100プレイ目 レイル
100話記念で歌って踊ります
「うわー、大っきいー」
「すごいだろう。神代の昔に神が邪神を封じた《神殺しの塔》だよ」
「塔を槍に見立てたら、邪神がすごい大きさだった感じ?」
椛が《神殺しの塔》へ続く湖上の橋の手前の広場で屋台のおじちゃんに聞くと、すごい大きさだったかもねとうなづいていた。
椛はレイド戦を思い浮かべて、雑魚扱いでもあのサイズがいる世界だしと納得した。
邪神なんてラスボスっぽいものが小さい訳がない。可変タイプかもしれないが。
椛が今いるのはハイレオン帝国の帝都レイルである。
巨大な湖の南岸に築かれた街だが、湖には邪神が封じられているのであの水は使えないらしい。
おかげでわざわざ水道橋で水が運ばれて来ているので、不思議な景観の都になっていた。
湖に面した広場からは南に大通りが伸びて、都の中心に神殿と神殿前広場がある。
そこからさらに南下した大通りに組合前広場があって、冒険者組合と商業組合がある。
都の南東地区が商業区、工房区で、南西地区が住宅街なのは他の街と同じだ。
北側が大通りで二分されているから違って見えるが、北東側に城や貴族の屋敷、役所などがあり、北西側に商人などの高級住宅街や騎士団や衛兵隊の兵舎、訓練施設がある。
おおまかなところは同じ造りだった。
北側は大通りの周辺を庶民が歩いていても、裏通りには入らない。そこから先は実質立ち入り禁止だからだ。
ついでに《神殺しの塔》も許可証がないと入れないが、ランクA以上なら冒険者組合で許可証がもらえるそうだ。
危険度Sなので、腕に自信がないと挑まないが。
それでもすぐそばで見物できるということで、この広場はいつも賑わっているそうだ。
「あと13騎士の方々が塔に挑む時に通るから、それ目当ての人も少なくないね」
「さすがランクSの騎士様…!」
現在は13人いるから13騎士だが、人数で呼び方が変わる。ランクS以上の騎士たちだけがそこに名を連ねるのだ。
「天馬騎士が筆頭騎士様だって聞いたよ」
「街中で天馬はお乗りにならないが、それは立派な天馬だそうだねえ」
ちょっと見てみたかったが街の住民も見たことがないのなら、諦めるしかないようだ。
「あとすっごい美形だって」
「強くて美形で、否の打ちどころのないお方さ」
「闘技場の覇王もランクSだけど、美形ではないな。でも寡黙で強くてかっこいいよ」
「噂はよく聞くね」
美形だとめんどくさいイベント付きなので、椛は覇王くらいのほうが好きである。
つい秘蔵のサインを見せびらかしてしまったものだ。
帝都一の観光名所を訪ねてから、椛は冒険者組合に戻って来た。
帝都の南門から入って、組合と神殿の転移門はチェック済みだ。前の街では忘れたので。
受付嬢にすごかったと感想を述べてから、質問をした。
「帝都なら騎乗スキルを教えてもらえるかもしれないって聞いたんだけど」
「それには条件がありますよ」
やっぱり、とうなづいて条件を聞いた。
だが思ったほど厳しい条件ではなく、帝都でしばらくクエストをこなしていればどうにかなりそうだ。
「じゃあ条件を達成できそうなクエストを」
「それでしたら」
特殊クエストも含めて吟味して、今日のうちにクリア出来そうなものを受ける。毎日チェックして条件を達成してしまいたい。
それから受付嬢と世間話をしていたつもりだったが、椛が召喚士だったので誘導されていたようだ。
可愛い召喚獣と契約しているんですよね!と期待にきらめく眼差しで見られていた。
他の受付嬢に目を向けると、申し訳なさそうにしている人が1人であとは期待に満ち溢れている。
次はあの申し訳なさそうにしている受付嬢に声をかけようと心に誓いながら尋ねてみると、移住者の召喚士が何人か来て可愛い召喚獣を連れて歩いていたそうだ。
「天使とかちっちゃな妖精とかだよ。連れてる奴がいて、前に騒ぎが起きたんだ」
