152プレイ目 キリトア
キリトアの街はハイレオン帝国の北西部に位置する街だ。氷の平原の近くではあるが、雪の多い地より手前にあるため、そこまで寒くはない。
ただし防寒スキルがないと寒いし、時々雪が降る。積もるほどは降らないので、雪国という雰囲気はなかった。
「良かったね、紙一重で」
「なんで帝都中を駆け回ってまで探すんだろう…」
「ヒマだったんだろ」
キリトアの街で椛とクランの仲間数人は、のんびりと冒険者組合内の酒場で煮込み料理を食べていた。
椛がいつもの罠で捕まえた白熊の肉がメインの料理だ。
レア枠だけあって、蕩けるような美味い肉だった。ピリ辛の味付けも寒い場所ではさらに食欲を刺激する。
スキルで防寒していても、寒い場所にいるという雰囲気がそう思わせるのかもしれない。
帝都でランスロットに本を渡した件が掲示板で広まっていた。たぶんランスロットのファンという女性プレイヤーたちが発信者だ。
ランスロット様に声かけられてるー!という嫉妬メインの書き込みから始まっていたらしいので。
前に見たグループか、他にもいるのか。
あのストーカーっぽい連中はいなかったはずなのに、気付かなかっただけなのか…
それはどうでも良いのだが、トシュメッツ国のイベントを進めようとして失敗した連中が「横取りされた!」と犯人捜しをしているらしいのだ。帝都中を駆け回って。
パーティ単位で動いていたらしいが、そんだけいて全員マトモに会話できてないのかよとか、横取りも何もすでに失敗してるだろとか、いろいろ言いたい。
そもそも掲示板のネタを横取りしたのお前らのほうだろ、とか。
それ以上に会いたくないが。
「アルヴィーナ王国のほうは?」
「館長は特に注目を集めるNPCじゃないからなあ」
「図書館にいるプレイヤーも積極的に何かするタイプじゃないっぽいし」
そもそも他にプレイヤーが図書館にいたかどうかも不明だ。おかげでそちらは騒ぎにならず、あわよくばと行った別のプレイヤーが館長に「それもう聞いたよ」と返された、イベントなんてなかった、と勘違いする流れになっているそうだ。
ロウガイが笑い転げている気配しかない。
「何故ランスロット様はあの場に現われて、声をかけて来たのか…」
「やっぱり本を持ち歩いたからじゃないのか?」
「そんな条件がある?」
考えても分からないので、その件は終わりにした。帝都で喚いている連中も、いくらヒマでも他の街まで来ないだろう。
マトモなら来ないと思う。
「来たら転移プレートで帰ろう」
「それが良いな」
転移門は使わないだろう。たぶん。
来る予定ではなかったので、椛たちは受付嬢におすすめクエストを聞いたり、2階の資料室でレベルや危険度のちょうど良いダンジョンを探していた。
探しながらも解放されたばかりの西の大陸の話をした。少しずつ新しい大陸に到達したプレイヤーが増えているのだ。
生産職もこの流れに乗って行く者が多いらしい。
「レベル60以上の冒険者が同乗しないと船が出ないから、今なら確実に便乗できるって考えだろうな」
「予想通り途中でバトルが起きるって話だし」
「今ならレベルの足りない冒険者も便乗できるからな」
「けっこう同乗者が多いから、強制バトルも負けないで済んでるらしい」
椛も雑談スレがこの話題になっていたから少しは知っている。東の大陸にいるのは「ヤマト国がー」とか言ってた一部だけなのだ。
「…あ、西の大陸を後回しにしてこっちに残ったのに騙されたって話?」
「全て自己責任だけど、それもありそう」
ちょっとだけ帝都を駆け回っている連中を思い出したが、それは終わった話だ。
「水中戦だっけ?死に戻りもなし?」
「船に戻してくれるってさ」
「やっさしーい」
運営もそこは優しさを見せたようだ。
