107プレイ目 マルクス
椛はブリュマルク共和国に入ったが、小国群はどこも山が多いのでマップでは狭く見えるものの、街道はぐねぐねと入り組んでいる。
そのためアルヴィーナ王国の平野部を駆け抜けるより移動に時間がかかる土地だった。
たどり着いた首都マルクスは、ハイレオン帝国との国境に近い。帝国を出る時に通った砦の街フェンも近い。
ということで予想はしていたが、ここの都も喪中のような空気だった。いつ帝国が攻めて来るのかと日々怯えて過ごしているようだ。
なんでこういう街に救援クエストを設定したのかな、と思いながら神殿で転移門の登録をして、冒険者組合にやって来た。
「こんにちは、救援クエストを受けたいんだけど」
「こんにちは。この街が消える前にクリアしておいて下さいね…」
受付嬢も縁起の悪いことを言っている。
椛はあまり突っ込まないことにして、冒険者カードを提示してクエストを受けた。
他のクエストはいろいろ解決してから再訪して受けよう、と見もしなかった。
「あ、写真の現像をしてくれるお店はある?」
「錬金術の聖地などと持て囃されたのは、もはや遠い昔のことなんです…技術のある方はすでに他の国へ亡命してしまいました」
「…そうなんだ」
イベントが終わったらNPCの大移動が始まるのか、配置に変化はないのか。
帝国が戦争をするのかしないのかも分からないので、予想がつかなかった。
個人的には戦争イベントは起きて欲しくなかった。
この街の救援クエストで仲間になるのは、グノームと同じく有名な四大元素の精霊、オンディーヌだ。
なんで精霊が他にいるのにこっちに有名どころを回したんだろう、と前にも思ったことを再び思う。
大精霊がどうこうと言っているのに、そちらには使わなかったということだ。
開発陣のこだわりは分からない。
などと考えながら街の外に出て、近くの森に向かう。月牙に流星、そして光馬と陸を召喚した。
「今日も仲間探しに行くよー。森の奥に泉があって、そこにオンディーヌっていう幻獣が棲んでるんだって」
手足の短い陸は歩くのも遅いので月牙の鞍に乗せているが、特に反応はない。四大精霊の設定は関係なさそうだ。
召喚獣自慢スレで見たのですでにオンディーヌの外見は知っているが、よくある美女でも美少女でもない。そんなヴィジュアルだったら召喚士が増えていただろうけど。
グノームが象の時点で予想もされていた。
可愛いもの好きには概ね好評だから、召喚獣のデザインは可愛い動物をメインにしていると思われる。
天使などは初手例外ではないか、と考察されていた。
プレイヤーたちが現在判明している情報から好き勝手に考察しているだけだが。
森の推奨レベルは15なので、魔物は流星が駆けて行くか光馬と陸の魔法で倒すかで片付く。
たまに光馬が木の上に飛んで行って、採取できる木の実を採ってくれた。流星も場所を見つけると教えてくれた。
のんびり進んで森の奥に入る。
植生が変わり、木漏れ日が減って薄暗くなるので変化は分かりやすかった。
ここからは推奨レベル30だが、レベル50近い椛たちにはまだ余裕のあるフィールドだ。
そのまま進めば泉が見えて来た。
そして泉の上を飛び交う幻獣たちの姿も。
「トビウオ…じゃないからシュールというか、ファンタジー」
泉に棲む幻獣は魚の姿なのだ。
しかもグノーム同様、丸々としたシルエットである。おかげでフグかハリセンボンかと言われていた。
きっと残りの四大精霊モチーフの幻獣も丸々としているのだろう。
「フグでもハリセンボンでもない顔というか、モデルが分からない魚なんだよなあ…」
色は全体的に青い。海の魚という訳でもない。
陸海空でいいかなと思っていた椛も、森に棲んでいたのに海はないなと思って名前は考え直したものだ。
名前を考える前に契約しなくてはならないが。
「オンディーヌさーん、召喚契約してくれないかなー?」
呼びかけてみると好奇心の強そうな数体が近付いて来て、ちょっと戯れると1体が契約してくれた。
救援クエストの内容は「泉の水を汲もうとすると襲って来る」というもので、本来は水汲みも必要だったらしい。
もしくはオンディーヌの魔法で出す水で代用可能ではないかと言われていた。
