167プレイ目 ゼロイス
クラン『チャレンジャーズ』のメンバーがゼロイスのクランハウス建設予定地に集結していた。
それはアンセムの冒険者組合の受付嬢からもたらされた情報だった。
「エルフの英雄が手合わせしてくれる…」
「腕試し…ランクSSの弓使いと…」
「妖狐にゃんに当てられなかった見知らぬ弓士とは違う!きっと噂のキャットテイルにも百発百中だよ!」
「試練に合格しない限り腕試しが続く…!」
何の試練かすら知らないが、全員がわくわくしていた。椛も心はエルフの国に旅立っている。
「ヤマト国はどうするのよ!」
……いや、1人だけ意固地になっていた。
椛は顔をしかめて頼闇を見る。
「どうもこうも、行きたい所に行くんだよ。ゲームに義務もクソもねえ」
「カレーライスよりランクSSの英雄だろ!」
「俺も塩ラーメンで妥協する!」
「お前も有罪botの前で『椛ならランスロット様が話を聞いてくれるのに』とか『椛がランスロット様に会えばイベントが進むのに』って煽るのいい加減やめろよな」
「てめえ鬼女どもに何吹き込んでやがったー!?」
ありえない話を聞いて椛はキレた。
有罪なのは頼闇である。
「兎の国に行って兎ちゃんハーレム作って兎テロ写真を送りつけまくるぞコラ!」
「作れる訳ないわ!」
「伝家の宝刀、女同士の付き合い!オネエには永遠に分からねえ境地だろうよ!品質10の美味しいお菓子を持って行けば一瞬で作れるんだぜ、ハーレムはよお!」
「目当てが菓子だけだな」
「でも兎の女の子たちがきゃっきゃウフフな雰囲気なのは確かだな」
「ア、ア、アタシも兎ちゃんハーレムうぅう!」
「土下座して謝れ!」
「謝る、謝るからアタシもハーレムに混ぜてえぇ!」
──という戦いの果てに和解した。
長く激しい戦いだった。
「でもエルフの国が先だからな!勝ったわたしに決定権があるからな!」
「分かってるわよ。ああ、兎ちゃんハーレム…」
「もっと早く言えば良かったんじゃないか」
「…だってカジノのバニーガール、商業組合の受付嬢と同じ匂いがするじゃん。頼闇の好みのバニーたちに囲まれるのは、最後の手段だったんだよ…」
出来れば使いたくなかった。
頼闇好みの女は、椛の好みと違うから。
男ってああいう女が好きよねぇ、と同じ女からは嫌われるタイプというか。
頼闇と好みの違う男たちも、そういえばという顔になる。
「男が全額払うのが当たり前ってタイプだな」
「搾り取られるだろうな」
「そんなことないわよ!」
頼闇のことは放っておくことにして、出発はいつにするか、西の大陸行きの船の乗り方はどうなのかと相談する。
鬼女の街ブロムから船が出ているが、椛もこっそりと乗るしかない。
「リアルで2日かかるのと、中継島に登録するタイミングをはかるのと、最後のバトルがあるからな」
「土日の時間のある時がいいみたいだな。船の上でやることなくてヒマらしいけど」
「定番の釣りは?」
「釣りスキルのレベルが20くらいないと、マトモに釣れないらしい」
「釣り…買ってすらいなかった」
「やりたいって思った覚えもなかった」
椛は釣りより読書のほうがマシかなと思う。先日仕入れた本ならあるし。
「ロウガイも一緒に行きたいって言ってたぞ」
「常時召喚枠の魔術士は大切にしておこう」
「闘技場の魔術士部門とか出ればいいのに」
「そういうのは苦手だってさ」
「苦手だから魔術士やってんだよ、って言う奴もいたな」
好みは人それぞれなので、出たくないなら放っておくことだ。
「昔ちょっとだけかじったFPS、射撃が主流でもナイフで特攻してたなあ…当たらない銃よりマシだった」
「俺も潜伏してナイフで奇襲してた」
「何の話だよ」
「苦手なものの話」
そんな話をしてから、椛は思い出してロウガイにメッセージを送った。
