101プレイ目 レイル
颯爽と登場した美形の騎士は、ランスロットと名乗った。
黒髪黒眼の30代半ばほどに見えるが若々しくもあり、成熟した色気を纏っている。
「筆頭騎士様…!」
「知っていてもらえたとは光栄だね」
爽やかな笑顔だが、本心の見えない完璧な仮面である。
こういう笑顔の人間は腹黒いと相場が決まっているのだ。椛はアラサーだからそれなりに出会いと別れを繰り返しているので詳しいのだ。
というか、こういうキャラは人気があるから良く見るのである。
これなら残念イケメンの団長の愚痴に付き合うほうがマシだ。あの鬼女の都には行きたくないけど。
「あの、なんか、その、背後からですね…」
「大丈夫だよ。城の外には出て来ないから」
城に住み着いた妖怪か何かなのか。
会話を始めたら圧が上がって、突き刺さるどころか刺し殺されてる気分になって来た。
どう考えてもランスロットの背後霊である。
巻き込まれた兵士くんは敬礼したまま硬直していたが、解放が決まって嬉しそうに仕事に戻って行った。
椛も現実に戻って仕事をしたいくらいだ。
そうも行かないのでランスロットに促されるまま歩き出した。処刑場に連行される死刑囚の気分だ。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「そうは言われましても」
「これまでにも移住者はこの帝都を訪れてるけど、身分というものを理解していない者が多かった。君はかなりマトモだったよ」
誰が何やらかしたんだよ!と叫びたい。
そもそも13騎士に会えたという話も聞いていないのに。
「今も戦争がどうこうと嗅ぎ回っている連中がいてね。知っているかな」
「知りませんけど!?」
椛のフレンドは帝国に来ていないはずだ。
あとのプレイヤーは知らない人で間違いないはずだ。
だが答えてから、戦争の話はなんか聞いた気がするな?と思った。
顔に出てしまったようなので、慌てて言い募る。
「帝国が戦争を仕掛けて来る気だとか、戦争の準備をしてるとかって噂なら聞いた気がするなって思い出しただけですよ!」
「どこで噂になってた?」
「わたしが行った所だと、アルヴィーナ王国?でも仮想敵国からの攻撃だって被害妄想混じりな感じもあった気が…」
「ああ、あの国はそうかもね」
直接聞いたのはそのくらいだろう。
「キールファン王国はたいして滞在してないから噂とか聞いた覚えがないし、カナーラント王国や芸術の国あたりは帝国の話はほとんど聞かなかったし…」
国境を接していないし距離もある。戦争の話だって他人事になるだろう。
迷宮都市などはダンジョンにしか興味のない冒険者ばかりで、余計に話題に向かない場所だった。
「あ!噂を聞いたって噂を聞いたんだ!信憑性の薄い奴だ!」
都市伝説並みにアテにならない噂ということである。
それでもランスロットが聞きたいというので、椛は思い出しながら話した。
「帝都では戦争の話なんて全く聞かないのに他の街だと戦争の準備をしてるとか、小国群では帝国が攻めて来るって悲壮な感じだったとか、そういう噂だったかと。オーフォロ王国は通って来たけど、そんな雰囲気なかった気がするものの…2、3日しかいなかったので」
オーフォロ王国は商業組合の酷い話しか聞いていない。
あとトシュメッツ国の悪評か。
帝国について椛が話題にしなかっただけとも言えた。
「どこから出て来た噂だろうね。帝都では確かに、そんな噂はないんだけど」
アルヴィーナ王国あたりは被害妄想でも良いが、他は帝国への嫌がらせレベルを越えた攻撃にも思える。
噂を流して、本当に戦争を起こしたいのか。
「あれ?もしかしてアホな移住者たちは根拠のない噂を無駄にばら撒いて、帝都のみなさんに不安をもたらしている…?」
「そうとも見えるね。帝都では戦争の噂を聞かないが、何か知らないかと──噂がないと言ったその口で、帝都の民が何を知っていると言いたいのか分からないことをね」
「マジでアホだった!」
