169プレイ目 ファルティ
東の大陸との貿易港リュリュアンからエルフの国に行くには、陸路なら北回りのルートと南回りのルートがある。
一度ジダ公国のサミの街で合流するが、また北と南の2ルートに別れる。
冒険者組合で尋ねたところ、犬獣人は北ルートを推し、猫獣人は南ルートを推すのでアテにならなかったが、聖堂で尋ねたら「海路が1番速いと思いますよ」と教えてもらえた。
聖堂は中立なので、犬獣人の導師様なのに猫の国の港を経由する船を推したのだ。きっと1番信用できる。
「冒険者組合がアテにならないとは思わなかったな…」
「受付嬢が鬼女と化す世界だよ…」
「西にはいねえよ、たぶん」
「西の果ての兎の国、メルヘンだといいね」
「ラーメンも西の果てかあ…」
「カレーは砂漠を越えるか船で行く国だってさ」
「船1択だろ、それ」
各々情報収集した話をしながら出発の準備をした。
船で行くのなら出港日時を確かめて予約する必要がある。だが手間を考えても、ログアウト中に進むので陸路より楽で速く着きそうだった。
エルスティ王国の王都ファルティ。
それが椛たちの目的地だ。
ログアウトしている間に到着した港街シャクナはエルスティ王国の南東の端、ムビア内海にかろうじて接している街だ。
ここがなければ南に広がる熱砂の大砂漠を含む古サマリータ王国をぐるりと迂回して西側まで行かないと港がない。
椛たちは隣の国の港街で降りてから行けば良いだけだが、エルフの国にとっては東側との重要な貿易窓口のはずだ。
「聞きしに勝る塩対応…」
「商売相手には愛想良く対応してるみたいだったぞ」
「冒険者は適用外なんだな」
エルフの国はエルフの英雄の試練をクリアしないと滞在するのもツラい国だと聞いて来たが、試練に挑んでいる間に精神修行もしろという設定なのか。
塩対応というより仇敵でも睨むような目を向けられるので、長居したくない気持ちは分かってしまった。
「逆に、こんな対応なら試練のクリア条件が実は簡単って説が浮かんで来た…」
「分かれば簡単って設定か」
「分からんから先行した連中が喚いてたんだろ」
「話が通じない判定喰らってるタイプの連中じゃないの…」
「…あの攻略組、会話の重要性は理解したはずだよな」
「理解と実践は別の話だろ…」
攻略組たちは我先にと西の大陸に渡ったと聞いている。最前線にいたいタイプだから攻略組を自認しているのだろう。
後続に何の情報も開示しない自称攻略組とか、空気みたいな存在感だけど。
そもそも一本道のRPGなら攻略情報の価値は高くなるが、どこへでも行ける進行ルートが無限大のオープンワールドでは先行という概念が希薄だ。
行く先々でイベントをガンガン進められるのならともかく、このゲームはそういう分かりやすいイベントがなかった。
「簡単だったら何しに来たのよ、アタシたち」
「そうだぞ!英雄に稽古をつけて貰えなくなるだろ!」
「ランクSS様の試練なんだから難しいに決まってる!」
願望しかない意見だが、試練を突破したいのではない。椛たちは飽きるほど修行をしたいのだ。ランクSS様の指導の下で。
という訳でさっそく街を出ると巨大な森が現われた。森の南には熱砂の大砂漠が広がっている。
砂漠との境い目が不自然だが、それも何か理由があるのだろう。
エルスティ王国は国土の全てが森で、街道をうかつに逸れると迷うという。マップがあるから大丈夫なはずだが、全部森というパワーワードよ。
「魔法大国アルヴィーナくらい広い国土の全てが森…」
「東よりクセが強いなあ…」
「どんどん正体を顕して来た運営のよう…」
森を見て、ため息を着きそうになる。
鬱蒼としていて、昼間でも暗い森が延々と続くのだ。2日くらい進まないと王都に着かない。
途中に街はあるが、きっと太陽が恋しくなるだろう。
陰鬱な森を進んでうんざりした気分の所に出て来る敵意マシマシのエルフの門番たち、という街に着いてもツラい状況だったが、王都ファルティに着いた。
エルフの英雄が同じエルフ クオリティでも強いから気にならない。ならないはず。
門番たちの態度にケッと吐き捨てたいのを堪えて、まずは聖堂に向かう。導師様だけはエルフでも優しいので、相談するまでもなく聖堂に来ていた。
転移門に登録するという大義名分があるし。
王都の導師様も優しいので少し癒されて、椛たちは肝心なことを尋ねた。
「エルフの英雄に腕試ししてもらう試練ってどこで受けられるんですか!?」
「試練を受けるのですね」
マップに目的地がマーキングされる。態度の悪い門番もマップはくれたので、カナーラント王国の王都よりはちょっとマシと言えなくもない。
「うーん、騎士団や衛兵隊の訓練所があるあたり?」
「道場があって、英雄自ら若者たちを鍛えていらっしゃいますよ」
「すごいな、エルフ…」
「精強なエルフ軍…」
「いえ、合格すると卒業させられて、稽古を受けたがる者ほど受けられないので…」
駄目なほうをしごいているらしい。
羨ましいような、そうでもないような。
お礼を言って道場に向かう。
大通りのエルフたちがどんな目で見て来ようと、今だけは気にならない。
むしろ卒業させられた連中にザマァと言いたい。
エルフじゃないからきっと卒業できないんだぜ!
