新春初夢 お年玉エピソード
あけましておめでとうございます
椛はいつも通りに『リアース オンライン』にログインしたはずだった。
昨日は普通に宿に泊まってログアウトしたはずで、何かおかしな所などなかったはずだ。
混乱のあまりハズハズ言ってしまって恥ずかしい(親父ギャグ)。
なのに何故、目の前に学生服の集団がいるのだろう。ゲーム内でコスプレしているにしてはアバターがモブ顔ばかりである。
コスプレをするタイプはアバターの顔もこだわる者が多いと思っていたのだが。
相手の集団も椛を訝しげに見ている気配だが、話しかけて来ないので椛は周囲に目を向ける。
宿屋ではないし、屋内ですらない。
荒野でもないが見覚えのない庭園の側の空き地だ。練兵場とか演習場というところか。
庭園の向こうに建つ城も知らないデザインである。
メニュー画面を開いて少し眺めていたら、やはりどこの軍服だか見覚えのない服装の集団が近付いて来た。
まだ行ったことのない国が多いので、そのどれかのはずだ。たぶん。
マップに現在地が表示されないし、unknownとか出ているけど。
ログアウトもグレーアウトして反応しないけど。
テンプレラノベ展開っぽいけど。
混乱のあまりケドケド言ってしまって…ネタが浮かばないので以下略。
「何故こんな離れたところに召喚されているのだ」
「精度が不十分だったようですな」
「異界との繋がりが不安定でしたから…」
近付いて来た軍服の連中の後ろにいるローブ姿のジジイどもがテンプレの補強をしている。
軍服の連中が威嚇するように学生服の集団を見下ろし、椛のほうを見て訝しげにした。
ここで1番のイレギュラーが椛のようだ。
「良く来たな、神に選ばれし勇者たちよ!」
「数多の世界の中から、この国の救世主として神が其方たちをお選びになられたのだ」
「どうか我々を救って欲しい!」
ローブ姿のジジイたちがテンプレ台詞を口にして、真に受けた学生服の1部が「異世界召喚だ!」「キタコレ!」とはしゃいでいた。
キッズの大好きな展開ですからね。
でも中学生というより高校生くらいに見えるので、心は中二なのだろう。
精神的な成長の出来てないキッズとか、社会に出る前に大人になって欲しいものだ。
アラサー社会人として切に願う。
アホな新人の教育係とか、2度とやりたくない。
そしてどこかで聞いた設定説明の後、1人ずつ鑑定して能力確認をしていた。
ステータスやスキルが優秀でも、教官殿の指導をマトモに受けない我流剣法の連中の強さを思い描いて、椛だけが残念な気持ちで見ていたようだ。
発表のたびに盛り上がっていたから。
うちの玄幽より弱そう…というステータスの者すら歓迎されていた。
この世界の人間の能力値が激低で心配になるレベルだが、ゲーム世界の能力値と比べる所ではなかった。
リアルの地球人だって数値化したらそんなものなのだろう。
学生服全員の鑑定が終わってジジイたちが満足して城のほうに向かいかけたが、学生服の中でも1番レアで強力なスキルを与えられたテンプレのイケメン君が椛を示した。
すっかり忘れられていると思っていた。
「彼女も僕たちと一緒に召喚されて来たはずだ」
「そうよ。召喚されて異次元空間を通る時に見たわ」
椛はそんな所を通った覚えはないがセイジョ(笑)──ではなく、聖女っぽいスキルのヒロインちゃんが証言した。
軍服たちが「侵入者として追い出さなくて正解だった!」という顔で椛を見ている。
「何故ひとりだけ出で立ちが異なるのだ?」
「コスプレじゃないの?」
「なんのコスプレだか知らないけど」
学生服のコスプレしてるのはお前らだろ!とも言えないので、椛は「冒険者として普通だよ」とだけ反論しておいた。
「それと冒険者だから自分の能力を他人に見せる気はないよ」
「なんだと貴様!」
「わたしは神に選ばれし勇者の1人なんじゃないの〜?貴様こそ勇者様より偉いんか?勇者様より強いんか?何様なのか自己紹介しやがれよ」
おだてて利用するつもりしかないのだろう。
勇者と呼びながら見下す目をしたジジイたちは怒りに顔を歪ませていた。
軍服連中も同様だ。
「そういう協調性のない態度はいただけないな。これから協力して行くのだから、互いの能力は把握しておくべきだ」
「は?わたし基本ソロだからお前らと馴れ合うつもりはないよ。足手まといはいらねえんですよ」
なんでガキどもに馴れ馴れしくされてんだ、と思ってから気付いた。
今の椛は永遠の17歳だから、同年代だと思われているのだ。中の人はアラサーなのに。
ゲーム内だとみんなアバターだから年齢差なんて気にしていなかったが、高校生たちに同格扱いされるとなんか腹立つ、という知見を得た。
きっとこの先の人生で役に立つ日の来ない発見だろう。
「それならどちらが上か思い知らせてあげるよ。誰か剣を!」
強いスキルを与えられて強くなったつもりのイケメン…いや、顔だけ男が調子に乗って言った。
なんの訓練も受けずに強くなったつもりのようだ。だからアンセムの教官殿に指導を受けてから言えと…言っても仕方がなかった。
軍服から受け取ったただの剣を「聖剣、抜刀!」とカッコつけて引き抜いている。すごいノリノリだが、女子には格好良く見えたらしい。
動画を撮って、冷静になった瞬間を狙って上映会をしてやりたい。きっと男どもが喜んでいじることだろう。
それはともかく、顔だけ男は剣にスキルで何かエンチャントしていた。聖剣っぽくキラキラし始めていた。
椛は対抗して英雄の剣(自称)を召喚する。
「『召喚・バルムンク』知ってるか、竜殺しの英雄の愛剣の名を」
「な、なんでそんな伝説の剣を…!?」
「選ばれし勇者ですから〜」
バルムンクは状況は分からないが、なんか楽しい場面と見た!とノッて来た。
ノリの良い召喚獣で助かる。
ということで椛はバルムンクの柄を掴む。
「お前程度、覚醒前のバルムンクで充分だな」
「ば、馬鹿にするなあっ!」
顔だけ男がキラッキラのエンチャントをした剣を両手で掴んで、素人らしさ全開の構えで振りかぶりながら突進して来た。
学校で剣道の授業も受けてなさそうだった。
バルムンクで迎撃してやるまでもなく勢いしかない攻撃を躱して、つんのめった所で後頭部をガツンと殴ってやった。
バルムンクを握っていない左手で。
バルムンクも「え?弱…」と残念そうに倒れた男を見ていたものだ。
「拳ひとつで終わってしまった。武器すら必要なかったね、バルムンク」
手を離すとバルムンクは宙でくるくる回って不満そうにしていた。
熱いバトルになると思っていたようだ。
楽しいバトルはまた今度と約束して送還する。
椛は闘技場に行って手強い相手と戦いたくなったものだ。
○△□●▲■□△○■▲●
「という初夢を見た…正夢だったらどうしよう」
「異世界土産、よろしくな!」
「ワシも行きたいワシも行きたいのじゃ!」
「聖女ちゃんは美少女だったの?アタシ気になるぅ〜!」
「誰かぶちのめしたい相手でもいるんじゃないの?ストレスから来た夢に思えるね」
「お前ら全員殴りたい…」
タイトル通りの夢オチ




