188プレイ目 カドマン
ホワイトデーのスクショは好評だったらしいが、アイドル様難民たちが怖いので椛は反応は見ていなかった。
今回はスレ立てをしたので、雑スレ民に怒られなかった。だが前回のは動揺していたせいなので、大目に見て欲しかったものだ。
「それでフォトスタンドに飾れる写真もあるよ。いくらで売れるかな」
「人によっては全財産…」
「商売でも始めるの?」
「ううん、家に飾れるなあ、くらいの考えで…ヤバいの来るからやめておく…」
冒険者組合で会ったプレイヤーたちに聞いてみただけの椛は、大人しく引き下がった。自分用しか現像していないので売る気はなかったのだ。
そのくらいなら撮影許可するから、自分たちでやって欲しい。
「昨日はのんびりしたぶん、今日はレベル上げ頑張るぞー」
「帝都の進捗が気になるけど、大人しく薬草採取して鶏肉集めて来よう」
「ああ、ホワイトデーが過ぎたら進めるんだっけ…」
掲示板では広めていないが、知り合いにはオーフォロ王国の対応の理由を伝えてある。商業組合のギルドマスターの身分についても。
とにかくオーフォロ王国のイベントは、ゴミカスなギルマスを排除するところから始まる。もしかしたら排除が最終目的かもしれないが。
「脅威のゴミカスを排除して、国内の正常化をはかる!って感じだと思うけど…脅威のゴミカスのインパクトよ」
「なんのパワーワードだよ…」
「ゴミカスの脅威…大差ないな…」
変なあだ名を付けたせいで、いまいち締まらなかった。
検証クランの代表でハイレオン帝国の帝都レイルに向かった者たちは、役所で伝えたあとで「でも途中でゴミカスの一族の誰かの耳に入ってもみ消される可能性は?」と思い至り、頭を抱えたそうだ。
下手をしたらオーフォロ王国に迷惑がかかる、バッドルート…!と。
そこに何故か颯爽登場のランスロット様。
きっと移住者たちが役所で何か役人たちに吹き込んでいると報告を受けて、確認に来たのだろう。そんな気がする。
役所と騎士団の関係は良く分からないが、別の組織なのは確かだ。役人から聞き出すより移住者たちのほうが正確な話が聞けると思ったのかもしれない。
それでランスロットにも同じ話を伝えたので、イベントとしては保険がかけられたと喜ぶ展開だ。ゴミカスの親族が失脚すれば、オーフォロ王国にも良い影響が及ぶかもしれない。
「でも、有罪bot化した連中が…」
「分かっていたわ、とか言いながらも失意の底にいた連中が…」
「ホラーはやめろ!」
ホワイトデーの翌々日、カドマンの冒険者組合で椛はイベントの進捗が気になるプレイヤーたちと酒場のほうに集まって話を聞いていた。
すでに掲示板にも出てしまった内容らしいが、ゴミカスのシモベになったプレイヤーがいるから詳しく書けないと宣言したそうだ。
アホの存在は周知済みなので、ヘイトの大半はそちらに向かったようだ。
「行ったの男だけだったのに、それでもジェラシーがすごかったらしいね」
「ランスロット様と話せるならそのイベントを教えろ、独占するなって」
「出て来ると思ってなかったって言っても通じなかったって…」
「鬼女に人間の常識は通用しないよ、そりゃあ…」
事実、どうしようと頭を抱えていただけなのだ。ランスロットは部下だけ差し向ければ良かったのに。
いや、イベントを設定した運営がサービスのつもりで13騎士筆頭を登場させたのだろうか。
普通だったらサービスで済んだ話だろう。
「各国のイベントを進める気も、協力する気もないくせに、ランスロットが出たってだけで喚く連中に任せられる訳ないのに」
「イベントの流れを聞く気があるかも怪しいし…」
「そいつら二陣のアレを見て、帝国のイベントを進めるな!って邪魔してなかったっけ?」
「ランスロット様が出て来るなら進める気か?」
「なんかもう、研究所の前で喚いてる連中と同類な気がして来た…」
椛も区別はつかないので、同類だと思ってもいいのではないかと思ったものだ。
ようやく椛がレベル65になり、ダンジョンのボス周回を始めて素材が少し貯まって来た頃。
ホワイトデーから10日後にイベントが動いた。椛はその翌日に薬師プレイヤーたちに素材を売りながら聞いているだけだが。
「商業組合のゴミカス…じゃなくて、ギルマスが帝都に呼び出されたらしいよ」
「なんか国外追放されてたらしくて、ようやく戻れるって転移門でさっさと行ったみたい」
「やっぱり都落ち…いや、もっと酷いやつでは?」
冒険者組合の酒場で、素材のリストと予算を見比べながら薬師が話す。
「国外追放って犯罪者なんじゃないのかなあ、分からないけど」
「商業組合の職員たちが歓声を上げてたらしいよ。2度と戻って来るなって」
「本人がこんなところにはもう戻らんって言い捨てて行ったらしいから」
「何ひとつ噛み合ってないのに、お互いに同じ思いだったんだね」
カドマンの商業組合のギルマスは、奴に相応しい立場ではなかったのだ。住民たちに迷惑なだけだった。