……と思っていた頃が椛にもありました。
意気揚々と道場に入り、クランマスターの頼闇から試練に挑み、だんだんとクラメンたちの表情が絶望に染まる。
英雄が強すぎた訳ではない。
ちょっと攻撃を仕掛けただけで「合格、次」と言われて相手もしてもらえなかったからだ。
最後のロウガイが1番指導してもらえていた気がする。
港街でフラグ立てたの誰だよ!と怒られたが、フラグの有無など関係なかった。
「うむ、よく鍛えているな。装備も整えているし、其方らは問題ない。向こうで合格の証を受け取って帰るといい」
「や、やだー!落ちこぼれになってここに住み着きたーい!」
「はっはっはっ、良く言われる。帰れ」
聖女様と同じ年頃の初老のイケオジは容赦なかった。
最初は態度の悪かった道場の門番たちが、叩き出されるように出て来た椛たちに同情してくれた。
「おれもどうにか10日に一度の門番の仕事をもらってここで見学させてもらってるけど、指導目当ての連中はすぐに合格するんだよ。指導を受けたいって時点で合格というか」
「おのれ、落ちこぼれども…」
「移住者が試練とか意味わかんねえって喚いてなかったか!?」
「あー、すぐに来なくなったらしいな」
羨ましいが、どうやって合格したと聞かれても答えようがない。
逆に合格できずに指導してもらえる方法を教えて欲しいくらいだ。すでに手遅れだけど。
「その腕章は見えるところに着けておけよ。英雄様が認めた証だから、我々もその判断に従う」
「英雄様がいない時代はどうしてるの?」
「数々のクッソ面倒くさい試練を受けることになる。生産職はそっち」
「…そっちかあ」
何がどうクッソ面倒くさいのか不明だが、きっとツライやつだ。そんな気がする。
椛たちは門番に礼を言って、忠告通りに腕章を着ける。見た目装備のアクセサリー枠だった。
意気消沈と大通りを歩けば、別の街のようにエルフたちがにこやかになった。豹変っぷりがすごい。
ここは腕章を貰わないと話が始まらない国なのだろう。
「どうするー?頼闇はエルフ美女に興味ないんだっけ?」
「そんなことないわよ。でもバニーちゃん…」
「一転してキラッキラしてて眩しいな、この国…」
「さすが美男美女の一族…」
イケメンアバターのタグも埋没する麗しい人々の国だ。モブ顔が多い椛たちは場違い感が酷い。
「なんか、エルフの国に美味しい特産品があるってどこかで聞いたな。なんだっけ」
「はちみつより美味いっていうなんとか蜜か?」
「あ、椛から聞いた気がする」
「それだ!アンセムの領主様の好物だ!」
通行人たちに聞き込みをして、花蜜のことだろうと言われた。そして街の北、白亜の城のさらに奥を示す。
「見えるだろう。あの大きな木が世界樹だ。その手前の花畑で採取できるんだ」
「木ばっかりで気付かなかったけど、なんかでっかい…」
「すごい遠そうなのに、こんもりしてる…」
世界樹という名前がもう強い。絶対に重要な場所である。
でもエルフの英雄に認められた証があれば、街の北門から行けるそうだ。
「ちょっと見て『合格、次』としか言われてないから、英雄への信頼の篤さ以前になんかこう、それでいいの!?ってなるのですがそれは」
「そう思えるならやっぱり、英雄様の見る目は確かだな」
確かに図々しい連中は当然だという顔で気にしないかもしれないが、一般的な良識があったら感じるものではないだろうか。
エルフの通行人は「本当に美味しいから食べてみるといいよ」と笑って立ち去った。
「…全プレイヤーがクリア出来る試練なのかな」
「クリア出来なくても、それが貴方の進む道ですって言い放ちそう」
「あのPVな」
一陣は「えー」となった程度だが、二陣は大荒れだという。やり直しさせろ!と元凶のプレイヤー以外は言いたくなるだろう。
「きっと合格前のエルフの国だぜ」
「やだー…」
たった2日で帰りたくなったのだ。
NPCたちから嫌われまくっている二陣のプレイヤーたちの状態が、少しだけ分かった気がしたのだった。
エルフの英雄オルキストス
と書くタイミングが掴めなかったのでこんな所で…
試練の合格条件は
1、冒険者ランクA以上
2、プレイヤーレベル50以上
3、プレイヤーレベルと同等の装備
4、アンセムで教官に10回以上指導を受ける
orヴィスタの魔術学園で10回以上授業を受ける
or神殿で10回以上修行する
椛は自分に関係ないので知らない話ですが、ヴィスタを拠点にしているロウガイは魔術士なので魔術学園にたまに通っています
治癒士は神都の修行以外にも、各街の神殿で修行出来ます(椛やシラベの参加している読み聞かせ会とは別の話)
4、の条件を満たせていない人への救済措置として、英雄に100回指導を受けると合格できます
この場合の救済措置は「合格の条件が分からない人」に対するものであって、知っていれば各地で10回やって来たほうが簡単(むしろ罠)
ついでに「クッソ面倒くさい」のは戦闘職メインのエルフNPCの感想であって、生産職の人ならそんなに大変ではありません(ミスリードして来る門番エルフの罠)