「あれは、可愛かった…」
受付嬢どころか酒場でぐだぐだしている冒険者NPCたちまで思い出しウットリしていた。
天使と小妖精はこの都でも人々を魅了してしまったらしい。周りにプレイヤーがいないと油断して連れ歩いたのだろう。
NPCも敵だった。
「あ、あの、参考までに…!」
「まあ、うん。騒がないなら」
天使か小妖精でごまかそうかと思ったが、後でバレたら面倒である。最カワの伝説の幻獣ミーティアを召喚した。
「みゅ?」
反応からそんな気がしていた受付嬢が「ふぁー!」と歓声とも悲鳴ともつかない声をあげ、可愛いものを期待していた連中も可愛いものが出て来たので喜んで叫んでいた。
月詠は驚いていたが、すぐに仕方がないなあとドヤっている。
この自己肯定感の高さはすごいと思わなくもない。
「月詠は歌ったり踊ったりはしないよね」
「みゅう!」
しないと思っていたが、カウンターの上で軽快なステップを踏みながら、みゅうみゅう何かのメロディで鳴き出した。
歌って踊れるアイドル様だった。
奥から「何の騒ぎだ!」と出て来たギルドマスターっぽいおじさんも、月詠を見たら一瞬でファンに加わってしまった。
椛はとりあえず、動画を撮って終わるのを待ったのだった。
数日後、椛はハイレオン帝国の皇帝に謁見していた。
もちろん原因は伝説の幻獣である。
きっとバレるので、ミーティアも銀狼も召喚してやった。
召喚獣なので「売れ」とか「献上しろ」とは言われないのは気楽だ。
銀狼のほうは闘技場での噂がこんな所にまで流れて来たようだが、本当に仔狼なんだなで片付いた。
この国で研究しているのは、成体と思われる巨大な銀狼のほうだからだ。
ミーティアも研究対象ではないので、あくまで珍しいから見たかったというだけだ。
月詠が調子に乗って歌って踊っても皇帝は喜んだだけだし、流星がバックダンサーのように「あんあんっ」と跳ね回っても可愛いから許された。
むしろ椛が許した。
「ふー、皇帝陛下の左右に侍ってるの噂の13騎士様たちじゃね?って思ったけど、顔を見てる心の余裕なんてなかった…」
「そりゃあお大臣様方まで勢ぞろいで物見高いお貴族様たちまでいらしてたからな」
「物語の挿し絵だと、左右にズラリと騎士様たちが並んでたのに…」
「騎士まで入る余地はなかったよ」
なんとか謁見を乗り切った椛は、城内を案内してくれた一般兵っぽい人物と城門の外で話していた。
外に出るまで無駄口を叩く余裕もなかったのだ。
廊下を歩いているだけで刺すような視線があちこちから飛んで来ていたので。
完全にアウェーの敵地だった。理由は知らない。
ブローゼスト王国の城なんて、あれに比べたら親戚の家みたいな居心地の良さだった。鬼女の覚醒前だったから。
「なんか、アンセムに帰って聖女様の微笑みに癒やされたい…」
「なんて贅沢な…!聖女様ってそんな簡単にお会いできるのか!?」
「運がいいと普通に会えるよ。子供たちへの読み聞かせ会とか、自ら参加なさる日もある…」
だから子供たちは聖女様に懐いているのだろう。会ったことがないなんて言う住民はいなかったな、と今さら思った。
兵士が「ちょっと旅に出たくなった」とかぼやくのを聞いていると、背後から背筋の凍る空気が迫って来た。
一般兵士もぎくっとして、背筋を伸ばしている。
恐る恐る振り向くと、きらびやかな白銀の鎧の騎士が赤いマントを翻して颯爽と歩いて来ていた。
恐ろしいものはその背後から感じる。
まさかここにも鬼女が!?と叫びたい。そして逃げたい。
でもそんな失礼なことは出来なかった。
歩いて来たのが13騎士の1人だったのだから。
水を生み出す魔導具が作られる遥か以前に水道橋は作られました
でも《神殺しの塔》の放つ神聖な力で浄化されているので湖に危険はありません
この湖の底に邪神が封じられているのかと思うと使いたくないという精神的な理由




