143プレイ目 メルツ
イベントの告知を見て、椛は10月だからなと納得した。ハロウィン第2弾だったからだ。
去年のアイテムも復刻して、新規アイテム(後日発表)も交換できる!との事だ。
待ち合わせをして首都メルツの西門の所で落ち合ったロウガイとイベントの話をする。
「狼男セット以外は交換した覚えがないけど、ハロウィンは平和だったっけ…」
「いたずらゴーストを忘れた、だと…?」
椛が玄幽に装備したままの狼耳としっぽを思い浮かべていると、ロウガイに信じられないものを見る目を向けられた。
ほぼ演技だ。
「いたずらゴースト…あれか!」
ハムスター大活躍イベントである。
ハムスターと契約していないと効率が落ちるくらいにハムスター優遇イベントだった。
特に戦闘をしない生産職が街中を駆け回っていたものだ。戦闘職はフィールドで探しやすかったので。
「思い出して来た…盗難事件の前振りがあって、教官たちが指導してくれなくなって、貢献度が貰えるって気付いてからがアレだった…でも今は貢献度の話なんて誰もしてないよね」
「良く忘れられるものじゃ」
「お爺ちゃんは昔のことは良く覚えてるよね」
老人扱いされると喜ぶロウガイは、楽しそうに笑うだけだ。
椛はイベントの詳細を見直した。同じ内容とは書いていなかった。
「いたずらゴーストかな…」
「ハムスターはまだ生産職には敷居が高い召喚獣らしいからのう」
「だよね」
他の話題に流されて忘れたままの人もいるだろう。忘れたままになっているのだから、本当はそんなに欲しくなかったんじゃないかな。
と思うが、思い出したらまた騒ぐのだろう。そんなものである。
余計なことは言わなければ良い。椛は掲示板もあまり見ていないので大丈夫だ。
「あ、掲示板で思い出したけど、あれはいつ上げよう」
「もっとも効果的なタイミングじゃな」
「平和なタイミングがいいな…」
月詠とミルクの可愛いダンスの動画である。目指せ!100万再生!
一陣のプレイヤーは1万人弱だけど。
もう少し待とうかな、と思ったのだった。
告知は来たがまだ開始まで1週間あるので、椛とロウガイはダンジョン攻略の続きをして来た。
素材回収がメインだが、装備が出来たらボス周回の予定である。ドロップ品はしばらく温存するつもりだが。
「なんかプレイヤーが増えた?」
「検証クランがあのネタを公開したからじゃろう。城に入れると人気じゃよ」
「小一時間語られるのはいいの?」
「掲示板でも見て聞き流すらしいの」
NPCにバレてないのかな、と椛は呆れる。
関係改善クエストを軽視しているプレイヤーは減らないのかもしれない。
椛ならそんなものをやるくらいなら、小一時間耐えたほうがマシだった。
「…口コミで噂が広がって、遅咲きのブレイクを迎えたと喜んでいる頃だろうか」
「真実を知ってしまった時…惨劇が始まりそうじゃ」
九尾の妖狐の復讐劇が、そのうち始まる。
そんな気がした。
くだらない話をしながら冒険者組合に入って、それなりに親しくなって来た買い取り窓口のおじさんに声をかけて罠で捕まえた獲物を渡す。
月牙のおやつ以外は今日も全て売却だ。
「なんか変わった連中が増えたよな」
「何かあったの?」
「いくら首相の書かれた本でも、あれはなあって言ってた本が売り切れる勢いで売れて、作者の話を聞きたがるんだよ」
「あー…九尾の妖狐の本って他にないらしいからじゃないかな」
「作り話だからだろ」
やはり《七つの災厄》の話は発禁扱いなのだろう。だが恐怖も何もない、変な自伝っぽいものだから許されたのか。
椛も我慢してちょっとだけ読んだが、いかに贅沢三昧していたのかくらいしか分からない内容だった。
