114プレイ目 ラヴィナ
新情報が出るたびに飛びつくプレイヤーは一定数いるが、そういう人はひとつ前の情報を投げ捨て、まだそんな古いネタを言ってんの?と笑うことが多い。
とにかく最前線に立っている気分を味わいたいのだろう。
好みは人それぞれだから、椛は他人の趣味に口を挟む気はない。
「でもレベル上げはしとけよ…レイド戦で足手まといだろ…」
「暗黒街ブームでレベル上げをサボるプレイヤーが増加傾向なんですって!」
「そういう奴らって、元々レベル上げみたいな作業がキライだろうし」
「暗黒街とか堕落一直線だな」
推奨レベル60危険度Fもあんまり混んでないよ、と聞いてクランのメンバーと呆れたりがっかりしているところだ。
椛たちはダンジョンの入口のセーフティエリアで休憩していた。
「代わりに攻略組は生き生きとレベル上げしてるみたいね。シナリオ攻略してたのも、レベル上げが停滞していたせいなのかしら」
「ああ、迷宮都市のダンジョンより経験値効率が悪かったとか?」
「らしいわね」
発見が遅れたのは格上と戦いたがらないプレイヤーが多いせいだろう。
安全にレベル上げをしたい人は多い。
レベル50で推奨レベル50の場所に行けば、たまにレベルが少し上の魔物も出る。そういう魔物と戦えば気付いたはずだが、世の中にはいちいち獲得経験値を見ていない人間もいるのだ。
あと、格上は避けて通るタイプも多い。
攻略組のレベル上げは作業のイメージがあるし。
「負けて死に戻ることを嫌う人も多いし、危険は冒したがらないのよね」
「レベル50で海の騎獣と契約できるようにしてプレイヤーの目を海に向けさせたのは、絶対にわざとだよな」
「余計に格上と戦う気が失せるやつな」
運営方針は知らないが、レベル50から上がらないとしつこくアピールしていたのもミスリードの類だろう。
攻略組も、だからレベル上げより他に目を向ける気になったのかもしれない。
無心でレベル上げをするのが好きな人種っぽいし、苦に感じていないのだろう。
苦行と思うプレイヤーのほうが多い気もするが。
「それは良いけど、レベル上げサボるならレイド戦に参加しないで騒がないで指くわえてろよな!」
「無理ね」
「無理だな」
「ありえねえよ」
そんな一致団結した答えは欲しくない。
椛も同感だけど!
「誰か注意喚起しておいてー。だから言っただろって後で言えるようにしておくだけで良いからー」
「それもそうね。レイド戦は推奨レベル60の可能性が高いって言ってるのに、サボるからマトモに参加できないのよ、をーほっほっほっ!」
「生で聴くものじゃなかったね、オネエの高笑い…」
声に出さなくていいから、掲示板に書いておいて欲しかった。
椛の望みはそれだけだった。
頼闇が書き込んでくれたが、予想通り効果はなかった。
そもそもレベル上げがきついと音を上げるプレイヤーも多いらしい。あまりバトルが得意ではない者はそうなるだろう。
椛たちだって、このゲーム硬派だよなとは思っている。難易度もおかしいし。
「前の話題を忘れる鶏頭なら、伝説のアイドルのことも忘れればいいのに…」
「そっちとはまた違うプレイヤーなんだろ」
「モフラーが求めるのは分かるけど、スキルのバフ狙いの連中もしつこいっぽいぞ」
「先にこれを手に入れればレベル上げも楽になるって、なんとかの皮算用してるって」
アンセムにはまだミーティア狙いのプレイヤーがたくさんいるらしい。
そう、特に椛を付け回して、義務だのなんだのと喚いていた勘違い人間どもが。
「…数年前にサ終したPK天国だったゲームがあってさ」
「おお、おれもやってた。イラッとするPKを狩るPKしてたら、PKKだと思い込んだ奴らが無防備に寄って来るから、おれただのPKだぜって倒したことあるんだけど、なんかおれが騙しただのなんだの言われてな。いまだに勝手に勘違いしたのてめえらだろ!って納得いってない」
「思わず熱く語るくらい納得してないんだなあ」
「なんかそのエピソード知ってるな…わたしは今、あの世界に帰りたい気分」
「PKしたいだけだろ、物騒だなあ」
「アンセムで大虐殺か?聖女様に返り討ちだろ」
「最強執事も出て来るかも」
「たまにいる高レベル冒険者NPCたちにも勝てねえよ」
「だから帰りたいのー!」
椛もこんな強キャラNPCが跋扈する世界で犯罪者にはなりたくない。
ただストレス発散方法としてアレやりたいと思っただけだ。
