184プレイ目 カドマン
椛はレベル上げに着手し始めたが、やはりレベル差5~8が出て来るときつい。
特にレベル68の魔物には勝てそうにない。
温いバトルに馴れてまた腕が落ちた気がする。危険度の高い所で戦うぞ!と盛り上がって頑張っていたのはいつで、どうして止めたのだったか。
でも今は危険度よりレベル上げのための経験値稼ぎである。何度も全滅してダンジョンの入口に戻されているが、確実に経験値は増えている。
レベルがひとつでも上がれば効率も上がるだろう。
バトルジャンキー化しているっぽい流星や玄幽は、負けても楽しそうに戦ってくれるので心強い。
ちなみにこのレベル65ダンジョンは森のフィールドにあって、周囲に罠を仕掛けるとヴィスタの黒兎に次ぐ美味しさの兎がたくさん捕まえられる。
レア枠の鹿も椛は美味しいと思うが、月牙は兎肉が好みらしく、こちらを喜んで食べていた。
騎獣にも好物設定があるのかもしれない。
グルメハンターだの食材ハンターだのと言われているが、気にしないことにして集めて冒険者組合で売っている。美味しいは正義なのだ。
他人に迷惑のかからない正義である。
という感じでダンジョンアタックをしてから、椛は王都カドマンに戻って来た。
ここはMP回復ポーションのために第二のホームになりそうな街なのだが、NPCたちとは良好な関係が築けているので居心地は良い。
「お帰りなさいませ、椛さん。王妃様から感謝状が届いていますよ」
「え、なんで?」
その日は冒険者組合に入るなり受付嬢に言われて驚いたが、薬学研究所に夜香花を売った者たち全員に届いているそうだ。
オーフォロ王国の王妃の直筆の感謝状なので、この国では持っているだけで住民NPCたちの好感度が上がりそうだが、記念品扱いのアイテムのようだ。
「全員に1通ずつ手書きとは…大事にします」
アイテムポーチにしまっておく。
コレクター気質のプレイヤーが「知ってたら売りに行ったのに!」と騒ぎそうだが、声ばかりデカい連中はスルー案件だろう。
目に見える効果のない物には興味を示さない傾向の者が多いから。
それからクエストを見て、薬師プレイヤーたちの依頼があれば納品しておいた。
レベル65ダンジョンの薬草類は、ダンジョン内で簡単に採取できる物でも転売屋に狙われ始めるらしいのだ。
レベルが上がって来たので、採取しに行く冒険者が少なくなって行くからだろう。
MP回復ポーションの素材のために行く冒険者が多いはずだが、そのポーションを作ってくれる薬師に売ってしまうのかもしれない。
なので市場に出回りにくくなり、転売屋に狙われるのである。
だが他のゲームにもいた転売屋はあくまでプレイヤーの転売屋だったが、この世界では転売屋NPCがゴロゴロしている。
改めて考えると、奴らの存在は必要だったのかと聞きたくなるところだ。
「さてお肉ー。鹿は1頭でした!」
「おお、やったな!」
月牙のために解体した兎肉は多めに確保したが、他はそのまま売ってしまう。
職員や冒険者NPCたちはニッコニコである。
良いお肉なので値段は上がるのだが、奮発して注文する客のほうが多いそうだ。次はいつ食べられるか分からないから。
売却が終わったので、椛は酒場のマスターに注文する。リクエストして作っておいてもらった兎肉の野菜たっぷりホワイトシチューだ。
焼いても揚げても蒸しても美味しいが、今日はシチューの気分だったのだ。
「他の客にも好評だったから、また作ってもいいかもな」
「この街の野菜も美味しいからね」
受け取って一口食べる。期待した以上の味なのは、野菜の旨みだろうか。
具だくさんでボリューム満点で、満足感も高そうだ。
テーブルについて、椛は近くの冒険者NPCたちと鹿肉は何が美味いかと談議しながら食べた。