現在は水汲みはカットされているからだ。
とにかく泉に手を出さなければ、バトルは発生しないタイプだった。
「名前は考えて来たよ。アクアはどうかな!」
アニメなどでよくある名前だが、変に捻っているより可愛いと思うのだ。
「…水之助とかがいい?」
ここでも忍者が流行っているのかと思ってしまったが、アクアのほうが良いそうだ。
久しぶりに可愛い名前を付けた気がする。
オンディーヌは水属性の魔法アタッカーだが、クエストにある泉の水は固有スキルの『スプリング』で出すもののようだ。
冒険者組合に戻った椛が受付嬢に尋ねると、昔は錬金術師が調合で使っていたそうだ。
「特定の調合で必要になるだけですが、普通の水の代わりに使っても問題はありませんよ。ただ、完成したものをきちんと確認していただかないと、時々効能に変化が現れる可能性もあるそうです」
「むしろ変化する薬は何か調べる人がいるやつだ…」
「研究なさっていた方もいらっしゃいましたね…」
召喚士にしか契約できない設定なので、オンディーヌの泉の水はそこまで重要な素材ではないのだろう。
でもそれなら召喚士以外も契約できるようにしておけよ、と思ってしまった。
椛はサブ職が薬師でも、きっと必要とする日が来ない素材だが。
「じゃあ料理で使うと美味しいとかもないんだね」
「なくは無いのですが、そこまで劇的に変わる物もなく、効能もなく…」
料理でも使えるが、わざわざ使うほどの物がないだけだそうだ。
このスキル、必要だったのかなとしか思えなかった。
「そういえばサブ職を召喚士にしたら契約できるのか、あのあとどうなったか聞いてなかったな」
「ああ、サブ職を召喚士にした錬金術師の方がいらっしゃいましたね。オンディーヌとは契約できていたはずですよ」
「調合に使うからか…」
関係ないので忘れていたが、サブ職でも救援クエストを受けて幻獣と契約もできるそうだ。それならサブ召喚士の人口も増えるかもしれない。
召喚獣自慢スレがますます盛り上がるかもしれない、と可愛いスクショや動画の増加を夢想した椛だった。
[あー、あれね。サブ職だと天使と小妖精は契約できない仕様で終わった話だよ]
シラベに聞いたらけち臭い話を聞かされた。
召喚士をメイン職にしないといけない物があったのだ。しかも人気トップに。
[あとぽよぽよとリビング・ソードもだね。〈召喚士友の会〉がクエストの受注を拒否したんだって。サブ職じゃ召喚士が増えたとは言えないって]
[なんか研究費がどうこう言ってた覚えがあるけど、それか…?]
[それは初耳。そっちの線も調べてみようかな]
〈召喚士友の会〉の裏事情はどうでもいいのだが、何かイベントが隠れている気配がなくもない。
解決したら契約可能になるかもしれない。
下手に期待させて駄目だったら怖いので言わないけど。
[天使は生息地に行っても駄目だったの?]
[同行したメイン召喚士が「ここだよ」って言ってもサブ召喚士は「どこ…?」「どこ…?」ってなって、見えてなかったって。スクショを撮ったら写ってて、見えないって泣き崩れて大変だったそうだよ…]
それは泣く。
なんで天使をそこまで出し惜しみしているのか。
[グノームはそこそこ人気あるし、サブでも契約できるなら喜ぶ人もいるかも。オンディーヌの固有スキルも面白いし]
[火は丸々としたトカゲだろうし。風は丸々としたトリかな]
[ぬいぐるみっぽいから、抱いて歩く召喚士もいるからね]
四大精霊モチーフは、たぶんそれなりに人気になると思う。天使や小妖精には及ばないとしても。
[あ、伝説のミーティアが2体目が発見されたって掲示板が大騒ぎだけど、見た?]
[召喚獣自慢スレしか見てないし、今日はそれも見てないな。でもこれで少しは落ち着くかな]
[それがもふもふ言ってて、もふもふ語を解読しないと分からないんだよね…スクショとか上がってるからマジネタなんだろうけど、もふもふさんは通り魔よりタチが悪い気がしてる…]
もふもふさんか、会ったことないけど。
椛も掲示板でちょっと見ただけだが、話が通じにくいタイプだろうなー、とは思っていた。
掲示板を覗いてみるか、ちょっと悩んだのだった。




