110プレイ目 チャイリン
推奨レベルとはそのフィールドやダンジョンに出現する魔物の平均レベルなので、±3ほどの幅がある。
推奨レベル55なら、レベル58くらいの魔物も出て来る可能性があるということだ。
平均値の55が1番出現率は高いが。
「フィールドよりダンジョンだよねー」
ダンジョンの入口に死に戻った椛は、レベル52に上がっているとはいえレベル58の魔物が3体も出たせいで、さすがにレベル差がありすぎて負けたところだ。
フィールドにいたら街の中央の神殿に戻されるので、レベル上げならダンジョンのほうが効率的だ。
ダンジョンの情報を調べた椛はアルヴィーナ王国に来ていた。今まで訪れたことのない、南東部にあるチャイリンという街である。
ここには推奨レベル55で危険度Eという、ラフィスの街の近くにあったダンジョンと同じ難易度のダンジョンがあった。
そして次に契約したい幻獣の生息するフィールドも近くにあった。
フィールドと言っても洞窟で、その幻獣のダーク・エレメントは洞窟の奥にいるらしい。
こちらは危険度表示がないのだが、もう少しレベルを上げてから挑む予定だ。
試しに行ったら物理攻撃の効きにくい魔物ばかりで、主力の流星と玄幽が活躍できない場所だったせいであっさりと全滅したからでもある。
光属性の光馬が活躍するだろうが、まだレベルが低めだったし。
そんな訳で、光馬をメインに魔法アタッカーたちを優先的にレベル上げしているのだった。
チャイリンの街はハムスターと契約できる遺跡の最寄りの街ルヴィスから、騎獣で走れば半日ほどの距離だった。
どちらも召喚士でなくても契約できるため、ハムスターのために来ていたクランのメンバーの一部もチャイリンに移動して来ていた。
「危険度F相当の推奨レベル55のダンジョンに、プレイヤーが殺到してるのよねえ…」
「みんな流行りに敏感だよね」
「ヴィスタの近くにあったせいで、にわかにプレイヤーが溢れて居心地が悪くなったんじゃ!」
クランのメンバーではないが、フレンドのロウガイも来ていた。クランにいない魔術士なのでクラメンたちに重宝されているし、ロウガイもレベル上げがしやすいと喜んで共闘している。
椛が街に戻ったら、ちょうどロウガイの入っていたパーティが休憩していたので、一緒にオープンカフェの一角でケーキセットを食べているところだ。
「アンセムは人が減ったの?」
「減ったけど、ライバルが減ったって喜んでる連中はそれなりに居座ってるらしいぞ」
「二代目アイドル様の話が、伝説の幻獣に遭うよりレアだったせいでアルヴィーナには来てないし」
「いつの間にかもふもふ語が解明されてた」
椛は知らなかったが、少し前に判明していたそうだ。
もふもふさんはアルヴィーナ王国の街道沿いのセーフティエリアで、のんびり月見をしていたそうだ。
月を見ながらもふもふのことを考えていたそうな。さすがモフラー。
そこで月も司る闇の大精霊の降臨イベントが発生した。
六柱大神の一柱、闇の大神の第一の眷属と呼ばれるのが、闇の大精霊なのだそうだ。
『神話大全』にも載っているらしいが、椛は読んでいなかった。
とにかく伝説の幻獣を見て「珍しいー」と軽く応じるNPCたちが、闇の大精霊と聞いて大騒ぎをするくらいの大物かつ激レアイベントだったのである。
もふもふさんは闇の大精霊から祝福を授かり、称号として獲得した。噂だけあった祝福や加護を授かるイベントのひとつらしい。
しかし激レアなのは、さらなるご褒美が貰えるイベントだからだった。
「其方の望みを叶えてやろう。何を望む?」
その問いかけに答えれば、文字通り『どんな願いも叶えてもらえる』という、破格の報酬だった。NPCたちが言うには、巨万の富も世界を支配する力も、全てが思いのままに叶えてもらえるらしい。
もちろんもふもふさんの答えは決まっていた。
「もふもふー!」
何故かその言葉だけで伝わって、闇の大精霊はもふもふさんの求めたもふもふを授けてくれたのだ。伝説の幻獣ミーティアという、もふもふを。