NPCたちと交流している時が、1番異世界で冒険者をしている気分になる。
異世界じゃなくてゲーム世界だけど、細かい事は気にしないのがコツだ。
翌日、椛が冒険者組合に行くとプレイヤーの冒険者や検証クランが来ていて、何やら集まって相談していた。
冒険者NPCたちも何やら微妙な雰囲気である。
椛はプレイヤーたちのほうに尋ねてみた。
「何か事件でも起きたの?」
「事件じゃないけど、変なクエストが出てるから何だろうって話してた」
「なんで商業組合の名義で冒険者組合にクエスト出してんだって」
商業組合のほうでもクエストは受けられる。冒険者組合にある物とは別で、生産職が作った物を納品するクエストがメインである。
あとは冒険者組合にはないレアドロのクエストなどがあって、そちらのほうが報酬が高額なのでチェックすることはある。
だが商業組合がわざわざ冒険者組合にクエストを出しているのは、見たことがない。
「しかも今さら夜香花の買い取りクエスト」
「1輪1000Rだから、高いと言えば高いけど」
「イベントの続きくさい…」
それは気になって話し合いにもなる。椛もクエストを確認して、怪しさしか感じなかった。
クエストを出す時は依頼者が単価を設定できるので、組合の買い取り価格より高く設定するのは普通だ。
売店で並べる価格よりも高いくらいなので、クエストで納品したほうが冒険者としては儲かる。
買い取り価格より低い値段は設定できないらしいが、確認しないとぼったくり価格のクエストもある。
手数料の無駄だから少ないのだが、流行り物が高騰している時などは要注意だ。
なので夜香花の値段はどうでもいいが、どうして商業組合が怪しい行動をしているのかが問題だ。
「あ、受付で言われたけど、夜香花は研究所で買い取りしてもらえるって。紹介状がなくても、夜香花を門番に見せれば通してもらえるようになったそうだよ」
「特効薬の素材になるからって大々的に公表したんだって」
レシピが完成する前は、買い取る理由を言えなかったのだろう。箝口令が出ていたとも言っていた。
だが確実に必要だからと、直接買い取りを解禁したようだ。
「あれ、最後にドカンと200本近く売ったから、段階がいくつか飛んだ気がするんだよね」
「…あと数本で達成するところまで来ていた的な?」
「1輪1000Rでも感謝されてデメリットなさそうだったから、ここまで売りに来てたプレイヤーも多かったみたいだからね。主どん素材も1部で人気だったし、副産物で手に入るから」
アンセムで売るより倍額で、しかも安全に金策できたのだ。差額で転移代を払っても儲けのほうが多い場合もある。たくさん持ち込めば。
「その後は病人が何人いたのか、特効薬ひとつにつきいくつ夜香花が必要か分からないけど、200本あれば足りたんだろうね。ついでに予備も作れた、と」
「1日に15本くらいしか採れないから、そんなに集めないもんな。主どんに蹂躙されてツライから…」
「負けないけど、蹂躙されてツライから…」
椛のような回避特化の軽装備ではないプレイヤーには、レベルがいくつになっても主どん戦はツライらしい。
ルルイエの高速泳法ボスのほうがツライぜと言えば、絶対に近付かない!と怯えていた。
椛も奴とはもう戦いたくない。
「とにかくイベントが一気に進んだんだと思うんだ。なんか商業組合の妨害っぽいよね」
「目の色を変えたキッズが来る?」
「やらかしそうだから来て欲しくない」
「トシュメッツの後日談みたいに地味なイベントっぽいよって思わせるように誘導しておこう」
「まあ、商人が相手だと地味っぽいから誘導するまでもないかも」
王侯貴族が相手ではない。だいぶ地味なイメージだ。
そう思ってくれたほうがいいなあ、と隣のサーバーの事件を思い浮かべて思ったのだった。




