103プレイ目 レイル
ハイレオン帝国の帝都にある騎士団の兵舎にて、呼び出しを受けた攻略組の6人が自分たち以外のプレイヤーがいることに怒って喚き出した。
この国にあるイベントを進めているのは自分たちなのに、後から来た連中に横取りされたと思っているのだろう。
そもそもイベントの独占権など誰にもないのだから、最初にクリアした者が勝つだけの話だろうが、それはともかくとして。
椛は仕方がないので、とにかく6人組を黙らせて現実を教えてやった。
「もう発生してるかもしれないけど、お前らの評判最悪だぞ。ランダムクエストを確認しておけよ」
6人組は「そんな訳ない」と言いながらも確認はしたらしい。また発生してしまったようで、そのまま固まっていた。
「ランダムクエストってなんだ?」
「なんていうか、移住者がこの世界の人々と仲良くやって行く指針のひとつとして神様が示して下さるクエストですかね。仲直りする方法を教えてくれるというか」
「そんなものがあるのか」
「常識すら噛み合わないところがあるしヒントくらいあげないと、って感じなのかなって」
住民NPCたちにも分かるように言えば、そんな感じだろう。
「移住者にしか出ないクエストなら、後から来たおまえらが譲歩するんだよって思し召しに違いありません。と思うことにしてます」
「なるほどな。神のお導きがあるのなら、それは安心だな」
「無視するアホもたまにいるだけで」
強制力はないのだ。あくまでヒントなのである。という建前になっていた。
「で、なんだっけ。この国のメインシナリオだっけ」
「それに関して、この6人がどういうふうに噂話を聞いて回っていたか確認して、推測がひとつ立ちました」
「あんな訳分からん行動の意味が分かったのか?」
ガラハドの率直な意見に、アホ6人も愕然とした顔になっていた。ようやく自分たちの評価が分かって来たようだ。
そして検証クランの1人が推測を述べた。
「たぶん、自分たちの考えに合致する都合の良い答えが返るのを探していたんだと思います。自分たちの思い描いたメインシナリオに沿う内容の答えを返す住民がいると思い込んでいたんじゃないかと」
「どういう意味だ?」
「英雄願望というんですかね。戦争が起こると決めつけて、その戦争で英雄になるための筋道を考えて、まず国の上層部に名前を知られるところからといったところかな、と」
ガラハドは腕組みをして考えこんでいるが、椛はちょっと分かった。
そして指摘された6人は自覚があったのかなかったのか、羞恥で赤くなっている。
「呼び出しを受けて注意された。内容はなんでもいいので、上から目を付けられているという部分にだけ喜んだのでしょう。そして今度は騎士団から、13騎士のお一人から呼び出しを受けた。自分たちは確実にこの国で名をあげている。今後起きる戦争で活躍して、13騎士に並ぶ名声を得る。そんな妄想でしょう」
「あー、ちょっと分かった。でも本人たちの前で言うのは可哀想だろ…」
「言われないと分かんないし、こいつらのせいで大勢が迷惑したって思い知らせる必要があると思います」
特に迷惑をした椛は同情などしない。
街で聞き込みまがいのことをして上がる名声ってなんだよと聞きたい。
「ああ、この国の方針はともかく、戦争を望んでの言動は許されなくない?」
「うん、そこはどういう判断になるかな」
検証クランの2人の何気ないやり取りに、6人はさらに顔色を変える。ガラハドも気付いて渋い顔だ。
「まず砦の街フェンがクストー王国に侵攻する気満々の様子を伝えて、こちらで確認してもらうべきだよね」
「砦の指揮官の言動がなんかおかしいって兵士たちがぼやいてたし」
「その様子を見てクストー側が防衛準備してるから、原因はフェンだと思う」
さらなる情報にガラハドが真顔になった。
椛は6人に言ってやった。
「英雄になりたいなら、ああいう情報を得て伝えろってことだよ。真偽の分かんねえ噂を鵜呑みにして、知った気になって確認もしねえから恥かくんだよ」
「だ、だって、みんな言ってたから…」
「そのみんなって顔も知らない赤の他人だろ。なんでそんなものが信用できると思ったの?ネットにはわざとガセネタ流す奴らがいるって知らないの?」
言いながら椛は思い出す。
「あ、迷宮都市のダンジョンがドロップも経験値もクソ不味いって気付かないでアホみたいに周回してたんじゃなかった?アレも誰かに騙されたんじゃないの?じゃなきゃ自分たちが情弱だって悟っておけよ」
