111プレイ目 チャイリン
椛たちがレベル上げをしているうちに予告されていたイベントが始まった。
今回のイベントは魔物を倒したり生産活動をしてもイースターエッグは手に入らず、街の中やフィールドに隠されている物を見つけるしかなかった。
つまり公星が大活躍だった。
「なんでレベル50以上の戦闘職じゃないと契約が難しい設定にしたんだろう…」
「バレたら生産職が暴動を起こすのう」
イベント初日、大通りで会ったロウガイとそんな話をした。宿を出る前から星影を召喚して確認していた椛だけでなく、ロウガイもハムスター頼りでイースターエッグを5個ほど入手したそうだ。
召喚士ではないのでCTが1時間かかるため、今は送還しているようだ。
せっかくなので見たかったが、別の機会を待つことにした。
「たくさん集めようとしか書いてないけど、中身のモアイってなんなの?」
「まだ確かめてもおらん。原寸大だったら大変じゃし」
「原寸大のモアイ像をどうしろと…」
イベントは始まったが、詳細はまだ伏せられていた。イースター当日に発表とか、ロクなことがないパターンな気がしている。
報酬も謎だし、訳も分からないままモアイ像集めとか、モチベーションが上がらない。
「プレイヤーが殺到している街は不利なのじゃ。ワシの拠点に押しかけた者ども、ザマァじゃの」
「けっこう根に持つタイプだよね」
「ロールプレイなのじゃ」
本性な気がするが、そういうことにしておいた。
椛も先日、盛大に呪いの言葉を放ったばかりだし。
「この街はあんまりプレイヤーがいないよね」
「ダーク・エレメント以外に、プレイヤーの気を引く物がないしのう」
何もない訳ではないが、他でも手に入る物しかないと言うか、地味な街だった。
椛にしてみれば他のプレイヤーに絡まれないので過ごしやすい。
そんな立ち話をしてから、お互いイベント頑張ろう(一応)と言って別れた。
近くにいてもイースターエッグの取り分が減るだけなので、ソロのほうが集めやすいイベントだった。
競合するプレイヤーも少ないし、レベル上げにリソースを割いていて街の探索はあまりしていなかったので、椛は星影と歩いて回ることにした。
星影は相変わらず勝手にどこかに行くが、イースターエッグも見つけて来るので怒りにくい。
他のハムスターも同じなのか聞いておけば良かった。
「あ、マップには載ってなかったお店だ。なんの店だろう」
路地裏にはたまに、看板だけ出ている店が隠れている。声をかけると一見さんお断りなので、外から見て分からない時は確かめないことにしていた。
載っていないのに入れる店は、見れば分かるのだと気付いたのだ。古本屋とか。
星影がちょっと入りたそうにしていたが、ここはマズイと感じるのか椛の肩の上から動かなかったものだ。
たまにすれ違う住民に「あら可愛い」と言われて星影が怒り、椛が男の子なんだよと言えば「格好良い」と言い直してくれる人が多い。
察しの悪い人もいないことはなかった。
「けっこう隠してあるものだね、タマゴ」
1時間くらい散歩をしただけでイースターエッグは50個近く手に入った。多いのか少ないのかは、まだ分からない。
星影は探し物が楽しいのか、まだまだやる気に満ちている。頼もしい限りだ。
分かれ道に来て、マップを見ながらどちらに向かうか迷っていたら、ゴロツキたちがのっそりと現れた。
暗黒街に入り込みそうになると出て来るという噂のイベントが起きてしまったようだ。
暗黒街は王都などの大都市以外にもあって、裏ルートが用意されている。
間抜けな暗殺者の話は有名だ。
思い出し笑いをしそうになるくらい、有名である。
「何笑ってんだコラ」
「暗殺者に転職したその日のうちに自慢して回って、きっと世界最速で解雇されたアホのこと思い出して…」
堪えきれずに笑った椛が正直に話すと、ゴロツキたちは可哀想なものでも見る目になっていた。
