105プレイ目 クルストイ
Merry Xmas Eve !
ハイレオン帝国は帝都しか行かなかったな、と思いながら椛は隣の小国クストーの王都クルストイに入った。
国境近くの街もそうだったが、オーフォロ王国とはかなり違う雰囲気だった。
具体的に言うと沈鬱で暗い。
ちょっと振り返って門番たちに尋ねる。
「なんか国全体が喪中って空気なんだけど」
「そうかな…そうかもな。いつ帝国が攻めて来るか分からない。国境で何日持ちこたえられるか…」
「逃げるしかないけど、行くあてもない民だけが残ってるんだ。あんたも早く逃げたほうが良いよ」
噂を侮っていた。
これを見たら帝国がもうすぐ攻めて来ると思い込むだろう。
あの6人組、この様子を帝都で吹聴したのなら怪しまれなかっただろうに…と今さら思う。きっと椛同様、噂しか知らなかったのだろう。
ここで誤解だなんだと言っても怪しいだけなので、黙ってうなづいておいた。
「あれ、それならオーフォロ王国にはやっぱり噂はなかったのかな。あの砦の街がきな臭いだけなのかな?」
これだけ分かりやすかったら、椛だって気付いていただろう。そう思うことにした。
街には東門から入ったので、先に中央の神殿で転移門に登録して、南の大通りに進んで冒険者組合にやって来た。
「大通りすら閉店してるお店が多かった…」
「こんにちは。避難するアテのないものだけが残る都ですから、早めに立ち去ることをお勧めします」
どこもかしこも悲壮感ばかりで気が滅入る。
これで戦争の噂は間違いだったと言われても、すでに被害が甚大な気がして来た。
誰が責任取らされるのかな…と別の心配をしてしまった。
「召喚士なので、救援クエストがあるって聞いたから」
「救援…素敵な響きですね…ふふっ…」
受付嬢まで煤けているが、クエストはちゃんと出してくれた。
この国が消えないうちにどうぞ、とか言って来る。
そもそも帝国の諜報員とか、この惨状を見ていないのか。いや、そいつも戦争を起こしたい派なのか。
まともな報告はしていないのだろう。
「街並みの写真を撮ったら、現像してくれるお店あります?」
「隣のブリュマルク共和国で頼むとよろしいですよ。錬金術の聖地ですから」
この都には残ってなさそうだ。
少し情報を送ろうかなと思ったが、それも難しいようだ。
とにかく救援クエストをクリアして、仲間を増やすことにしたのだった。
救援クエストは墓地だった。
この国はこういう芸風ってだけだったら気楽なのに。
昼間なのでホラーの舞台には見えないが、景気の悪い雰囲気である。カラスがカアカア啼いているが、魔物ではない。幻獣でもないが。
墓守の小屋に行くと、骸骨みたいな老人が出て来た。狙っているとしか思えない。
「救援クエストを受けて来たー」
なるべく明るく言ってみたが、場違い感がハンパない。流星と月牙も連れているが、流星のほうは雰囲気が嫌いらしく月牙に甘えて擦り寄っているばかりだ。
アイドル様でも呼ぼうかなと思い始めたが、骸骨…ではなく墓守の老人が疲れたような息をついて、墓地を指さした。
「もう何もかもがどうでもええんじゃが、召喚獣が欲しいなら好きにしたらええ。終わったら声をかけておくれ」
それだけ言って小屋に戻ってしまった。
クエストの意味。
言っても仕方ないので、2頭を連れて墓地に入る。ここにいるのはガイコツでもゾンビでもなく、ゴーストでもない。
【シャドーマン】という黒い影だ。
なんかモヤモヤした影が彷徨いているらしい。
「探しものならかくれんぼ師匠の出番だね、流星!」
「くぅん…」
星影を召喚したが、流星はテンションが低いままだ。
星影のほうは何故かテンション爆上げで、勝手に走って行ってしまった。
