142プレイ目 メルツ
「わたしは今、真の闇の戦士となってしまった…!」
「リボンを外してから言ったらどうじゃ」
闇属性の防具とアクセサリーで闇耐性100%になった椛がノリで言っただけなのに、ロウガイのツッコミが冷たかった。
でもリボンは外せない。呪い耐性が減るから。
メルツで活動中の職人プレイヤーは、いい仕事させてもらったぜとご機嫌だ。自作装備の出来も満足の行くものだったようだ。
「次は光属性のダンジョンに行くから、また機会があればよろしく」
「特に街を移動するつもりないし、こっちこそ頼むよ」
ということでフレンド登録しておいた。ロウガイも同じくフレンドになったようだ。
そうしてプレイヤーの屋台や露天の並ぶ通りに来たついでに、他も覗いて歩く。特に料理人のところは「和食っぽいものが作りやすい」と意外と人が多いらしい。
和食メインでやりたい料理人もけっこう多いようだ。
「邪道団子は作るの?」
「ああ、あの小麦粉と芋で作るイミフ団子…食べるのは良いけど作りたくないね!」
和食料理人は和食が作りたいのであって、変なものを作りたいわけではないそうだ。
椛とロウガイも納得した。
「でも食べるのはいいんだ」
「だって団子の味だし、普通に美味しいし」
違いが分からないなら良いのかもしれない。
椛はちょっと安心して、またあの店に行こうと思ったものだ。次は饅頭も食べよう。
醤油と味噌がなくても作れる和食チャレンジっぽいメニューを見て、好みのものを買う。
日本酒もないので料理に使う酒は代用品だそうだ。
味醂もない、アレもない、コレもないと思ったより足りない中で作ったという。
そういえば焼きそばは青のりと紅生姜がないから駄目だったという話を聞いた覚えがある。調味料以外もいろいろ足りないらしい。
「なんか、ラノベの醤油と味噌さえあれば和食が食える!っていう暴論を真に受けてた」
「いろんな調味料があるからのう」
スーパーマーケットの調味料コーナーだってあんなに広いもんね、と納得した。あんまり料理しない椛だってあそこは良く行くので。
「あ、柚子ならあるよ」
何気なく言ったら和食料理人たちの目の色が変わった。
やはり柚子は和食のお供のようだった。
また伝説の幻獣ミーティアが発見されたと話題になっているらしい。
出現率が上がったのかな、と椛は呑気に思いながらロウガイの話を聞いた。
「今度は動画が上がっておっての、発見直後から契約を持ちかけるあたりまでがありのままに映されているのじゃ」
「へー、見てみようかな」
「撮影者のハアハア言う不審な声付きじゃから、要注意じゃ」
「…オチが見えた気がする」
「うむ。怯えて消えてしまったのじゃ」
四代目も幻となったそうだ。
撮影者は自分の不審者っぷりが自覚できないらしく、何がいけなかったの!?とキレ散らかしているらしい。
きっと後で我に返って動画を取り下げるだろう。きっと興奮状態で冷静になれていないのだ。たぶん。
ちなみに女性プレイヤーだそうだ。
「見たいけど見たくない…あ、ミュートで見よう」
「つまらんことに気付いてしまったのう…」
「もふもふさんのところはきゅうきゅう鳴くらしいけど、なんて鳴いてた?」
「自分の耳で確かめることじゃな!」
月詠のみゅうみゅう鳴くところから連想した椛だが、ロウガイは教えてくれなかった。
それなら諦めようと思う程度の話である。
「じゃあ検証クランの結果報告は聞いた?」
「妖狐の件か。城に招かれて小一時間語られたそうじゃな」
「イベントが進んだのかどうか分からないけど、ウザ話に付き合えば城に入れるのは確定したらしいね」
九尾の妖狐の怪しい本の作者について聞いて回ったら発生したイベントらしい。
この国の首相が招いてくれるそうだ。
めっちゃ怪しい。でも内容はないもよう。起こす価値も分からない。
そんな報告だった。続きもなさそうだし。
「やる?」
「やらなくていいのならやらんのう」
椛も必須イベントではない限り起こさなくていいなと思ったものだ。
それでもこの国のシナリオに《七つの災厄》のひとつにして、伝説の幻獣にもされている九尾の妖狐が関わっているのはほぼ確定に思えた。そこは進展したと言えるだろう。
「帝国で研究してるって話もあったよね」
「繋がるのかのう…」
誰か進めてくれないかなと思っているが、こうして予想するのは嫌いじゃない。
無責任に言っているだけだからだろう。
またアイドル様の供給依頼が来るのかな、と思って椛とロウガイはダンジョンの入口のセーフティエリアで相談していた。
月詠は流星と一緒になって月牙にまとわりついているところだ。
椛としてはこの光景こそ尊い。
「あんっ」
「みゅっ」
犬派なら喜ぶことだろう。
「ねえ、月詠。そろそろアイドル様の次の芸…じゃなくて、新作動画が欲しいって言われそうだけど、何かある?」
「みゅ?みゅーう…」
えー、仕方がないないなあ、と腕組みをして考えている。流星が「楽しみ!」と期待に煌めいていた。
何か思いついたようで月詠がみゅうみゅう言い出した。ロウガイと2人でジェスチャークイズに挑む羽目になった。
「みゅみゅう」
「しっぽ…じゃないの?」
「背中…背後…奇襲型忍者、も違うようじゃな」
背中を向けて前肢を左右に広げてパタパタさせている。流星も首をかしげているから難易度が高い。
「あ、天使!じゃろ?」
「みゅーう!」
「おお、ミルクと共演希望なの?」
ようやく分かったが、ロウガイが言った。
「今の一連の動画で良くないかの」
「アイドル様のジェスチャークイズ動画」
「みゅっ!?」
月詠に何かやりたいことがあるらしいので、それはまたネタ切れの時に回して天使のミルクを召喚した。
月詠がミルクにみゅうみゅうと何か説明して、ミルクがふむふむと頷いていた。
「みゅっ!」
始めるよ!と言っているようなので、月牙と流星も観客席側に移って大人しく座った。
まず月詠がみゅっみゅうと歌うように鳴いて、ぴょこぴょこ跳ねる。歌に合わせてミルクがステップを踏む。
1人と1匹がくるくると踊っていた。
月詠が奏でるメロディは初めて聴くものだった。
1曲分だったのか可愛いダンスを披露していたが、曲と共に終了した。
椛は動画の撮影を止めてから拍手をして褒めた。ロウガイも拍手をする。
「すごく良かった!これは100万再生も余裕だね!」
「1人100回見る計算じゃが行きそうじゃのう」
「みゅうー」
月詠は照れながらミルクに甘えている。すかさずなでなでする天使。
今日の月詠はドヤらないらしい。
「すぐに上げる?時期をうかがう?」
「まだその時ではなかろう」
四代目との契約を失敗した人が荒れているだろうから、もう少し落ち着くのを待つことにした。
「…この光景のスクショだけでも良い気がして来たのう」
「そうかもねえ」
月詠とミルクのところに流星も行ってじゃれている。1番大きな身体だが、流星が1番子供っぽい。
もちろん月牙は父親ポジで見守っていた。
公開するかはともかく、スクショはたくさん撮った椛だった。