噂ひとつない場所で他所の地の噂をして、何が聞けると思ったのか。知らねえよ、以外のどんな反応があるというのか。
それは情報収集ではなく、情報源としてばら撒く行為にしかなっていない。
はたから見れば根拠のない噂をばら撒いて反応を探り、嗅ぎ回っているように思われて当然だった。何が目的だ、と椛だって胸ぐらを掴んで揺さぶってやりたい。
「せめてどこで誰から何を聞いたのか具体的に説明していればこちらも裏取りができるのに、だいたいが酒場で隣の席に座っていた見知らぬ誰かが話しているのを聞いた噂なんだがっていう、お話にならないレベルの噂だと言っていてね」
「どこの酒場だって聞いても忘れたって言うレベルのお話にならない噂なんですね、聞きたくなかった…」
「本人たちに確かめても話にならないと判断しただけだよ」
会話する価値なし、と判断されたのだ。
だからもう少し話が出来そう、くらいの椛に聞いて来たのだろう。どんだけ低評価されたのか理解して欲しい。
「コミュ力…っていうか、会話能力に難がありそうなので、とりあえず帝都の民の不安を煽る噂をばら撒くなって釘をさしたほうが良いんじゃないッスかね…」
「そうだね。それでも止めないのなら、裏があると確定するけど」
「ブタ箱にぶち込んて臭い飯でも食わせてやったら良いんじゃないッスかね…」
忠告を無視するならそれで良いんじゃないかな、と思う。普通ならやめるだろう。
普通じゃない人のことなど椛の知ったことではない。
ランスロットは「参考になったよ」と爽やかに笑う。まだ城に近いところを歩いているので通行人は少ないが、光を見つけてふらふらっと湧いて出たっぽいお散歩を装ったお嬢様たちが、それに目をやられて倒れていた。
お供たちが慣れた様子で助けているので、全く問題はない。
ないけど、日常風景なのかと思うと恐ろしい光景だった。
冒険者組合に戻った椛がお城がすごかった、と具体的な話はせずに受付嬢に愚痴っていると、プレイヤーらしき6人組が入って来た。
他の受付も空いているので、椛はそのまま受付嬢と話す。
「案内してくれた兵士の人の話では、お大臣様勢ぞろいだとか貴族の方々が押しかけて来たとか、どんだけ集まって来ちゃったのか」
「それだけ注目を集めたということですね。分かります。可愛かった…!」
「あれは珍しいからじゃないのかな…」
奥の職員たちまで「可愛かった…!」とうっとりしている。みんなアイドルに魅了されきっていた。
そこにギルドマスターが顔を出したので、おっさんお前もかと言いかけたが、こちらは別件だった。
「ああ、そこの移住者のパーティ、話があるから来てくれ」
ギルマスの呼び出しに、先ほど来たばかりの6人は話の中身を聞く前から良い話だと決めつけて、喜んでギルドマスターの執務室に入って行った。
「…なんか褒められることでもしたの、今の人たち」
「眉をひそめることなら毎日言ってますよ」
「そっかー」
それは説教コースっぽい。
他の職員たちも「何を喜んでたんだ…」と、まさに眉をひそめている。
理解できない生き物を見る目だった。
「わたしは説教されないように頑張ろう。クエストもやらなきゃいけないし」
「そうですね。紹介状を目指して頑張って下さい」
騎乗スキルを教えてもらうためである。
条件としては、この帝都の冒険者組合に一定の貢献をして、ギルドマスターから認めてもらうこと。
組合から騎士団にこの冒険者はそこそこ使える奴ですよ、と紹介してもらうことで指導を受けられるという話だ。
クエストの達成はもちろんだが、人格面も保証されることになるので、眉をひそめるような真似は厳禁だ。
さっきの6人はよほど頑張らないと無理そうだが。
街中でのクエストで住民の役に立ち、好印象を与えて組合の評判を上げるのも手だ、というのでクエストを物色していると、説教コースだったはずの6人が喜びながら出て来て去った。
「なんか褒められることしたの?」
「そんなまさか」
受付嬢にこんな反応をされるとか、よっぽどである。
何があったのか全く想像がつかなかったものだ。