お菓子メインの料理人たちにも、一緒に行かないか尋ねてみてと。まだ西の大陸に行っていないようだし、ハムスターと契約する目的は果たしたし、行きたいタイミングかもしれないから。
自分で聞かないのはフレンドになっていないからだ。クリスマスでもチャンスを逃したので。
船の出航には条件があるため、事前に申し込んで出航日時を決める必要があった。
椛には出来ないので、一緒に行くメンバーに手続きしてもらう。その出航日時が街で公開されると便乗する客たちが集まって来るので、何日か前に決める必要があるそうだ。
リアルで数日でもゲーム内では4倍の日数が経つため、集客期間はそれなりにあるのだ。
出航日まで椛はアンセムで過ごし、森の主どんの素材を集め、夜香花を採取し、教官の指導を受け、危険度Bのダンジョンに行って時期尚早と帰ることになったりしていた。
危険度Bで行き詰まっているのにランクSSに挑むのか?と聞かれそうだが、経験を積むためなのだ。叶うなら覇王とも戦ってみたい。
「焼き芋の補充は充分か!」
「常備薬かよ」
「ホントに好きだな、焼き芋」
そして出航日、椛は鬼女たちを躱して船にたどり着いた。ギリギリになったが、そのほうが鬼女たちの被害が他の客に及ばないだろうと思ったからだ。
椛はいつも通りに被害を受けたが。
なんとか出航して、ブロムの港が遠くなって来たところだ。鬼女の声もやっと聞こえなくなった。
「料理人たちがいたら、生のさつまを渡して焼いてもらいたかった…」
「仕方なかろう。まだ行かなくて良いかなという結論になっただけじゃ」
エンジョイ勢なので、西の大陸の食材は気になるが、どうせ転移代が払えなくて活用できないから今回はやめておくと言われたそうだ。
行くならランクSの菓子職人のいる街に滞在したいから、準備をしている段階だとか。
一緒に行けないのは残念だが、いろいろ考えてるんだなあと感心した。椛たちにはその場の勢いしかないのに。
「代わりにおじさんにたくさん焼いてもらったからいいんだけど、なんかプレイヤーが多いね」
「掲示板で行くぞと騒いだせいじゃろ」
「そんなにエルフの試練を受けたい人がいたのか…」
ロウガイが笑っているが、第二次西の大陸探検隊みたいなノリでプレイヤーが船に乗っているのだ。
他に西の大陸に新しい魅力でも見つかったのだろうか。
「でもあの辺は生産職だし、何が目的なのか」
「トシュメッツのイベント目当てで残ったものの、西の大陸に行く冒険者が見つからなくて渡れなかったのかもしれない」
「ああ、そういう人もいるのか」
「アイドル様目当てかもしれない」
タグの適当な推測に、どっちもありそうと思った。月詠を召喚すると騒ぎになりそうだから、船に乗っている間は呼ばない気がするのだが。
「…絵を描きたい。モデルが欲しい」
「狐でも描けば?」
「ドラゴンみたいなカッコイイ奴だよ!」
画伯らしいタグの要望に、それなら良いかと紺碧を召喚した。近くにいた船員に召喚獣だからと説明して許可を得た。
「カッコイイ紺碧が描きたいらしいから、付き合ってやって」
気位の高い紺碧もそう頼めば「我の素晴らしさを理解するなら良かろう」というように大仰にうなづいてみせた。
タグが喜んでイーゼルとキャンパスを出して準備し始めた。
「ワシは読書と洒落込もうかのう」
ロウガイは日陰を選んで椅子を出した。
クリスマスイベントのチェアである。
「あ、いいね、それ。わたしも…」
「どうした?」
タグも同じ椅子を出していたが、椛は今になって気付いた。
「プレゼントボックス、1個も開けてなかった…」
「なんでだよ…」
「ケーキで頭がいっぱいだったのじゃよ」
「うおー!言い当てんなー!」
クリスマスといえばケーキの思い出しかない椛は、椅子が出るまでプレゼントボックスを開けまくった。
こういう時に物欲センサーは働き始めるものなので、なかなか椅子が出てくれなかったものだ。




