102プレイ目 レイル
地味なクエストも含めてリアルで数日ほどかけて、椛は冒険者組合での評価を上げた。
そして本日、めでたくギルドマスターから紹介状がもらえたのだった。
「まあ、おまえは召喚獣の件もあるから通常より早かったと思えよ」
「うちのアイドル様のおかげだった!?」
「城での態度なんかの話だ」
城で問題を起こさなかったから、ちょっとオマケしてもらえたらしい。
ランスロットの背後霊はきっと評価の対象外だったのだろう。思い出すと震えが走る。
「さっそく行って、いつ予約が取れるか聞いて来よう!」
「今からやるって言われることもあるから、時間のある時にしておけ」
「そんなパターンが…」
椛が時間を確かめて、リアル1時間はゲーム内の4時間だしと計算していると、いつぞやの眉をひそめられているほうの6人組が組合に入って来た。
椛の活動時間はゲーム内で4日に半日くらいだが、あの6人は毎日のように活動しているらしい。廃人プレイヤーだろう。
知り合いにもなりたくないのでチラリと確認だけして、さっさと視線をはずす。
「4、5時間なら大丈夫」
「なら行って来い」
「ありがとう、ギルマス!今度お祝いにアイドル様のオンステージでも」
「仕事の時間外にしろよ!」
やるな、とは言わないギルマスに受付嬢も職員も冒険者NPCたちまで「日程は!?」と目を輝かせていた。
冗談でしたは通じない雰囲気だ。
後でね、と言って出掛けようとしたのだが、たまに遭遇しても椛に目も向けない6人組が立ち塞がって「おい」と偉そうに呼びかけて来た。
「なんのイベントだ?この国のメインシナリオを進めてるのはオレたちだぞ」
「あ?なに上から目線で宣ってやがるんだ?何様のつもりだ?やんのかゴラ」
どこの廃人サマか知らないが、礼儀知らずにヘコヘコする趣味はない。
わたしはお前らの家来でも奴隷でもないんだよ!という気持ちを込めて返した。アンセムでちょっと日和ったら酷い勘違い女に絡まれたばかりだったから。
全力の殺気をこめて睨みつけると、6人組も後ずさった。だがギルマスが止めに入る。
「紹介状を破棄するぞ。せめて訓練が終わってからにしろよ、最初からやり直しだぞ」
「ケンカ売って来たのそいつらなのに!」
椛はやり直しなど御免なので、さっさと6人組をすり抜けて組合を出た。
騎士団でスキルを覚えた後なら止めないのかな、とか思わなくもなかった。
騎士団の訓練場に行って紹介状を見せると、今日これから受けて行ってもいいぞと言われた。日を改めても良いようだが、その間に紹介状が無効にならない保証はない。
ということで受けてしまうことにした。
「騎獣をこの訓練の間だけ召喚することを許可する」
「サー、イエッサー!教官殿!」
「ノリの良い冒険者は嫌いじゃない」
教官役の騎士はノリの良いおじさんだった。
おかげでやたらと楽しく訓練を受けて、2時間ほど騎獣に乗って駆け回っていたらスキルを覚えていた。
「しかし騎乗スキルもないのに、この月狼はレベルも上がっているし、毛づやもいいな」
「ブラッシングはむしろわたしのためにしてるからね!」
月牙も流星も、椛がしたいからブラッシングをしているところがある。愛狼たちとのスキンシップは至福のご褒美タイムである。
そして海以外はたいてい月牙もバトルに同行していたので、レベル45近くになっていた。
けっこう上がるものだった。
「商人たちが目の色を変えそう」
「変えそうじゃなくて、事実変えるんだよ…」
そんな話をしていると、どこか楽しそうに訓練していた騎士たちがはっと緊張して空気が一変した。
教官役の騎士も雰囲気が変わり、兵舎に繋がるほうの出入り口に敬礼していた。
「背後霊…じゃなくて、ランスロット様」
思わずつぶやいたが、かなり距離があったのでさすがに聞かれなかっただろう。
ランスロットは騎士たちに「いつも通りで」と声をかけつつ、何故か椛のほうにやって来た。
「ご苦労様。終わったようだからその子と話をさせてもらおうと思ってね」
