14プレイ目 ラヴィナ
椛は雑談スレにさっと情報を投下して、反応は確かめずに掲示板を閉じた。
当分触らないのが身のためだ。
騎獣は手に入れたのでラヴィナの街に用はないものの、急いで帰る理由もない。次にいつ訪れるか分からないし、観光や周辺の攻略をするのもいいだろう。
街に戻って来た椛は冒険者組合で受付嬢に尋ねてみた。
「騎乗スキルって覚える方法あるの?」
「騎士団で訓練を受けると覚えられるのですが、まずその国の国民であることが条件になりますね」
「あー」
移住者はカナーラント王国の所属ではあるが、国民ではない微妙な立場だ。教えてもらえない気がする。
「ハイレオン帝国では国民以外でも訓練を受けられるという噂はありますが…」
「アルヴィーナ王国と仲の悪い国ってのは聞いてるよ」
「はい。冒険者組合は国境を越えた組織ではあっても、国家間の影響を受けないわけではないんです」
冒険者組合の受付嬢は申し訳なさそうに言うが、組合の職員は現地の国民なのだ。
仮想敵国という噂まで出る国の情報は流れて来ないだろう。
椛はマップを確認し、ハイレオン帝国は大陸の北東部にあって、かなり遠い国だなと思う。
「じゃあ話は変わるけど、上位職の転職条件ってどう調べたらいいのかな」
「神殿の転職の間の神官様がお詳しいと思いますよ。その人の職に合わせた助言を下さるはずです」
「本職の人に聞けってことだね」
プレイヤーの求めるわかり易い条件ではなく、ヒントをくれるのかもしれない。
まさか1番知ってそうなNPCに尋ねていない訳がない。たぶん。
「あと召喚士に転職できるようになったけど、どういう職か調べるのは」
「それならこちらにも資料はありますが、神殿の資料室のほうが詳しいかと」
「神殿の資料室も無料で開放されてたの?」
転移門以外に用がなくて、資料室があったことも驚きだ。
他のプレイヤーは気付いているのだろうか。
特にあの時のセイジョ(笑)さんとか、神殿は自分だけの縄張りみたいに主張していたが人の話を聞かないタイプだったし、資料室の存在に気付いていたのかどうか。
つい連想して思い出したが、きっともう二度と会わない相手だ。
余計なことを考えずに、受付嬢に軽く礼を述べてから神殿に向かったのだった。
転職の間は転移門の間のすぐ近くにあった。
どちらも担当の神官が控えている。
「そういえば転職の代金って」
「レベル×10000Rになります」
「うおおう」
ふと尋ねたら意味の分からない金額を返された。レベル25の椛は25万Rかかるということだ。ゼロイスの1等地の土地の代金より高い。
「あなたは移住者のようですから、最初の1回は10000Rでよろしいですよ」
「こんなところに移住者特典があったなんて」
10000Rも十分高いし、やってみて合わなかったというプレイヤーへの救済措置としては不満しか出ない設定に思える。
しかし25万Rのインパクトに比べたら、まだどうにかなる値段ではあった。
「えっと、上位職になる条件のヒントがもらえるかもって聞いたんですよ。わたしは双剣士なんだけど」
「まずその職のスキル、あなたの場合は双剣術ですね。それを充分鍛え上げた末に、新たな道が拓けるでしょう」
スキルレベルも熟練度も全然足りねえよ出直してこい、という話だろう。
サービス開始からさほど経っていないのだし、仕方がない。早々に上位職になれると思っている連中は、MMOのやりこみ要素をどう認識しているのか。
「どこかで必殺技みたいな技を伝授してもらえ、っていう条件なんかは」
「上位職のさらに上の職にはそういった条件がついたりしますね。有名なところで、騎士系統なら天馬と契約しているとなれる天馬騎士があります」
「あの年に2、3回くらいしか目撃情報のない、滅多に会えない天馬…しかもレベル80は必要っていう」
「帝国の筆頭騎士が天馬騎士なんですよね」
「実在してるー!」
それ無理だろと言おうとしたのに、達成した猛者がいた。
NPCだからそういう設定というだけなのだろうが、つい叫んでしまった。
狙うプレイヤーもいるんだろうな、とも思う。
椛なら端から狙う気が起きないやつだ。
転職をするつもりで来たわけではないので、一通り聞いた椛は資料室に移動した。
神殿の資料室なので神話や伝承がメインだが、転職出来る施設でもあるため、職に関する資料も並んでいた。
だが基本職に関するものだけなので、プレイヤーたちがないない騒いでいたのかもしれない。
「双剣士だ」
召喚士の資料を探しながらも、自分のメイン職の本をつい手に取ってしまう。
ぱらぱらと軽く目を通したところ、双剣士の特徴や活かすための立ち回りの例、レベルアップで覚えて行く技のリストに各アーツの特性など、チュートリアルとか冒険者組合で講義して欲しいくらいの内容だった。
「なんか、こう、攻略サイトの説明っぽいな」
なんで神殿の資料室に置いたのコレ、と言いたい。
また後で読もう、むしろ売っていたら買いたいと思いつつも棚に戻して、召喚士の資料を探す。
最初から選べる職ではなくとも基本職にカテゴリされているのは確かなようで、無事に発見できた。
こちらはきちんと読むつもりなので、取り出して机が並ぶ読書スペースに持って行った。
他に利用者がいないので静かだが、司書役の神官が入口の近くの席に着いている。
話に付き合ってくれるタイプには見えなかったため、距離を取って座った。
『召喚術が魔術に分類されるため魔術職と思われているが、実際は特殊職である。
契約した召喚獣に戦わせて術者本人は後方から支援するスタイルが一般的だが、召喚獣たちの能力から鑑みて、召喚獣から支援を受けて戦うのが本来の在り方ではないかと推測される』
読みはじめて、またなんか思ってたのと違うこと言い出した、という気分になった。
テンプレはもう飽きた、とか開発・運営が言い出しそうである。
だが違う方向に持っていきたいがために、召喚士の能力が特殊な仕様になっていることに気づく。
レベルアップするとステータスが成長するのだが、このゲームでは職で伸びやすい能力が決まっていて、自分で振り分けることは出来なかった。しかもランダム性があるため、同じ職でもステータスに違いが生じてしまう。
そこで特殊職の召喚士である。
プレイスタイルの違いで必要なステータスが変動するからという言い訳のもと、能力値を自由に振り分け可能になっていた。
これだけ聞くと召喚士1強とか言い出す者もいるだろうが、双剣士なら双剣術に補正がかかるのだ。召喚士で双剣を使うと弱体化してしまうという話である。
椛にはデメリットのほうが大きく感じる。
しかし次の一文でメリットが上回った。
『召喚士は一体のみ召喚獣をCTなしで常時召喚可能である』
1時間という制限付きの流星をずっと召喚しておけるということだ。
これだけでもうデメリットなんてどうでも良くなってしまった。
「わたしは召喚士になる!」
「お静かに」
思わず声を上げたら怒られてしまった。
椛は謝りながら本をもとの場所に戻して、資料室をあとにした。
メニュー画面を開いて所持金を確認する。
「ギリギリだな。素材を売ればどうにかなるハズ」
これを使ってしまうと今夜の宿代もなくなるが、なんとかなるだろう。
椛のプレイスタイルは行きあたりばったりだった。