もちろん無辜の民を狩るのではなく、勘違い人間どもを狩りに行きたいのだ。都合よく存在している訳ではないが。
今日はレベル上げに参加していた頼闇のフレンドがこわごわと聞いて来た。
「それってかなり治安が悪いゲームだったって聞いてたけど、楽しめたの…?」
「文句言ってるの、狩られてた連中だしな」
「同じPKなのに問答無用で襲って来る狂人がいたけど、そこに転生してるっぽい」
「だってそういうゲームだったじゃん!」
「わたしが主な標的にしてたの、ゲームの説明書がロクに読めない連中だったからな。PKは悪だのなんだのって正義漢ヅラして喚いてたエセ光属性…」
「そのころから光属性がキライなんだなー」
もっと前からキライな気がするが、そこはどうでもいいのだ。関わる気はないし。
「だってアレ、PKとそれ以外のふたつの陣営に別れて抗争イベントとか起きるゲームだったんだよ。PKがいなかったら成立しないシステムなのに、お前らみたいな奴らがこのゲームの名前を貶めてるだの治安が悪くなるだの、意味分からんこと喚いてたから」
「声のでけえ奴らがいたな、そういえば」
「治安が悪いって悪評立ててたのそいつらだったよね」
「自分で悪評立てて、ゲームの名前を貶めてた奴らがいたよな」
「…ぼくが聞いたの、そういう話だったのか…」
お世辞にも治安の良いゲームではなかったが、最初からそういうシステムを全面に宣伝していたゲームだったのである。
分かっててソフト買ったんじゃないの?と聞きたいことを喚いていたものだ。
そういうロールプレイならともかく、外に向かって治安がどうこうと悪評をばら撒く害悪だった。
「ああいう奴らって、義務だの独占するなだの許されないだのって喚いて、本当ムカついたよね」
「アンセムに出た奴らかー」
「そっくりなんだな」
「だから帰りたい」
帰るのなら時間も遡る必要があるので、叶わない願いである。
「PKプレイってしたことないけど、怖くないの?」
「…闘技場で戦うのと同じ感覚しかなかったからな。何が怖い?」
「世界の全てが闘技場だって感覚だったな、わたしも。襲われるのが嫌とか怖いってカマトトぶってる奴ら、なんでこのソフト買ったの?って思うだけだし」
「それな。他に人気の大作だってあったのに、わざわざ買って何だと思ってたのか最後まで分からんかった」
「PK志望が多すぎたらPKK陣営に回ろうかなって思ってたのに、PK天国って宣伝してるところにPK反対とか言いながら乱入して来る意味不明な奴らが多すぎたよね。あれがなければただの対戦ゲーだっただろうに」
ゲームの構造としてはふたつの陣営に分かれて競うだけで、PKとPKKという区分もさほどの意味はなかったはずだ。
赤組と白組でも良かったくらいに。
「なんだっけ…PKじゃなくてKY?奴らKY陣営だったよ」
「PKKだって結局PKを狩るから、名前が違うだけだったもんな」
「忌避感あるならやらなくて良いとは思うけど、怖いってのが分からん…あ、嫌われ者扱いでバッシング受けるのが怖い?」
「そういうの気にするやつには向かないな」
「うーん…人を殺すの怖くない?」
「ああ、そう感じちゃうタイプかー」
「闘技場の対戦と同じって言われても、そう思えないタイプかー」
椛たちはただの対戦と割り切れるので何とも感じないが、シチュエーションのせいか異常に怖がる者もいる。
誰も責めてないのに、罪悪感でパニックを起こす者もいる。
そういう人には「面白そうって思えないならやらないほうが良いよ」としか言えない。
そしてそういう『PKプレイが理解できない人』がいるから、規制する風潮になったりするのだろう。
ゲームと現実を分けて考えられないらしいが、悪いことではない。ゲームに現実の感覚を持ち込んでしまうだけならば。
逆に現実をゲーム感覚で生きようとする者は、大問題だったりするのだが。
「そもそもわたしは、ムカつく連中そっくりな奴らを代わりにボコりに行きてえって愚痴っただけのつもりだった…」
「対戦システムが導入されたら、片っ端から対戦吹っかけて回るだろ」
「二度と寄り付かなくなるまでやるね!」
そんなシステムの導入予定は噂にも聞かないだけだ。
なのでストレスから出た戯言だった。
サ終したのは数年前ですが、椛が就活のストレスを抱えながらプレイしていたのはさらに数年前のはず
ポケ○ン剣盾までの「目が合った瞬間バトル開始!」くらいのノリで対戦する世界だったというイメージ