「は!スキルの獲得は終了致しました!通常の訓練に戻ります!」
そう言って2時間教官は去って行った。
残された椛はランスロットをうかがい、なんで声をかけて来たのか考えた。
またアホどもの話だろうか。
「少しいいかな?」
「も、もちろんであります」
「ほら、あれ」
ランスロットが軽く示すので目を向けると、組合で絡んで来た6人組が通りに面したほうの出入り口から中を覗いていた。
門番が立っていたし、あんなところでたむろっているだけで迷惑だろうに。
「なんであいつらが」
「君を尾行して来たらしいよ。ずっとあそこで出入り口をふさいでる」
「…赤の他人なんです!」
椛は思わず無実を訴えた。真実、赤の他人である。
ランスロットも知っていると頷いた。
「で、前回話した連中もアレ」
「アホの中のアホだった…!」
「すぐに組合に伝えて釘をさしてもらったんだけど、何故か予定通りに事が運んでいるとばかりに喜んだと聞いて、まだ泳がせているんだけどね」
迅速な対応だったのは椛にも分かった。
椛が組合に戻ってグダグダと愚痴っている間にギルドマスターに連絡が行ったから、あのタイミングで説教がされたのだろう。
早すぎたから別件かと思っていた。
「あれはもしかして、理解しようと思うべきではなかったのかな」
「関わりたくない人種だったから、嫌われてるなーくらいにしか思ってなかったので…」
「うん、評判最悪だよ」
禊を済ませていないのだろうか。
それとも帝都での行動だけでそこまで悪化したというのか。
メインシナリオがどうこう言う前に、住民たちとマトモに付き合う努力をしろと言いたい。
「組合に問い合わせて君と彼らの一件は聞いたけど、『この国のメインシナリオ』って何かな?」
「だからブタ箱にぶち込んで臭い飯でも口に突っ込んで、本人たちから聞いて下さいよ…」
「だって話にならないし」
それはそう、と納得してしまう。
ランスロットは前回も会話にならないと見限って椛のほうに話を持って来たのだ。
奴らとは話すだけ時間の無駄だから。
「わたしだって知らーん!騎乗スキルを覚えたくて頑張ってただけだしー!召喚獣の専用スキルを売ってるお店も探して行きたいなーくらいの目的しかないしー!」
「それは分かるんだよ。アレは分からないけど」
全力で奴らと話したくないだけな気がして来た。椛だって話にならない予感しかない。
でも押し付けられるのは確定なんだろうな、とあきらめるしかなさそうだった。
シラベに連絡して帝都にすぐに来れる人材はいないか尋ねて、どうにか検証クランのメンバーを2人確保した。
ランスロットは無理だが、13騎士を1人立ち会わせると言っていたのだ。会ってみたいプレイヤーなら釣れるのは間違いない。
数日後、椛は検証クランの2人を連れて帝都の騎士団にやって来た。
「騙された…?」
「騙してないよ。こちら13騎士のお一人のガラハド様です」
「おう、よろしくな」
ガラハドは身長2Mは優に超える大男で、ガハハ笑いの似合いそうなカラリとした雰囲気の人物だった。
ランスロットとは幼馴染で、ほぼ同年代だそうだ。
正反対のように話しやすい雰囲気なので、少しでも話が通じるといいなという希望を感じさせる。
ガラハドが駄目なら本格的に駄目だと判断されるだろう。そんな気がした。
椛と検証クランの2人が先に騎士団の応接室でガラハドとあいさつをしていると、組合を通して呼び出した6人組がやって来た。
攻略クランのひとつらしいが、名前は聞いたけど忘れた。きっと今後会うとしても、アホ以外の認識にはならないだろう。
騎士団から呼び出されたと意気揚々と来たようだが、椛たちを見ると顔色を変えて喚き出した。自分たちだけが特別だと、そんな妄想を信じこんでいたのだろう。
ガラハドは「なんで怒るんだ?」と途方に暮れかけているし、検証クランの2人は「騙された」とまだ言っている。
前途多難だった。
未来の椛「あ、あいつら、どこかで見た気が…誰だっけ………そうだ!帝都の6人!」
くらいの認識になりそう