「そこから先は検証クランが掲示板で書いてた話だよ」
「掲示板を見るほうが早いけど」
「悩みながら話すネタないだろうし、そのまま話すといいよ」
「読むのが面倒なだけじゃ?」
「要約した内容だけでいいのだ」
掲示板には変なのが良く湧くので、自分で調べるのはうんざりする作業なのだ。簡単にまとめて教えてもらいたい。
薬師たちはまあいいけど、と続きを語る。
「帝都にいても鬼女たちのジェラシーがツライから、他の街に行こうかなって相談してた所に騎士が迎えに来たんだって」
「10日も良く耐えたなあって思ったよ」
「忍耐強いね、検証クラン…」
「まあ、またランスロットが現われるんじゃないかって張ってた連中が奇声上げて自分たちも連れて行け!って喚き出して、それまでの10日間が平和だと思うくらい大変な目に遭ったそうだよ」
「騎士たちが助けてくれたらしいけど、ずっと鬼女たちに張り込まれてたなんて…」
検証クランのメンバーに敬礼したくなって来た。君たちの犠牲は忘れない。
「ランスロット様の前だったら猫を被ってるらしいけど、騎士たちもあの移住者たちは話が通じないほうって見限ってたっぽい」
帝国の騎士たちは移住者をふたつに分けて対応しているところがある。
話が通じるのと通じないのに。
椛も話の通じない連中とは話したくないが。
文字通り話にならない。
「そこはイベントと関係ないけど…そうそう、城に連れて行かれたんだって」
「謁見の間に13騎士が勢揃いしていて、左右には騎士たちがずらりと並んで。スクショが上がってるから、そこは見たほうがいいかも」
「壮観だね」
椛も1度体験しているのだが、スクショなど撮る心の余裕がなかった。検証クランのメンバーは案外肝が太い。
「皇帝の前に何人かの貴族と、呼び出しを受けたゴミカスが現われたんだって」
「オーフォロ王国内で帝国貴族の名を騙った所業について取り沙汰されて」
国外追放されたゴミカスは貴族の血統ではあっても、すでに帝国貴族ではなかった。身分を剥奪され、帝国の国籍すら持っていない。
ゴミカスは身分は偽っていない、出身を話しただけだと言い訳したが、ゴミカスの家族と共謀して犯した数々の違法行為の証拠が出て来た。
まずは商業組合のギルドマスターの肩書きを使って、オーフォロ王国に流通するはずのレアアイテムの大半を懐に入れ、暗黒街で売りさばいていた。
そして商業組合の力で、オークションにかけるようなアイテムを強引に集めさせていた。
それは実家に富をもたらし、その違法行為で集めた金で武器や兵隊を集めていた。
クーデターを企んでいた可能性が高い。
予想以上にオオゴトだな、と椛は思ってしまった。帝国内の叛逆者まで出て来るなんて聞いてない。
もちろん夜香花の件もあるが、他に比べたら霞むような話に思えたものだ。
「帝国の威信を示すことは必要だが、帝国の名に泥を塗ることと区別もつかん無能が、誉れ高き我が国の名を踏みにじりおって!って感じで皇帝が怒り狂ってたらしいよ」
「オーフォロ王国の王妃の病を治す薬の研究開発の邪魔をしてたって所が、とにかく逆鱗に触れたっぽい」
「高潔な騎士の国が下劣な商人の真似などしやがってって感じで」
「商人って転売屋だからネ」
きっと皇帝の思う商人像は転売屋だ。薬師たちも同意していた。
素材を買い占められて迷惑しているのだ、生産職たちも。
「あと移住者たちに見るからに怪しいとひと目で分かる稚拙さって言われて、帝国貴族が全てそんな無能だと思われたらどうしてくれる!って怒ってたって」
「分かる。鬼女どもと同類扱いされた時の気持ち…!」
そもそも商業組合のギルドマスターの席も、オーフォロ王国を脅して手に入れたらしい。王国の管轄ではない組織だが、国内の人事なら融通がきくからだそうだ。
商業組合のカドマン支部の幹部たちは、オーフォロ王国の国民なのだから。
「帝国としてはプライドがあるから王国に謝罪とかはしないだろうけど、王妃の快気祝いや新薬の完成を祝う使者を出すって」
「慰謝料代わりにたっぷり祝い金とか出しそう。横取りしてたレアアイテムもそういう名目で渡すかもね」
皇帝は奴らとは違うと示すためにケチらずに払いそうだ。王国側は事情が分からないと、逆に何が起きているのかと恐れ慄きそうだが。
「これで一件落着?」
「だといいね。何もアナウンスないからな」
「トシュメッツの時はワールドアナウンスがあったっけ」
とりあえずゴミカスが消えたから良しとしたい。
「解決してないのは、鬼女の件…」
「検証クランは全力で帝都から撤退したらしいけど」
「有罪botスレの更新が加速してるって…」
「…掲示板が余計見れない!」
タップミスで開いてしまったらどうするのか!
あと椛は関係ないことを鬼女たちが把握しているのか、聞きたいけど聞けない。
イベントに関わっていないとは言いがたい椛だった。




