16プレイ目 ヴィスタ
王都ヴィスタに戻った椛は、騎獣とお散歩とわくわくしていたのに、目の色を変えた商人たちに迫られて慌てて冒険者組合まで逃げて来た。
激レア枠の騎獣はNPCたちのあいだでも高額で取り引きされているらしい。
むしろ買えるものだったのか、と思ったものだ。
「月狼と契約できたんですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます。でも商人コワ」
「この都は商業も盛んですから」
確かに、ラヴィナの街では被害に遭わなかった。街には入らなくても北門周辺で気にせずに召喚していたのだ。目ざとい者なら気づくだろう。
「あ、召喚士に転職もして来たんだ」
「え?」
「双剣で戦うスタイルは変えないし、補正が乗らない分は仲間の力を借りる的な」
椛が双剣士だったことを知っていた受付嬢が珍しく絶句していた。
召喚士の資料にはあれこれ書いてあったが、やはり双剣(前衛物理)で召喚士はイロモノ枠のようだ。
そんな気はしていた。
「それで職クエストがあるって聞いて」
アンセムで受けたままの双剣士の職クエストの存在を思い出して「やらかしたー!」と思ったが、召喚士は特殊職ということでクエストは残っていた。
武器種ひとつまでという制限はあるようだが、双剣以外を使う予定はないので充分だ。
その流れでラヴィナの組合で説明してもらったのだが、召喚士の職クエストは王都にあるという。
さらに幻獣が出現する特殊クエストを世界各地で受けられるが、どこにあるかは現地の組合で確認しないと分からないらしい。
ゲーム的な設定だ。
「そうなんですね。召喚士の方も少ないので驚いてしまい、失礼しました」
「少ないのかー」
「クエストを発行している〈召喚士友の会〉の方々以外には、この国にはいないと思います。他国では廃れてしまって研究が進まないとか」
「そ、そんなにかー」
あれ、思った以上に茨の道?
この広い世界で幻獣を探す楽しみを味わってもらいたくて(ノーヒント)って話?
椛は疑念に囚われかけたが、クエストの内容に意識を向ける。MMOなのだから他のプレイヤーと情報を共有すればいいのだ。
「えっと、報酬は、なんですかね」
最初の報酬は【ぽよぽよ】
そこで躓いた。
「召喚獣ですよ。王都の中やごく近くで契約できる幻獣なんです」
「ああ、種族名。【ぽよぽよ】【リビング・ソード】【小妖精】か」
ぽよぽよ以外は想像がつく。
「ぽよぽよとは」
「とっても可愛くて癒やされるんですよ!」
「な、なるほど?」
「子供たちに大人気のヴィスタのマスコットのような存在です。連れ歩くと月狼以上に囲まれてしまうでしょうからお気をつけ下さい」
子供たちどころか、組合内のNPCの大半が相好を崩して「あれは良いものだ」とばかりにうなずいていた。
激レア枠の騎獣より人気というのも信憑性がある。
いやアレは商人たちが目を金貨にして群がってくるだけで、人気というより値段だが。
「自分で召喚士になって契約する人はいないんですか」
「ぽよぽよが好きというだけで人生を決められませんから」
プレイヤーにとってはただのゲームだが、NPCにとっては人生なのだ。
遊びだから適当に行きあたりばったりな椛だって、リアルはもう少し真面目に考えて進路を決めたものだ。
「いない訳ではありませんが、あの方は特殊ですし…」
「え?」
変わり者はどこにでもいるようだ。
召喚士の職クエストを出している〈召喚士友の会〉の拠点は、住宅街にある普通の民家だった。会員数が透けて見える。
一応看板がかかっているので間違いようがないのだが、受付嬢が驚いたのも分かった気がする。
扉をノックして少し待つと、アクビ混じりの声が「何のようだ?」と聞こえて来た。
「召喚士の職クエストを受けて来たー。たのもー」