「あー、泣かせちゃった」
「言い過ぎだよ」
「はー!?お前らだってけっこう言ってただろー!?」
椛だけのせいではない。他の2人もズケズケ言っていたはずだ。
しかし女の子が泣き出したのは、椛がトドメをさしたせい──かもしれない。
「あれはレトロゲームの攻略法に近いんだと思うよ」
騎士団の件は任せて、椛と検証クランの2人は神殿前広場のオープンカフェで休みながら話していた。
疲れたので、3人とも甘いスイーツも頼んである。
「NPCの反応なんてロクに見ないで、望まない答えは聞き流す。当たりを引くまで繰り返す。だって必ず当たりはあるからね」
「ゲームだから、メインシナリオがあるのは確定してるから、だから絶対にあるんだってね」
「コミュ力の低い人にありがちな、自分の意見だけぶちまけて相手の話を聞く気がないムーブそのものっていうか」
「聞く気がないのに情報収集してるつもりの人って、結果が偏ってる自覚ないから厄介なんだよね。そういう人の持ち込む情報の検証とか、始めた途端に穴だらけで」
ちょっと愚痴っぽくなって来たので、話を戻す。
「そもそもメインシナリオなんて存在してるの?イベントはあからさまに仕込まれてるけど、誰がメインシナリオだって言った?」
言ってないね、と3人の意見は一致する。
存在するという考えがすでに願望なのだ。
「カナーラントの王都の荒れっぷりを見て、アレはきっと改善するルートがあるハズとは思ったけど」
「あれは王太子が即位したら改善されるハズって住民たちは夢を見てるだけだし」
「ブロムの鬼女どもだって、ギルマスが人間に戻す方法があるならオレも知りたいっていうレベルで解決策不明だし」
ゲームなんだから何かあるだろ、とメタ的な考え方をしていただけだ。運営は何も言っていないのである。
「戦争イベだって無責任にはしゃいでたキッズも多かったからね。真に受けたんだろうね」
「怪しいことは怪しいけど、だとしてどうするの?ってなるだけだから」
「わたしは城で、鬼女どもに匹敵する悪寒を感じさせるナニかの気配を感じたけどな…」
何それ!?と検証クランは盛り上がるが、こんな所で話すのは危険だ。後でシラベにメールすると約束して終わらせた。
ランスロットも怖いし。
「あ、騎乗スキルの覚え方はどう?」
「あれは人によるっぽい」
「たぶん貢献度がそれなりじゃないと、条件すら提示されないね。あなたでは紹介状を書く訳にはいきませんって」
「厳しい…」
椛が組合を出たあとに6人組がギルマスに食ってかかったが、お前らに書いてやる気はないとばっさりだったらしい。
それで椛の後を追って、何をしているのか見ていたようだ。
すでに関係改善クエストが発生していたのだろうし。
「もしかしてランスロット様が声をかけて来たのも、貢献度さんの仕業…?」
「それはありそう」
「ミーティアが現れたのも貢献度さんが?」
「違う、と言い切れない…」
「検証のしようがないのが救いだな」
マスクデータまでは手が出ない。
貢献度が1000を越えたら伝説の幻獣が現れるようになります、とか言われたら暴動が起きそうだ。
椛は自分の貢献度を見てそう思う。
「…ん?また貢献度上がった?」
「え?あ、おれも上がった」
「本当だ」
確認した3人は、今日のアレかあと空を見上げた。6人組の処遇はまだ不明だが、砦の街については調査されそうな気配だった。
「いや、誰に言えば良いか分からなかっただけなんだ」
「組合の受付嬢に言えば、いい感じに上に報告して、いい感じに進むハズさ」
「すごい他力本願」
「でも丸投げでもいいんだよな。他のゲームだと全部プレイヤーにやらせるから、その習慣が抜けない」
他のゲームはプレイヤーが主人公ポジションなので、いろいろやることになる。それが自己顕示欲の強い、もしくは勇者願望のあるプレイヤーを喜ばせるから。
「闘技場のランキングはずっと住民たちの名前で埋まったままだと思うよ、このゲーム」
でも『異世界生活シミュレーション』なので、プレイヤーは主人公ではないのだ。
だから適当に丸投げしても誰かがやってくれたりする。
改めて変なゲーム、と思ったのだった。
伝説の幻獣は貢献度がゼロでも出会えます
でもランスロット様は貢献度の低い人とは会話をしてくれないかもしれない




