115プレイ目 ラヴィナ
一度転移プレート経由でゼロイスからアンセムまで行ってみたが、伝説の幻獣を求めるプレイヤーは本当に減っていなかった。
椛は変装して行ったので見つからずに済んだが、うんざりする事実だった。
「レンタル畑の収穫は、溢れてた…お菓子に使う?」
「いいの!?この国だと手に入らないフルーツがたくさん!」
「栗!モンブラン!」
無事に騎獣は契約できたらしい料理人プレイヤーたちのところに、お土産代わりに果物を持ち込んだ。
フレンドではないし、多少のサービス価格だが代金をもらって売っただけだ。図々しい連中に「こっちにもタダでよこせ」とか言われないために。
「マロングラッセも食べたい」
「いいわね。いろいろ試してみるわ」
優先的に買わせて貰えそうなので椛も楽しみだ。
お菓子をいくつか買ってから屋台通りを出る。アンセムで焼き芋も補充できたので、しばらくはおやつに困らないだろう。
「うーん、みんなのレベルも上がって来たけど、60が遠い…」
歩きながら召喚獣リストをチェックする。
最新の仲間の闇玉もボーナス経験値のおかげでレベル50になったが、60近くにしようと思うとなかなか難しい。
椛のレベルもまだレベル58になったところだ。
しばらくレベル上げから逃げられないが、ちょっと飽きて来た。
「はちみつ狩りも気分転換にはなるけど、そういうんじゃなくて…闘技場に行きたいような…」
ボコれないなら闘技場で暴れたい。そんな気分だ。
ただし勝率が高い訳ではないので、スッキリするかどうかは話が別だが。
「海の騎獣でタイムアタックがあるなら、陸の騎獣でレースとかあってもいいじゃない!」
「ありますよ」
冒険者組合で受付嬢に愚痴ったらあっさり返された。
椛が知らないだけでレースイベントがあったらしい。
「あ、そんなに大きなレースではなくて、知名度も高くはありませんよ。北門の門前広場に騎獣平原の管理をする方々の事務所がありますから、そちらでご確認下さい」
「あ、ハイ」
言ってみただけでレースがしたかった訳ではない椛は、一応うなづいておいた。
でもちょっと面白そうではある。
「えっと、クエストも見たいです。おすすめとか」
「特殊クエストはいかがですか?」
「いいね」
いつも忘れる特殊クエストである。
もちろんこの街でもチェックしていなかった。ランクAになったので増えたクエストもあるようだ。
報酬の良いものもあるため、どうしようかなとしばし悩んだのだった。
適当に「騎獣レースがあるんだって」とフレンドたちにメッセージを送って、クエストをこなしているうちに忘れていた椛は、翌日ロウガイに捕まっていた。
「競馬じゃ!」
「いや、騎獣レースだから…」
「あっても良かろう、競馬」
めんどくさい系になっているロウガイと事務所に行って聞いてみると、むしろふれあい子供レースっぽいものだった。
レースのあとは子供たちが騎獣と触れ合って、将来契約する騎獣を何にするのか言い合う場のようだ。
「ショタイベだったね」
「そうじゃの…」
参加したら激レア枠の月狼がどんな目に遭うか分からないので、椛は参加する気がさらに失せた。
ロウガイも見たいだけで、参加したい訳ではなさそうだ。
「流行ると思うんじゃがなあ、競馬…」
「競馬場を作るの大変なんじゃない?魔物も出るし」
「騎獣レースも街の近くを走るから、門前くらいからしか見れないのが難点だぞ」
事務所のおじさんもこう言っている。全体を見られるレースではないようだ。
「小さいレース場でハムスターレースとか?」
「ハムスター、案外速いのじゃ」
「でもレベルで速度が変わるのかどうか」
ステータスの速度の数値が上がっても、どのくらい反映されているのかは椛も良く分かっていない。
レースになると重要になるだろう。
「ハムスターってのはなんだ?」
「召喚獣だよ。ほら、こういう」