扉が閉じたままなので大きめの声で応えると、なんだとと慌ててどこかにぶつかる音がしてから、40歳前後に見えるむさい男が飛び出して来た。
魔術士の好むローブ姿だ。
「…む、召喚士になる気があるのか?」
「召喚獣は本来、召喚士の支援をするものだって物の本にはあったよ」
「召喚士について少しは調べて来たようだな」
調べもせずに転職するアホがいるのだろうか。
いやプレイヤーの中にはいるかも。
などと考えつつ、むさい男に促されて建物に入った。友の会の集会所だと言ってリビングに案内された。
今は7人しかいないが、会員数は2桁いるそうだ。10人だって2桁ですよね、はきっと禁句だ。
「新たな召喚士がやって来たぞ!」
「双剣士にしか見えないんだが?」
「なんでもいいわ。これで研究費が増えるわね!」
椛は入会する気はないが、召喚士人口が増えるだけで研究費が増えるのかもしれないので黙って聞き流した。
一通り会員たちの反応を見てから、むさい男が椛に問いかけた。
ちなみにむさい男Aとかむさい男Bもいるが、区別する必要性を感じない。椛はマッチョやオネエや男臭いのはいいのだが、不潔な人間とは関わりたくない。
「召喚士になれたということは契約を済ませたのだろう?最初の召喚獣は何だ?ここで呼べるか?」
あんまり広い部屋ではないので、大きさの問題を言っているのだろう。
「騎獣サイズだけど、まあ」
流星が窮屈な思いをしそうだが、クエストだからと妥協して召喚した。
「あんっ」
「…ただの騎獣じゃないのか?」
「いや、召喚時の魔法陣が違うだろ。召喚獣だった」
「え、未発見の幻獣ってこと?」
流星の愛らしさに1人として言及せずに言い合っている。流星は「ここどこ?」「月牙はいないの?」と気にも留めていないが。
「種族は銀狼。あとで幻獣図鑑を見ようと思ってたから、良く知らないよ」
「あおんっ」
そうだよボク銀狼なんだ、とドヤ顔の流星がとにかく可愛い。銀狼が何であっても推せる。
銀狼だって!?とまた内輪で言い合い始めた連中は放って、椛は流星をモフって過ごした。流星も気持ちいいのかご機嫌だった。
「とにかく銀狼だなんて信じられん。この幻獣図鑑にも載っているが、銀狼といえば伝説の幻獣だぞ。森の木々よりも巨大で見上げるほどの巨躯。満月のごとく爛々と輝く眼で睨まれたら恐怖に震えて動けなくなるという」
「あんっあんあんっ」
「そうだよ、知り合いだよ、かっこいいんだよ、ボクもいつか大きくなるんだ──と言ってる気がする」
流星は「そうなのー!」とますますご機嫌だ。椛はひとつうなづく。
「銀狼の仔どもってことで」
サイズ的にもそう考えるのが妥当だろう。
言動は幼児に近い気がする。
「ところでいつクエストが始まるの?研究だの討論だのは後にしてもらえないかな。それとうちの子を実験材料にしようだなんて考えんなよ」
そこはきっちり釘をさしておく。
いかに銀狼が珍しかろうが、不当な扱いに甘んじる気はなかった。
いかにもフィールドワークなどしないで閉じこもって研究しているだけという見た目の連中は、前衛物理で野蛮そうな椛の脅しにビクッとして青ざめていた。
これでも中の人は歴戦のゲーマーなのである。レベルは低いが場慣れはしていた。
「そ、そうだな。近くのぽよぽよのところから行こうか」
「流星、また後でね。次は月牙も一緒だよ」
「あんっ」
わーい、またねー、絶対だよー、と言いながら(椛の妄想と幻聴)流星は送還されていった。椛も早く再会したい。
怯えられて距離をとられていたが、最初に扉を開けて出迎えたむさい男が代表で歩きだした。下っ端の雑用係ではなく、会長だったらしい。
でも他の仲間に顎で使われている気配がするのだが。
「近くってどのくらい?」
「ここの住宅街の中だ。ぽよぽよ保護区になっているから、召喚士以外を連れて行くなよ。過激派に襲われるぞ」
どんだけだよと思いながら、ぽよぽよ保護区に向かったのだった。




