117プレイ目 ヴィスタ
椛はオーフォロ王国からチャイリンの街に向かう街道を通ったので、王都に来たのは久しぶりだ。
ついでにルヴィスも久しぶりだったので、懐と相談しながらもストロベリーは買って来た。
「金策…じゃなかった、雷鳴平原に雷属性の素材を集めに行きたいんだ」
「雷属性の素材は海洋大国で高く買ってくれるよ」
「なるほどー…」
王都ヴィスタの冒険者組合の資料室で尋ねたら、残念な話をされた。
そこは鬼女の群れが潜んでいるので行きたくない国だ。
「海に行くなら、水属性無効を付与できる素材も集めたほうが良いね。ブローゼスト王国で調べたら分かると思うよ」
「な、なるほどー…」
クランの誰かに伝えて、必要なら雷属性の素材と交換してもらうことも視野に入れておこう。
椛は行きたくない。むしろ行けない。
ともかく雷鳴平原の資料を調べて、ダンジョンについても確認した。
武器素材になるのは、推奨レベル50で危険度Cか、推奨レベル60で危険度Dの2ヶ所で入手できる。
「…これ、実質同じ難易度なんじゃない?」
「レベル60の人ならそう感じても、レベル50だと行けないダンジョンになるよ」
「あ、それはそうだね」
やはりレベルが低いほうが難易度は低いのだろう。全くそんな気がしないが。
「危険度Dなら、ボスは狙わなければ行けるかな…」
出来れば倒したいが、ブローゼスト王国で倒す前に王都から脱出するはめになったので、まだ倒したことがない。
レベル上げで危険度の低いところばかり狙っていたから、腕が鈍っただろうし。
そう考えると危険度Cも挑みたい。
レベル差があるから、きっと前よりマシだ。
…いつか同格の危険度Cをクリアしてやりたいものである。
何度かふたつのダンジョンに挑んだ椛は、冒険者組合の酒場で叫んだ。
「やっぱり同格じゃねえか!」
「それなー」
「危険度Eとか易しいダンジョンに入り浸って、余計に感覚なまってるからだと思う」
「レベル60のダンジョンのほうがマシじゃった…」
同じく雷属性の属性を集めているクランのメンバーとロウガイが、危険度Cの洗礼を受けて来て休んでいた。
今日はもう帰る、でも時間余った、とうだうだしているだけだ。
椛も精神的に疲れたから、今日はログアウトしようと思っていたが。
「つまり今闘技場に戻っても、負けが増えるだけだよ。あそこで少し鍛えないと」
「だよな…」
「でも危険度Dから慣らしていこうぜ」
椛は闘技場に戻れないが、それでも同感だった。楽をしていると下手になる一方だ。
「他のプレイヤー、どのくらい素材を集められるものじゃろう」
「無くても大丈夫だよ、参加するだけなら」
「多少は集まるだろ、入口付近で戦うだけでも」
「死に戻りが嫌なら諦めるだろうけど」
そういうプレイヤーもいるだろうが、椛たちの考えることではない。
武器を新調するならボス素材も改めて集める必要があるし、防具に使う素材だって吟味したい。
水属性無効はアクセサリーに付与するらしいので、素材が大量に必要な訳ではなかった。
「金策にならんか?と言いたかっただけじゃよ」
「…そいつらが必要性に気付くの、装備を一新したあとでは?」
「取っておけば高く売れるかもな」
「やめとけよ、足りなくなったら取って来てーって纏わり付くぞ」
ロクな儲けにならないのに迷惑度が無限大だった。むしろ余ってないよと突っぱねたくなった。
「あ、迷宮都市は危険度なかったよね。変わったのかな」
「あ、なかったな。先に集めるか?」
「危険度DとCなら、素材さえ揃えばどこでもいいよな」
「ルルイエの側にあったアレか…」
危険度Dで勘を取り戻したら、闘技場に戻ればいいだけだった。
思い出して椛とロウガイ以外が「よし」とうなづいていた。
