157プレイ目 メルツ
数日ほど帝国騎士団の兵舎で過ごした椛だったが、ようやくイベントが動き出した。
こんなところで停滞したままになったら西の大陸に高飛びしていただろう。
プレイヤーたちもイベントが進むぞとトシュメッツ国の首都メルツに集まっているらしい。
「アルヴィーナ王国の人も来てるんですね」
「ええ、隣接する国ですもの」
椛は全国に指名手配された犯罪者扱いだが、聖女様が庇ってくれているという設定だ。
帝国の庇護下にあるより、国家間の関係に支障が出ないだろうということで。
聖女様に同行して入ったトシュメッツ国の城は、外観同様に派手だった。そして内装は和風のデザインである。
「ヤマト国のようだわ…」
「外はそんなでもなかったのに」
外観は派手だが日本の城とは似ても似つかないデザインだ。アルヴィーナ王国やハイレオン帝国に多少似ているかもしれない。
二大国の使者たちと合流して向かった先には、大きなテーブルのある会議室があった。椅子も並んでいるが、デザインそのものは和風である。
奥で待っていたヨボヨボの老人は、目だけ爛々と光らせて椛を見ていた。
この状況でも椛が持っていると思っているらしい。たぶんアホなのだろう。
各々が席について茶番を始める。
ランスロットが来たそうにしていたが、外交官たちの他に護衛の騎士が怪しまれない人数だけ同行している。
13騎士など以ての外だ。
アルヴィーナ王国側も同じような人員だ。
そして犬猿の仲の二大国は、演技を忘れて素で睨み合っている。話が脱線気味だが、このくらいのほうが怪しまれないのだろう。
「それで、我が国の宝を盗んだ冒険者は引き渡していただけるのでしょうな」
「その宝とは何かな?冒険者を尋問したが、そのような物は所持していませんでしたぞ」
「見た目は宝には見えないでしょう。ただの石に見えるのです。レンツに隠されていた秘宝なのです!」
殺生石が欲しくて堪えきれないようだ。
墓穴を掘りだした。
「えー、ただの石を拾っただけで問答無用で全国に指名手配したでござるかあ?」
「なんです、その言葉遣いは」
「ヤマト国の侍とか忍者はこんな感じらしいでござるよ。にんにん」
聖女様に「聞いたこともありません」と否定された。
どういうことだ、運営!
「ただの石にしか見えないのなら、何故それを説明もしなかったのだね?」
「警告をしたのに抵抗されたと報告があったのだ!」
「拙者、いやそれがし、抵抗した覚えなど御座らぬ──これはどうッスか!?」
「知らないわ」
ヤマト国の侍が分からない。
葵の御紋が必要なのか。桜吹雪のほうか。
「聖女様相手にそのような態度は、かの国の者も取らないだけだろう。大丈夫だ、ヤマト国の武士はそんな感じだ」
「え」
アルヴィーナ王国の外交官の言葉に、今度は聖女様が驚いていた。
丁重に持て成されたことしかなかったらしい。勇者様御一行なので。
「この者は知らぬと証言しているが?」
「その盗っ人の言葉を信じて妾を、ワシを疑うのか!」
「だって襲われたのわたしじゃなくて、他の男たちだし」
「詭弁じゃ!」
「それにわたしが拾ったの、妖気がむわあってした怪しい石だし」
ただの石など拾っていないのだ。
「気付いていた、だと…!?」
「あんな見れば分かるもの、気付かねえ訳ねえだろ…」
「そうね…」
「そうだな…」
全員が同意するので、ヨボヨボ爺もようやく気付いたらしい。
「貴様等、キサマら、キサマラアァア!!」
「最初から殺生石だって知ってた!残念!」
「アレは妾のモノじゃあぁあ!!」
ここでワールドアナウンスが流れた。
《九尾の妖狐が正体を現しました》
《七つの災厄・九尾の妖狐戦が開始されます》
されます、で終わりらしい。
メニュー画面にも特に説明は増えてない。
「奴は七つの災厄最弱、でおなじみの九尾の妖狐さん、いらっしゃ〜い」
「な、なんじゃと!?どこでそのようなことが言われておるのじゃ!?」
「え、今テキトーに言っただけ」
「…た、倒されたバハムートより上なのじゃー!!」