椛が星影を召喚して、どこで契約できるのかと簡単に説明するとおじさんが予想以上に食いついていた。
小動物好きだったようだ。
召喚士ではなくても契約できるという話に目を輝かせていたから、探しに行きそうだった。
そんな話をしてから事務所を出る。
「こんなふうにプレイヤーがNPCの人生に干渉して行くゲームなんだね『異世界生活シミュレーション』…」
「ハムスター信者を増やすゲームではないはずじゃがな…」
「おじさんを起点にさらに増えるのかな」
「ハムスターレース…罪作りなのじゃ…」
椛はただ、冗談で言っただけだ。
小動物なら場所を取らないし可愛いし。
子供たちも喜ぶだろうし。
「ハムスターを放り出して伝説の幻獣に鞍替えした連中、戻って来るかな…」
「そのころにはワシら、この街におらんじゃろ」
「それもそうか」
迷惑をかけて来た連中だからおおいに悔しがると良い、と人の悪いことを思う椛だった。
参加する気はなかったが、見物しないとは言っていない。
開催日を聞いて見に来た椛は、思った以上に人が少ないが子供たちはたくさん集まっているなと思った。やはり子供のためのイベントなのだ。
子供以外も触っていいと言うので、他のプレイヤーにはちょっと頼みにくいオオカミ系以外の騎獣を触ってみた。
騎獣平原を歩いていると人懐っこく寄って来て触らせてくれる子もいたが、それもたまにあるくらいだ。
1番人気で1番良く見る馬も、リアルでは縁がないので初めて触った。
他のゲームでは触った覚えはあるが、同じ訳ではないのだし。
「やっぱりお馬さんがいい!」
「おまえ、毎回そう言ってるよな」
「聞きあきた」
馬派の少女に少年たちが言い返しながら、本人たちは獅子や虎の猛獣系に興味津々のようだ。触ってみたら、と言われてもなかなか近付けないでいる。
そんな微笑ましい様子を眺めるイベントなのだろう。とても日常的な雰囲気だ。
異世界基準の日常なのでファンタジーだが。
「そういえば聞いたか?トシュメッツの商人の話」
「また騙されたんでしょ?トシュメッツ国の人間なんて信用するから…」
「怪しい話に乗るのが悪いとはいえ、やり口が汚いよな」
「商業組合はアテにならないし」
のんびりしていたのに、不穏な噂話が聞こえて来た。
オーフォロ王国で聞くまで耳にしなかった話題である。
「またって何度も騙されてるの?」
椛が尋ねると、余所者がいたのかマズイという顔をしていたが、隠すことなく教えてくれた。
「騎獣を買いに来る商人がいてな」
「買ってないわよ。騙し取って行くだけよ」
騎獣平原でタダで契約できる騎獣だが、レア枠の騎獣や特定の毛並みの騎獣を求める客もいる。
そういう相手には販売しているそうだ。
椛も被害にあったから知っているが、騎獣は売買できる存在なのだ。
「ブローゼストの人は白馬が好きらしいから白馬がいたら確保しておいたり、必ず見つかる訳じゃない騎獣なんかはそうして手もとにおいてあるんだが」
「この間はどこかの貴族が真っ黒な馬が欲しいって言ってるって聞いて確保していたのに、トシュメッツの商人に横取りされたのよ」
ブローゼストの騎士たちの白馬好きはともかく、貴族なら礼金も期待できたのにと怒っている。
こういう被害は何年も前からあって、だいぶトシュメッツ国は嫌われているようだ。
「貴族の遣いだ、とか言って騙したとか?」
「その貴族と懇意にさせていただいてるんですよって感じだったらしいわ」
「嘘がバレても貴族を怒らせない言い回しがうまいみたいでな」
確かに貴族の遣いを詐称したら、さすがに貴族が怒るだろう。そして望みの騎獣を連れて来たほうの商人とは懇意とも言える。
椛は本当にアルヴィーナ王国でも被害が出ていて、トシュメッツ国の評判が悪いんだなと思う。
どういうシナリオなのかさっぱり分からないが、イベントはありそうだ。
クリアしないとヤマト国に行けないとかないよね?とちょっと心配になったものだ。