ヤマト国の名物料理の話だけはつい真面目に読んでしまった。
「ヤマト国には世界一美味い栗の品種があるとか、黄金に輝く芋がいかに美味かったかとか、最高級の餡子の菓子の美味さとか、その辺は気になるよ」
「読んだのか…」
「その辺だけ」
職員の反応にロウガイが笑っている。
「ヤマト国名物は有名なの?」
「だから作り話だよ。餡子はともかく、そんな栗や芋の話は聞かないぞ」
「実在しない、だと…!?黄金のさつま芋が!?」
「たとえあっても港街以外は立入禁止だしな、あの国」
そういえばヤマト国は出島のような港街以外は鎖国していて入れない設定だった。
きっと解禁イベントがある、と信じているだけである。
「わたしのワクワクを返せ…!」
「食い物しか興味なかったんだな」
おじさんはサクサクっと解体して、おやつ分の肉だけ返し、椛に入金確認して終える。待っていた酒場のマスターが使う分だけ買い取っていた。
「そういえば余ったお肉は、まさか転売屋が…」
「これは肉屋や食堂なんかに優先的に回してるよ。売店で扱ってないからな」
肉は素材ではなく食材なのだ。組合の売店は食材は扱わないそうだ。
「まあ、売ってくれってしつこいけど」
「懲りないよな」
転売屋はしつこくないとやってられないのだろう。早く全員廃業して欲しい。
組合の酒場でマスターの肉料理を注文して、椛とロウガイはテーブル席で食べ始めた。
そうしていると、増えている変人もといプレイヤーたちの会話が耳に入って来た。
「九尾の妖狐って伝説の幻獣だろ?これは絶対にイベントで契約できる流れだぞ」
「だよな!どんな強さなんだろうな」
奴らは何を言っている?とつい椛は眺めてしまった。
「夢が広がリングじゃよ」
「またいつの時代のネタか分からんこと言い出して…」
「だから人気じゃと言ったではないか」
「…そういう意味だった!?」
一過性ではなく街に増えている理由は、絶世の美女(自称)の伝説の幻獣と契約するつもりでイベントの続きを探しているからだった。
《七つの災厄》の話は知らないのだろうか。
聞きたいけどアホに余計なネタを教えたくない。そんな気分である。
「…いや、だとして、妖狐がどこにいると思ってるの?」
「良く分からんのじゃ。関連のイベントだと盛り上がっておるが、あの本をマトモに読んだ様子がないしのう」
「えー…」
作者が怪しい、と思ってすらいないのか。
首相はヨボヨボの老人(男性)だったので、関係ないと思っているのだろうか。
「明後日の方向を探し歩いて、何が見つかるのかな…」
「さての」
いかにも九尾の妖狐本人が書きました、という内容だったのは椛も分かった。ちょっとだけ読んだから。美味しいものの思い出に嘘は感じなかった。
思い出して食べたくなっている人の文章だった。気がする。
「狐って化けるよね」
「狸と化かし合いをしているイメージじゃな」
「ヒントも見ずに推理してるみたい」
「推理などしとらんよ。手当たりしだいに家探しすればいいという脳筋思考じゃ」
それは駄目そうだ。
「もしかして大きい銀狼もイベントで契約する流れだと思ってるのかな」
「そういう解釈が多いのじゃ」
「じゃあ魔術学園が怪しいよ。守衛さんが言ってたし」
「詳しく」
ロウガイが掲示板に書き込む気満々で聞いて来たが、嘘ではないのでいいかなと思った。
「なんか新しい七不思議が増えたって言って教えてくれたけどね」
「現地で誰かが確認すれば分かることじゃな」
みんな自分に都合よく解釈するのだろう。
椛だって絶対にありえないとは言えない。一介のプレイヤーに分かることではないのだから。
「夢という名のブラフが広がる…」
「噂とはそのようなものじゃよ」
幻の獣だしな、と思ったのだった。




