189プレイ目 カドマン
ダンジョンの周回に満足して来たので、椛は次の予定を考えながら唐揚げを摘む。王都カドマンの冒険者組合の酒場の人気メニューだ。
「そうだよね、ずっといる訳じゃないよね」
「MP回復ポーションの素材を求めて、多くの冒険者が通うことになるダンジョンだよ。ボスの周回しなくちゃならないし」
薬師プレイヤーたちに惜しまれたが、自分本位に引き止めない人たちなのは好感度が高い。
でも「薬草のバイヤー…」という顔で見られているのは仕方がないだろう。
「薬学研究所でもある程度は買えるけど、連中がまだいるから…」
「……イベントがすでに数段進んでいることを知らんのか?」
「嗅ぎつけるの早いし、気付いてないはずないんだけど」
「あの嗅覚だけはすごいよね」
確かに、何故かあっと言う間に嗅ぎつけている気がする。そして人より早く騒いでいる。
でもあんまり役に立っているように見えないし、他にやることあるだろとしか思わない。
「イベントは関係なく、自分たちだけ出入り出来ないのが不満なのかも?」
「そういえばそうだった」
「でも邪魔…」
「イベントが進んだら解決すると思ってたのに…」
それは儚い幻想というか、都合の良い期待だ。でも人は良くそんな夢を見る。
真面目に対策を考えるのが面倒くさいから。
そんな話をしていたら、唐突にワールドアナウンスが流れた。
《オーフォロ王国とハイレオン帝国の関係が一部改善されました》
でも、それだけだった。
「和平の使者でも来たのかな…」
「改善されたってことは、良いことだよね」
「うん、悪化しましたじゃなくて良かった」
悪化してるの鬼女たちだけだし…
でも帝都に近付きにくいので、アレも改善されてくれないかなと思うのだった。
検証クランの作ったダンジョンリストを見て、レベル70を目指すか周回できそうなレベルのところへ行くか、危険度CとBを狙うか…椛はその段階で悩んでいた。
1度アンセムの街に戻る予定なので、レベル55の危険度Bダンジョンにリベンジはしたい。ボスどころか雑魚にも勝率1、2割のままだ。
「あ、商業組合ってゴミカス…じゃなくてギルマスが代わって、マトモになったんだっけ?」
薬師たちは帰ったが、近くのテーブルの冒険者NPCに尋ねると答えが返る。
「新しいギルマスが来て、だいぶ落ち着いたらしいな。前はレアアイテムをかなり安く買い叩かれてたけど、マトモになったはずだぞ」
「転売屋が買い占めるアイテムも安全に売れる?」
「大丈夫だと思う」
レアアイテム以外は普通に扱っていたらしいが、冒険者が商業組合に行くのはレアアイテムを手に入れた時なのだ。他は冒険者組合で事足りていたから。
「それなら貯まった素材を売って来ようかな。あっちは職人に優先的に声をかけて販売してるんだよね?」
「そうだな。ここの売店よりちょっと高いらしいが、転売屋よりずっとマシな値段だって聞くぞ」
なので転売屋が狙う前に職人たちに売れてしまうので、商業組合の売店には並ばないそうだ。高級店の雰囲気なので椛は商業組合の売店など見た覚えがないが、あそこでも本来は素材を扱っているのだ。
でも職人たちは安い店から順番に見て回るので、やっぱり商業組合の売店には行ったことがない人が多いらしい。
この街は薬師以外のプレイヤーは少ないが、イベントに誘われて来ている者もいるようだから、そういう所に回るといいなと思った。職人NPCでももちろん構わない。
転売屋以外ならば。
気分転換のつもりで思い立ったが吉日と商業組合に向かった。ここの商業組合は初めて入るが、内装は他の街と変わらない。
受付嬢が美人ぞろいなのも同じだ。
受付嬢に声をかけてカウンター席に着く。冒険者組合のカウンターには椅子がないが、こちらは椅子が用意されていた。
商談などで長引くことを想定しているのだろう。
椛が売りたい物をリスト化して提示すると、受付嬢は目を輝かせて応じた。
「すっかり信用が地に落ちて、在庫がなかったので助かりますわ!」
「マトモな値段に戻ったって聞いたから」
「多くの方の耳に届いて欲しいものです」
ゴミカスが消えた話は王都中に広まっているようだし、けっこうみんな知っているんじゃないかなと思った。
職人たちもマトモな値段で素材が買えたら気付くだろう。
「そういえば、この国と帝国の関係がちょっと良くなったって噂を聞いたけど、何かあったのかな」
「祖国に凱旋だと言って去ったアレが犯罪者として監獄送りになったのは聞きましたが」
「極刑よりはマシなの?」
「どうでしょう。死んだほうがマシだと言う噂もある監獄らしいので…」
どこにあるのか知らないが、恐ろしい話である。
「あ、奴の手下みたいなことしてた移住者はどうしたの?全然見ないから忘れてた」
「アレの甘言に騙されていた方ですか…帝国に戻ったら騎士にしてやると言われて真に受けて…あんな血統主義がそんな約束を守るはずがないのに…」
「やっぱり利用されてポイ捨てかー。利用価値あったようにも見えなかったけど」
「同じ移住者が言えば効果があると思ったようですわね」
同じ移住者たちから敬遠されていただけだった。
互いに見る目がなかったからこそのタッグだった。
そんな雑談をしながら、素材の値段を相談していくらになるか見積もりを出してもらう。
冒険者組合での買い取り価格は確認してあるので、それよりちょっと高い程度だ。
椛がこんなもんだなと納得して、これでいいよと言いかけた所に割って入る転売屋がいた。
「お待ち下さい!ワタシならもっと高く買い取らせていただきますよ!」
「あ?勝手に覗き見て何ほざいてんだ、転売屋。いてこますぞコラ」
このタイミングで割って入るのが転売屋ではない可能性があるか?いやない。
受付嬢がこっそり「やっちゃえー」とか言ってるので、さらに確信が深まった。
でも受付嬢、ゴミカスギルマスのせいなのか、けっこう言いよる。
「誤解です!」
「何が誤解だ!高値で買ったものをさらに高値つけるのが商売だろ!職人たちがどんな値段で買わされるんだよ!貴様も帝国の監獄送りになってしまえ!」
ゴミカスの末路は聞いていたのか、その1言で転売屋は逃げて行った。
「なんでもう、ああいうのが湧いてるの?」
「いえ、以前からいて、味をしめたと言いますか…」
ゴミカスのせいでマトモな買い取り価格ではなかったので、転売屋の示す値段のほうがマトモだと売ってしまう冒険者が多かったらしい。
そう、宵越しの金は持たない派が一定数いる冒険者だから。
商業組合が正常化しても同じことがまかり通ると思っているらしい。
「組合広場で見張って、冒険者が買い取りに出すのを待ち構えてるんですわ」
「なんか都合良く出て来ると思ってたら…」
張り込みしてるヒマがあったらマットーに働けよと思う。
楽して稼ぎたい奴が聞くわけないだろうが。
イベントは一段落ついたはずなのに、解決していないのではと思わされた椛だった。
実は第一稿では薬師(女)たちが出て来るシーンが何ヶ所かあったのですが、読み返したら酷かったので全面カットしました
薬師たちの愚痴はその名残り…
おかげで椛視点ではとても平和でした