大陸間の移動には現実換算で2日、ゲーム内で8日かかるのだ。バトルは最終日に起きるそうだし、出港側の街に戻すほど非道ではなかった。
中間に中継島ハーゼルという島があって、そこに寄港した時に転移門に登録はできるという話だが、ログアウトしていて逃す者もいるだろう。
「最初に着く街は獣人の国だってさ。犬人族の国と猫人族の国が隣合っているとか」
「獣人は子供たちが可愛いって」
「キャットテイルが生息してるのも猫人族の国のほうって言ってたぞ」
「あー、あれ…可愛いワンコの魔物は!?」
「知らねえ」
「さすが犬派」
早く行きたくなったが、可愛いなら話題になるだろう。先行した者たちの報告を待てば分かるはずだ。
全て放って西の大陸に向かうしかない日が来るかもしれない。
むしろ来て欲しい。
「犬派なの?可愛いかどうかはともかく、ストロベリイヌっていうレアな魔物ならいるよ。図鑑にも載ってないくらい幻の魔物だけど、テイムに成功した従魔士が現われたって噂だったよ」
不意に資料室の職員が口を挟んだ。
椛たちは名前をオウム返しにして想像してみた。
「ストロベリー…イヌ?」
「イヌとストロベリーの共通点が分からない」
「なんでも小型犬くらいの大きさで、頭がストロベリーそっくりらしいね」
「…分からん!」
「分かりたくない!」
デザインした奴もゴーサイン出した奴も、頭がどうかしていたのではないのか。
そう思うほど意味が分からない魔物だ。
「レアって言えば、キャットテイルにも幻の亜種がいたなあ」
「模様がレア?」
「長毛種とか?」
「キャットテイル番長って言うらしいよ」
追求するのはやめた椛たちだった。
今日の収穫は『魔物図鑑』にも載っていないレア魔物が存在するということだろうか。
検証クランに情報提供したら「知りたくなかった!」と怒られたが、運営に言って欲しい。
ストロベリイヌはテイムした従魔士を探すほうが現実的だと思われる。
調べものをして時間が潰れたので、その日は街の商店街を見て歩いた。玄幽と星影を召喚したのは、ハムスターが何か見つけて来るかなと思ったからだ。
「…椛のハムスター、自由だな」
「なんの指示もしてないのにどこ行くんだ?」
「やっぱりうちの子だけおかしいの!?」
「ガウ」
自由忍者・星影は玄幽にまで認められる変わり者だった。
他のメンバーもハムスターを召喚していたが、勝手にどこかに行く様子はない。
「たまに混ざってるのかな、変わり者…」
「歌って踊るのも変わり者だからだったりしてな」
「全てがアイドル様なのもおかしいからなあ」
「他のぽよぽよだって回ってないだろ」
「あー…でもぽよちーはすすんで選んだ子だし…」
ワルツのリズムで回るぽよぽよもレアだった。椛もぽよちーに関しては不満はない。回っているだけだから。
「バトル中にいなくなるとか、そういうことはないから実害はないけど、うん…」
「あ、戻って来たぞ」
どこに行っていたのか、星影は戻って来て椛の肩まで登ると、今日もハズレだぜ、ふーヤレヤレ、というように肩を竦めて首を振っていた。
クラメンたちに「面白い」と笑われている。このジェスチャーも珍しいようだ。
「何を探してるの?」
聞いてみたら、何故か腕組みをしてドヤァ!としている。分からない。
「誰か、誰か通訳」
「分からないけど面白い」
「いいじゃん、個性的で」
他人事なのでみんな笑うだけだが、確かに面白可愛いのでまあいいかと思えて来た。
実害が出てから考えよう、と日和った椛だった。
Q、なんでバレたの?
A、騎士団の兵舎周辺で張り込んでいたランスロット様ファン(プレイヤー)が「ランスロット様が御出ましになられたわー!」と仲間に拡散したから
ストーキングされているのはランスロット様のほうでした