あとは検証クランのまとめスレなどを見て、予定を立てたのだった。
フレンドの鍛冶師と皮革師に尋ねて、必要素材の数をメモしておいた。
椛は生産活動はほぼしていないので改めて聞いて思ったが、武器ひとつになんでこんなに素材を使うのか、と。
武器の場合は鉱石系の基本素材。
ボス素材でスキルを付与。
属性素材で属性付与。
さらに追加素材で強化とかいろいろ。
それが数十個単位で吸われて行くのだ。
NPCの店売りの武器は基本素材だけで作られていて、鍛冶スキル上げのために作るのもそういう基本素材だけの物だそうだ。
研究のためにいろいろ素材を投入して作っているとも言っていたが。
だから全力で作るのは注文を受けた時だけなので、鍛冶師も腕が鳴るのだそうだ。
「…わたしと全然違うゲームをしてるな」
真似したいとは思わないが、いろんな人生があるものだ。
そして何気なく言われた一言。
「つまり水中戦用だな。普段使いの武器はいらないのか?」
いらなくないので、集める素材が倍増した。
防具のほうは水中戦特化にする必要がある?と言われて、ただレベル60帯に相応しい性能のものにすることにした。
玄幽の分も合わせて2人分。
さすがに4セットは無理…と遠い目をした椛だった。
真面目に素材を集めて装備を作ろうとしている椛だが、防具は店売りより性能が良いので以前作ってもらった怪盗素材のもののままだ。
武器は主どんスキル付きがお気に入りだが、攻撃力が物足りないので何度か買い替えていたものの、ただのNPCの店売り品である。
「つまり、無自覚縛りプレイしてた…?」
「双剣だし職の補正もないし、攻撃力低いのも仕方がないなあって思ってたのに、おまえ…」
「追加素材とやらで強化してもらうだけで違ったってことー!?」
「アホじゃのう…」
他のクラメンはアホじゃなかったので、そのくらいの強化は当たり前にしていた。
ロウガイも隣の国の木工師に作ってもらっていたそうだ。木工師プレイヤーが多い街なので。
「イースターの交換武器のほうが強かったんじゃないのか?」
「そんなことなかった…あれレベル50相当だし」
「大差なかったのか」
なかった気がする。強かったら使っていただろう。
「手に入れた素材はどうしてたんだ?」
「うん…アイテムポーチの肥やし」
「売れよ」
「金策の前にポーチの整理しろよ」
様々な生産で使うという追加素材は、椛はそのうち調薬で使うかなと放置していた。
しかしどんな生産職も欲しがる素材なので、それなりに高く売れる物だった。
もちろん自分の装備に使う分は確保した上で売る物だ。
「なんか別のゲームでも似たようなことがあったなあ…」
「学習能力がなかった」
「生産の仕組みがめんどくさいって、確認するのやめただけじゃね?」
「サブ職でやるから多少は読むはずなのじゃがなあ」
椛の調薬スキルなんて、下から2番目の回復力のHP回復ポーションが作れるようになったところで止まっている。
追加素材なんてまだ使えない。
「薬師の追加素材は、そうだ!リンゴ入れるとリンゴ味になるよって、そういうのを聞いたよ!」
「回復力を上げるのもあるはずだぞ」
「使い切りアイテムじゃから、あまり使わんのじゃろう」
「ああ、いざという時の一本くらいしか頼んでないな、俺も」
「でもいいな、リンゴ味のポーション」
「イチゴも定番だろ」
ポーションは飲むかぶっかけるかのだいたい2択なので、味は関係ない場面のほうが多い。
しかしバトル終了後に使うなら、フルーツ味を使うのもいいだろう。
だが椛以外も装備の代金がかかるので、贅沢なポーションを作ってもらうほど懐が暖かくないようだ。
そのうち余裕ができたら、という話になったものだ。