「…そうだ、バルムンクなら好きかも、この雰囲気!」
なんだか寂しくて、さらに仲間を召喚してみた。リビング・ソードのバルムンクは、墓地を見回して何故かがっかりしている。
「な、何が駄目!?…え、かの竜殺しの英雄を思い出すから?そうか、そうだね…?」
竜殺しの英雄(ただの妄想上の人物)って誰だっけ?という気分になって来た。
今日はバルムンクとも話が噛み合わない。
でもここで撮影会はしたいそうだ。
かの英雄を思ってアンニュイなバルムンク…そういうコンセプトらしい。
良く分からなくなって来た。
それも演技?この国も全て旅人に仕掛けられた壮大な演技なのだろうか。
混乱しかけながら歩いて行くと、星影が戻って来た。月牙の背中に勝手に乗って、何かを訴えて来る。
「うーん、何もなかった?」
発見したからこっちこっち、という様子ではないのでそう尋ねると、期待はずれだぜというように肩をすくめていた。
逆に何があると思ったのか。
「シャドーマンは?」
聞いてみたが、そういえば説明する前に駆け去ったので星影は何も知らなかった。
改めて仲間を探しに来たと告げれば、星影はまた勝手に行ってしまった。
自由にさせすぎだろうか…でも怒るほどのことではないし。
「月牙はどう思うー?」
「うおん」
しゃべれないが、ちゃんと返事をしてくれるだけで安心する。1番大人なので、余計にそう感じさせるのか。
次に大人なのがブルーだろうか。見た目は小さい子どもなのに。
賢翼は気難しいが、紺碧は気位が高いというか、雑談に付き合ってくれる性格ではないし。
ミルクは大人というより、おっとりとした聖女様タイプというか、聖女様が天使というか…?
思考がぐだぐだズレて来て、何を考えていたんだっけと思い始めたところで星影が再び戻って来た。そして「こっちだ!」と引き返して行くので、慌てて追いかけた。
少し行くと黒いモヤモヤが漂っていた。
昼間だから目立つが、夜は闇に紛れてしまいそうだ。
でも闇属性ではなく、影属性らしい。
分ける意味は分からない。
「シャドーマンだよね?わたしと契約してもらえないかな?」
バトルしなくても契約してくれるタイプだ、という情報だった。
黒いモヤモヤは迷うようにモヤモヤしていたが、星影が何かを訴えかけている。
どういう仲なのだろうか、と眺めていたら契約が成立していた。
9割星影のお手柄である。
勝手に行動するところは大目に見ることにして、褒めておいた。
星影はドヤっているが、流星は「終わったのなら帰ろうよ」という様子である。
「あのね、流星…さっきも言ったけど、これからバルムンクの撮影会だよ」
「きゃうん!?」
流星は聞き流していたのか驚いている。
バルムンクはちょっとテンションを上げて来た。星影も何故かうんうんとうなづいている。
「その前に、名前は考えて来たんだよ。なんか霧みたいだから、ミスト!」
椛にしては珍しく考えて来たのに、何故か駄目出しを食らった。星影から。
シャドーマンも「そういうのじゃなくてえ」と言いたげにモヤモヤしている。
星影が自分を示して、しきりにアピールしている。
「…忍者っぽい名前?」
それ!と星影とシャドーマンが反応した。
幻獣界で忍者が流行っているのだろうか。
「うーん、霧隠才蔵…霧…」
ミストって忍者よりマシじゃないかな、とちょっと諦め悪く思ってしまった。
「黒霧…霧影…え?霧影?」
モヤモヤが上下に動いて、ワクワクな感じになっていた。
これからはこの動きで対話して行く必要があるらしい。他の召喚士たちも同じだろうか。
とりあえず気に入ったらしいので霧影に決まった。星影とものすごくお揃いだが、本人たちの希望だから仕方がない。
その後の撮影会のほうが長引いたが、よくあることだった。




