目なタイプだったから…
人生経験が増えると、話の通じない人との会話の機会も増える。どうにか意思疎通を果たすために知恵を絞ることになるものだ。
特に仕事だと「駄目でした」じゃ許してもらえないから。
検証クランは若者が多いのかもしれない。ひねった話術も学べよ、若人。
「それとキッズが多い理由…知りませんよねー…」
シラベもなんで王都カナリアにいるの?と疑問しか返して来なかった。
イベントを進めたい勢じゃないかと思うが、何ヶ月ここにいるのか知らないものの、他を探したらいいんじゃないかなと思うのだった。
お肉の貯蔵は充分なので、月牙のおやつの心配はせずに炎の溶岩洞に通った。
この王都は外に出ないほうが快適だ。ゴロツキ門番に会わなくて済むから。
冒険者組合には入らないが、ダンジョンの入口で職員に会うので椛の所在は組合に伝わっていただろう。
「なんでゴーレムさん並みに物理耐性が高いくせに魔法耐性まで上げたの、あのボス!?」
数日かけて溶岩洞でのバトルに慣れて来てボスに挑んだ椛は、見事に負けて戻って来た。
ボスに負けてもボス部屋の前の転移陣に戻るだけだが、対策を考えないと勝てそうになかったからだ。
水属性の魔法玉を大人買いして物量で押し切る、的な。
冷静になれていないから出た暴論なので、考えるためにダンジョンの外に戻ったのである。
見張りの職員は苦笑して、強いらしいねとだけコメントしていたものだ。
組合の資料室にはこれ以上は炎の溶岩洞の資料はないはずなので、そこは立ち寄らずに組合前広場に出た。
大通りを歩く人は、みんなどことなく景気が悪そうだ。
そういえばイベントが進まないって誰もが言ってたな、と思う。椛は他の人にやってもらって、この街を改善して欲しいなというスタンスだ。
でも今1番改善して欲しいのは、イキりキッズたちである。
他のプレイヤーにイベントを横取りされたら、怒り狂って他の街に行くのではないだろうか。
つまり白馬に乗ったこの世界の主人公が颯爽と現われて、華麗に解決して、女性陣にキャーキャー言われながら爽やかに手を振りながら次の街へ去る。
これが理想的な展開だ。
鬼女も生まれなさそうだし。
「あ、この世界の主人公の騎獣は虎だった」
この世界の主人公は西の大陸で冒険中である。ラーメンの国…ではなく、中華モチーフの国でレベル上げをしていると言っていた。
豚骨ラーメンも美味かった、と。
思考がラーメンに侵食されて来たが、ふと思いついた。
「吹雪の海にしてやったら、あいつどうなるかな!?」
それまでの思考が全く関係ない思いつきだった。火属性は氷に勝るが、天候が吹雪でもそんなことを言っていられるだろうか。
フィールドが海になったら明確に弱点である。雷玉の雷魔法が火を吹く…いや、スパークリングサンダーだぜ!
海フィールドなら水属性の魔法も強化されるはずだ。
ちょっと勝機が見えて来た。
でも魔法玉は買い足そう、と店に向かったのだった。
誰にでも魔がさす時はある。
意識していない状態で、それが悪手だと認識もせずに最悪の手段を選択する時がある。
椛はただ、そういえば暗黒街になんか良いアイテム売ってるかな、買わんけどと思っただけなのだ。
呪い耐性は充分高いから大丈夫だろう、と。
冒険者組合で受付嬢に尋ねて、フラグを立てた自覚もなかった。
「またお前か、道化野郎ー!」
「ヒャッハーハッハッ!呪われろ!呪われろ!呪われろ!ヒャッハーッ!」
「なんでこんなの野放しにしたの、どこの誰だか知らんけど!」
暗黒街にちょっと入ったら、すぐに闇組合の道化野郎が現われたのだ。まるで待ち構えていたかのように。
脱獄した話は聞いたけど!イベントのフラグだなんて聞いてないけど!
ヒャッハーっと呪いの塊をばら撒いているので、暗黒街の住人たちも悲鳴を上げて逃げていた。
入口の階段に殺到しているので、椛はつい奥に向かってしまった。
道化野郎も誘うように奥へ向かう。椛に呪いの塊を投げながら、椛の攻撃を躱して逃げる。
途中で誘導されていると気付いたが、放置して帰る訳にも行かないし、イベントが進行しているのは感じていた。
イキりキッズたちのほうが道化野郎より面倒くさそう…
しばし暗黒街の大通りを追いかけっこするように進み、到着したのはマップでは最奥になっている場所だった。
闇組合の事務所のさらに奥のそこは、邪神教団の領域だ。
黒いローブのいかにもな邪神の教徒たちがわらわらと出て来た。
「移住者よ、貴様は何の神を信奉する?」
「六柱大神か」
「大精霊か」
「両方の気配がする…!」
「おぞましい…!」
気配と言われて、椛は神殿で買った『神話大全』と『精霊聖典』を思い出した。
本を所持していると起きるイベントが多いので、フラグ管理に使っている気がしたのだ。
ちょっと考えて、天狐を召喚してみせた。
「ふはは!《七つの災厄》九尾の妖狐を従えるわたしが神など信奉するものかよ!」
「何の話にゃ?妾は神々なんぞ嫌いにゃ!」
あるのなら横道にそれたいゲーマー魂である。特殊ルートはみんなの憧れさ!たぶん。
邪神の教徒たちはちょっと沈黙してから「おぞましい!」と怒った。
神の信徒より格下扱いな気がする。
「おぞましいって、天狐」
「言われたの妾じゃないにゃ!?」
「乙女に失礼なことを言う連中なんて、第六天魔王に代わってオシオキするか!」
「そなたはどんなヤバいモノに仕えておるにゃ!?」
NPCたちを混乱させながら、椛は攻撃に転じた。天狐も戦い始め、会話イベント中は大人しかった道化野郎が「ヒャーッ」とか「ハヒャーッ」と奇声を上げていた。
呪い耐性上昇のために装備していた《神殺しの塔》産の白銀の双剣が、呪いを切り裂くように聖光を放っている。
だが、そもそもイベントの推奨レベルが低かったらしく、みんな弱かった。もっと早い段階で発生させる想定だったのだろう。
あっと言う間に全員を倒し終えてしまった。
しかし関係ない事実に気付く。
「そうだった…水属性だからレベル上げしにくくて、天狐のレベル65止まりだった…」
「そなたはレベルいくつにゃ?」
「70。あとでどこかでレベル上げしないと」
天狐はともかく、水属性の紺碧とアクアはここに来る前に上げるべきだった。あちらはレベル60である。
その前に行っていたのは水属性を吸収する木属性特化のダンジョンだったから…
何かしら忘れている椛だった。
スパークリングサンダー
それは椛がその場のノリと勢いと語呂の良さで適当に考えた言葉
次の瞬間には忘れるくらい儚い言葉




