185プレイ目 カドマン
レベルが62になって、格上ダンジョンの攻略が少し楽になって来た。
召喚獣たちも順調に強化されているが、木属性特化のダンジョンなので使いづらい属性の子たちは、他のダンジョンでレベル上げをする予定だ。水属性は木属性に吸収されてしまうので、特に呼べない。
そして採取も椛にしてはマメにやっている。今のところ薬師(女)たちと遭遇していないので、マトモなほうの薬師プレイヤーたちと冒険者組合で会えば会話するようになっていた。
奴らに絡まれたくないから他人の振りをしていただけなので。
バレンタインから時間も経っているし。
「薬師メインなら、研究所にちょっと出入り出来るようになったよ」
「研究所にしかない素材が買えたり、レシピ本も買えるんだ。高いからまだ手が出ないけど」
「たぶんこの街でしばらく過ごして、クエストとかこなして、住民たちから一定の信頼を得られたのがフラグじゃないかな」
生産職向けのイベントだったのだろうか。
もとから薬師たちが拠点に選ぶような街だったので、あり得る話だ。
「でも住民たちに対して傍若無人というか、横柄な態度だった連中はさ…」
「好感度不足っぽいんだよ」
「なのに研究所に所属したかったらしくて。薬師のエリートっぽい立場だから」
椛は遭遇していないが、薬師たちはレンタル工房が近いせいでたまに遭遇するらしい。
妖狐にゃん自慢をして、エスカレートするあまりにアイドル様sageをし始めた連中は、他人より上に立ちたい欲求が強い質なのだろう。
椛は1度見かけただけだし、掲示板もわざわざ見ていないので、薬師たちの話から感じた感想というだけだ。
「研究所に所属するとメリットが多いみたいだけど、まだそこまで言われてないんだよ」
「王立だからこの国の国民になる必要があるっぽい」
「そういうイベントがあるんじゃないかなとは思うけど、店も出したいからなあ」
「どっちにしろ大事なのはスキルレベルと熟練度なのに、エリートも何もないと思うんだよなあ」
「何が作れるかが問題だよ」
職人気質の薬師たちはオリジナルのレシピを見つけたいとか、既存のレシピの改良だとか、そういう部分に惹かれるそうだ。
椛には出来ない世界の話である。
「あ、ダンジョンのある森のほうで採取できる素材があるんだけど、そっちも少し頼んでいいかな?」
「量にもよるけど」
「追加素材として使ってみたいだけだから、少しでいいんだ」
「実物が手に入らないと効果が分からないからさ」
追加素材か、と椛は自分のアイテムポーチの中をソートして確認する。
そのうち使うかもと売らずにいた素材がたくさんあった。
椛もあと1年くらい経てば追加素材が使えるようになる気がする。でも使い切れる気はしなかった。
リスト化して、薬師たちに提示してみた。
「買う?」
「え?──わあ、欲しい!」
「このあたりじゃ買えない奴だ!」
「図鑑で確認する!ちょっと待って!」
「次に会った時でもいいよ」
全部買うのは資金的にきついかもしれないし。そう思うくらいには、1年半以上放置していた在庫はたくさんあるのだった。
オーフォロ王国のイベントの話は掲示板で拡散されたようだが、わざわざカドマンまで来るプレイヤーは少なかった。
少しはいたということだ。
だが商業組合に突撃して、商人の側につくようなアホが来てしまった。
冒険者組合の中で「エッケン行為だ!」「商人の権利を守れ!」とか、意味不明なことを叫んでいる。
クランの代表として買いに来た!と気合いを入れて椛から追加素材を購入しに来た薬師が謎のミュータント生物に遭遇してしまったような顔で眺めていたものだ。
椛もアイツ何言ってんの?と誰かに聞きたい。
「そもそも夜香花は研究所に持ち込むから、冒険者組合で言っても意味ないよね」
「クエストを受けるかどうかは個人の自由だよね」
「あと、ここにいる人、主どんの森に行かないから今は持ってないよね」
「うん、わざわざ採りに行かないよね」
つまり無意味。
結論が出たので、2人は酒場のテーブルで向かい合って交渉した。椛は高値をつける気はないが、組合の買い取り価格よりは高く設定している。
安すぎるけど大丈夫!?と心配されたが、転売屋が狙うほどレアな物はないのだ。ただこの街だと手に入れにくいだけである。
効果の確認のために最低ひとつ、実際に使った結果もみたいからふたつ、あとはどれをいくつにしよう!?と予算と比べて悩んでいた。
椛は焼き芋を食べながらゆっくり待つ。
そこそこ長く悩んでいたが買ったら試してみたくてたまらないらしく、またよろしくー!と足早に去って行った。
「職人らしい職人だね」
「だよなあ」
冒険者NPCたちも微笑ましげに見送っていたものだ。アホはまだ何か言っていたが、誰も聞いていなかった。
「今日はダンジョンに行かないのか?」
「連日のバトルでちょっと疲れたし、森で採取して来ようかなと」
「フィールドだって同じレベル帯だろ」
「うむ、たまにレベル68がポップするね」
見つけたら逃げるしかない。
ほとんど冒険者がいない過疎マップだから許される行為だ。
でもフィールドで負けると神殿送りなので、気をつけるしかなかった。
ダンジョンとは違う疲れが溜まりそうだが、気分転換にはなるだろう。
森の中を改めて探索したら、初めて見る果樹を発見した。
「無花果だ!おお、甘くて美味しい」
「ガウ」
玄幽も気に入ったようだ。
もちろん伐採して苗もいただく。同じ場所に苗をリリースして、マップで場所をマーキングしておく。
ダンジョンからさほど遠くなかったので、また育ったら伐採しに来ようと思う。
もちろん他の場所でも見つけたら確保したい。
ちょっと果物図鑑を確認したくなったが、レベルが高くて危ないフィールドなのだ。椛もそこは自重して、ブルーと星影に頼む。
「木の実があったら採って来てね。星影は勝手にどこか行かないように」
ここの追加素材は木の上のほうについているようだが、伐採して回る余裕がないので召喚獣たちに頼む。
ブルーは快諾してくれるが、星影はやれやれと肩をすくめてから探しに行った。
月牙と流星が周囲を警戒するように歩き、玄幽は無花果を探している気配だが放っておき、椛は採取物を探して歩いた。
まだ召喚枠は空いているが、逃げずに戦うと決めた時以外は逃走優先の布陣だ。
この森でヤバいのは遠くからでも分かるデカいクマでもシカでもなく、小さいからって5匹で群れているリスたちだ。
しかもレベル68が5匹も出て来る可能性がある。
見た目は可愛いので従魔士が喜びそうだが、充分にレベルを上げないとテイムどころではないだろう。
ダンジョンは森の入口からそんなに離れていなかったので、探索してみて気付く脅威だった。罠を仕掛けている時も幸い出会わなかったし。
「ああいうのをトラウマ製造機って言うんだろうな…」
この森に探索必須の何かがあったら、確実に呼ばれていただろう。
ダンジョン以外に必須要素はなさそうだが。
そうして探索して回り、椛もだんだんと身にしみて分かって来た。
ここは気分転換で来るところではないと。
次に気分転換したくなったら鶏肉回収に行こう、と心に誓った椛だった。