その話を聞いたNPCたちは、アホの子を見る目を向けていたという。
一部のプレイヤーたちも「他にあるだろ!?」と怒っていたらしい。
「検証はできないけど、勇者武器に匹敵する最強の武器とか、レベル99にするだけの経験値とか、巨万の富とか、本当になんでもだったっぽいのよねえ」
頼闇も残念な子だと言わんばかりにため息をついている。
強欲でも闇の大精霊は許してくれるんだなと椛は呆れたが。
「それ、ゲームするモチベが終わるじゃん」
「武器と経験値はいらねえな。でも金ならクランハウスと自宅が買える」
「商人どもが無限に湧いて、きっとツライやつだぜ…」
「それは、ツライな…」
あれはお仕置きキャラか何かとして存在している気がする。
快適なゲームプレイがしたいなら、手を出すべきではない領域があるということだ。
頼闇も少し考えて、定番なのに全部地雷じゃない!と嘆いていた。
欲に目が眩んでいたようだ。
「あとランクSSになりたいって言ったりしたら、モーションアシストどころか、全てのバトルがオートモードで操り人形になる気がする…」
「やりそう…」
「それでも喜ぶヤツがいそう…」
自分で戦えない強制オートバトルとか、椛には耐えられないだろう。
つまらない以上に、下手クソと思い知らされるようで。
「そう考えるとミーティアだって嫉妬の対象になるけど、たいしたことじゃないわね」
「…あのクソみたいな日々がたいしたことじゃない、だと…?」
頼闇の一言に、椛はアンセムでのこと、掲示板で喚かれ続ける現在(見てないけど)を思い出してキレた。
「表に出ろやゴラァ!決闘だー!」
「なに地雷踏んでんだよ!」
「早く謝れって!」
「だ、だってぇ」
ロウガイが1人だけ笑っていたが、しばらく店の外とはいえ騒ぎすぎてしまった。
うっかりお店の人に出禁にされるところだったが、なんとか許してもらった。
でもミーティア目当ての連中に付きまとわれ、嫉妬した連中に独占してんじゃねえだのなんだのと絡まれた数日のストレスとか、思い出したくもなかった。
街の外に出た椛は月牙と流星を召喚して、しばらく門の近くでもふもふしていた。門番さんとか旅の人とかに見られていることにも意識が向かないくらい、精神的なダメージが大きかったらしい。
少し回復してから慌てて移動したものだ。
「く、いらん恥かいた…」
頼闇も悪気はなかったのだ。それは分かる。
でもたいしたことがないと言われるのは許せなかったのだ。
人目のない場所まで来て、レベルの低いフィールドなので椛は草の上に寝転がる。
月牙もゆったり寝そべり、流星は元気に月牙にかまってコールをしたり、魔物を見つけて倒したりしていた。
少し落ち着いたので、月詠を召喚した。
先程のやり取りのせいでモヤモヤしていたが、呼んでしまえば可愛いなと和む。大人気になる子なのは椛にも分かるのだ。
「あのね、月詠。アイドルと契約した人間は、ファンたちの激しい嫉妬の嵐に曝されるものなんだよ…」
「みゅ?みゅう」
そうなの?まあそうだろうねえ、と月詠はドヤっている。
少しは申し訳無く思え、と言うのもアホらしくなる自信だった。
「それでね、もう1人ミーティアと契約した人間が現れたんだよ」
「みゅう!」
気にするどころか、良かったね!と言ってそうである。アイドルの頂点は渡さない、とかは思わないようだ。
アイドル対決とかされても困るけど。
「幻獣界にはミーティアがたくさんいるの?」
「みゅっみゅーう!」
月詠が「もちろんだよー!」と言えば、流星も「知ってるー!たくさんいるよー!」と言うように鳴いていた。
そのうち契約者がたくさん現れるのかもしれない。面倒が減るので椛も歓迎する展開だ。
でも椛は凡人だから、こう思ってしまう。
「わたしに迷惑をかけやがった連中はミーティアと契約できない呪いにかかるが良い…!」
聖人君子には程遠い人間なのだった。
短気な主人公ですいません…