本人も最弱なのは認めているようだった。
聖女様が輝く杖でヨボヨボ爺に光を浴びせた。ぎゃあ!と白い小狐が現われた。
爺のほうはどさりと倒れ伏す。
「ちっちゃい…九尾どころか1本…」
「妾の力の大半は殺生石になっておるだけにゃ!ひとつでも取り戻せれば貴様らなど一網打尽にしてくれるのにゃあ!尻尾も戻るにゃあ!」
「聖女様、あれ猫又ッスか?」
「…妖狐のはず、よ?」
小狐がにゃあにゃあ言っているのだ。
運営は何がしたいのか。
そして聖女様が杖を振り上げると、小狐は「ヒイィ!」と悲鳴を上げて逃げた。
「聖女に殴られたら妾は死ぬにゃ!」
「やはり最弱…」
「殺生石さえあれにゃー!」
あればー!と言いたいらしい。
呆れていたら窓から逃げられた。
「あ、アホすぎてうっかり!」
「どういうことかしら…」
聖女様も小動物をいじめている気分になってしまうらしい。無理もない。
「あれなら我々だけで──」
二大国の騎士や魔導士が聖女様に訴えようとしたが、窓の外の異変に気がついた。
椛も小狐が開けて逃げた窓に駆け寄って外、街の様子を見た。
「なんか戦ってる…トシュメッツの兵…ううん、一般の人たちでは?」
「そうだわ!九尾の妖狐と言えば、その魅了の力で一国を支配したと言われていたはず」
「様子のおかしい者だけかと思って油断しました…!」
「これだけの人数を一度に操れるなんて…!」
城の前の通りから、中央の神殿の辺りまで大勢の人たちで埋め尽くされていた。プレイヤーたちもいるだろうが、数万人がうごめいているように見えた。
メルツの街のNPCたちが操られているらしい。
「でも妖狐を倒せば終わりですよね?」
「そう、そうだわ。原因を取り除けば」
椛は掲示板に小狐姿の九尾、ではなくただの妖狐になっている姿のスクショを載せる。なんとなくで撮っておいただけだ。また戦うか不明だったので。
『にゃあにゃあ鳴く変わった妖狐です。召喚獣に出来るかも』
適当に煽っておいた。
見る余裕があるか分からないが、けっこう掲示板で情報収集している者は多い。
椛ものんびり読む時間などないのだが、書き込みはイベントらしくかなりの速さで増えて行く。
「じゃあわたしも下で探してみます」
「我々は向こうに。聖女様も」
「ええ、手分けしましょう」
たぶん小狐は聖女様にだけは近付かないだろう。回復系だろうと、この場で最強だから。
椛は飛び降りるか少し考えて、諦めて階段に向かった。高さより人の多さが問題だったのだ。絶対に踏みつける自信がある。
誰が門を開けたのか、城の庭にも人が溢れていた。
「妖狐にゃーん、小狐の妖狐にゃーん、人に化けたら絶対に幼女姿の妖狐にゃんやーい」
妖狐を煽るためではない。
プレイヤーたちを焚き付けるために呼んで回った。
すぐに妖狐にゃーん!と探す声が増えた。幼女ツオイ。
「最弱可愛い妖狐にゃーん、聖女様はいらっしゃいませんよー。ここは安全だよー。聖女様から逃げた最弱さんやーい」
妖狐を煽る言葉も増やして、操られている人々を躱して駆けた。
途中から面倒になって屋根の上に登った。
「騎獣で駆けたい…さすがに駄目か。そうだ、かくれんぼ師匠と鳥…馬でいいか」
フクロウの賢翼が星影を乗せてくれるとは思えなかったので、忍者仲間っぽい光馬を召喚した。
「小狐の妖狐を探してるの。空から探せる?」
星影と光馬は「まかせろ!」とばかりに仲良く飛び去った。もちろん光馬の背中に星影が乗った状態だ。
ブリリアントなところが隠密に向かないが、人が多くて賑やかなので目立つまい。
真似して召喚獣を放つ者たちもいたようだが、誰かが倒せばそれで良い。
目的はあくまでヤマト国だ。確か。
椛は付き合いで探しているだけで、そこまでヤマト国にこだわりはない。黄金のさつま芋は絶滅していたし。
1番の問題は指名手配の取り消しだしな…と思いながら屋根の上から街を見回したのだった。
白い小狐のイメージはアローラ□コンではなく、『うしお○とら』の白面○者だと思われます
ノーマルの妖狐はキツネ色(尻尾は1本)(小狐ではなく成体)