「いや、暗殺されるだろ」
「移住者だから殺されても死なないから。でも暗殺者になるようなクズだって表の世界でも有名になっちゃって、人生が詰んだんだって!」
「いや、笑い話じゃないだろ」
「死ねないのもツライな…」
ゴロツキたちは同情しているが、キャラデリしてやり直しているはずなので笑い話なのである。
「暗黒街コワイ!近付かない!そっちに行かなければ大丈夫?」
「コワイの意味が違うだろ、お前!」
「移住者はこれだから!」
「初めて見たけどよ」
この街の暗黒街に近付いたプレイヤーは椛が初めてだったようだ。
裏ルートを選ぶ者は少ないし、人の良く来る街でもないのでそんなものかもしれない。
「そういえば暗黒街には暗殺者組合と邪神信仰の教団があるんだっけ?」
「まあな、暗黒街に通うヤツだってそこには近付かないもんだぜ」
「お前、ランクはいくつだ?ランクA以上なら参加できるものがいくつもあるぜ」
暗黒街に近付くと裏ルートに入るとしか聞いていなかったので、椛は首をかしげた。
ランクA以上になると何かのフラグが立つのだろうか。
シラベが暗黒街はうかつに近付けないとかぼやいていたが、ランクが上がってからは確かめていないのか。
椛が聞いていないだけかもしれないが。
一応冒険者カードを出してランクを確認させると、ゴロツキたちは「だと思った」とばかりにうなづいていた。
「これはチャイリンの『暗黒街の掟』だ。1冊100Rだ。街ごとに違うから間違うなよ」
「街の数だけ買わされる…」
「普通は全ての街なんかに行かねえよ」
全くだ。
そして椛はこの街に今後来るかどうか不明でもあった。
「まあ大都市のほうが人も物も集まるし、賑わってるのは聞くけどよ。こういう田舎にだって掘り出し物はあったりするぜ」
「この間のオークションは盛り上がったよなあ」
わざとらしいが嘘でもないのだろう。
ランクA以上の冒険者なら稼ぎが多いと思って誘いかけているようだ。
椛は召喚獣用のスキルブックのせいで、まだ金欠気味なのに。
「うーん、気になるけど、今はこのタマゴを探してるから」
「ああ、イースターエッグか」
「神様、たまに良く分かんねえことするよなあ」
NPCにもイベントの告知のようなものはあったようだ。
特に探している人は見なかったが、ゴロツキたちは「子供たち向けの何かだろ」と言って片付けていた。
確かに子供たちは喜んで探しそうだ。
つまり競争率の高い王都のあたりで必死こいて探し回るプレイヤーたちの姿は…
余計なことは考えず、気が向いたらとだけ言い置いて椛は暗黒街とは反対の道に進む。
星影はちょっと暗黒街に興味があったようだが、勝手に入り込みはしなかった。
ついうっかりでロウガイにチャットを送るとおおいに笑って溜飲を下げたようだが、ワシらも気をつけるのじゃともっともなことを言っていた。
椛は散策ついでに探していただけだが、住民たちはどう思ったことか。
たぶん大丈夫と思うことにして、シラベには暗黒街のことを聞いてみた。
[ランクAにするのが条件!なんで気付かなかったのかな!でもイベント!]
[イベントが終わってからでも良いと思うよ]
[分かっていてもソワソワするんだよ。裏オークションに裏カジノ、定番のものは一通りあるって噂だけ聞いてたから!]
気になるのに裏ルートに入りたくなくて我慢していたらしい。
それが表ルートのまま調べられると聞いてテンションが上がってしまったようだ。
[ハムスターが優秀だから生産職よりイベントはやりやすいし、好きにしてくれたまえ]
イベントに集中できないのなら、好奇心を先に満たすのも手である。
シラベも[それは気付かないふりを貫くネタだよね]と言って、掲示板には書き込まないようだ。
どこかのアホが書き込むかもしれないが、そいつが全てのヘイトを集めてくれるだろう。




