99プレイ目 ラフィス
薬草園が見てみたくて、椛はオーフォロ王国の東の港街ラフィスに来ていた。
薬の材料になる植物がメインなので薬草園と呼ばれているが、大きな植物園には珍しい花や果樹もあった。
入口で『植物図鑑』が売っているので、ずっと必要ないと思っていたのについ買ってしまった。
図鑑片手に植物を見て回るのも楽しいものである。鑑定のスキルがあるので、説明の書いてある看板をいちいち見る必要もない。
一周して満足して、出口側の売店を覗く。
薬師向けなのか薬草類や素材が売っているし、自分で育てろという意味なのか種や苗も売っていた。
果樹の苗はつい買ってしまった。
ポーションを作る時に加えると味が変えられるらしいが、その中でも人気のフレーバーとして林檎や桃の木があったのだ。
たぶん他でも買えるし、味を変える調薬方法を覚えるスキルレベルはけっこう高いので、ここで買う必要は全くないのだが。
分かっていても買いたくなる観光地効果だ。
林檎と桃は椛も好きなフルーツだから、無駄ではないのだ。
「ここはけっこうヤマト国と近いけど、それでも交流はないの?」
「昔からヤマト国の方々って気難しいというか…トシュメッツ国の方々以外とは打ち解けて下さらないそうなんですよね。でもトシュメッツ国はここ数十年でかなり様子が変わってしまって良い噂は聞かないんですけど、ヤマト国では大陸側の噂は入らないでしょうし」
ヤマト国と繋がりないのかな、と思って尋ねたら、違う方向性の話が出て来た。
またシラベに文句を言われそうである。
「トシュメッツ国は行ったことないけど、どんな噂が?」
「商業組合並みにあくどいって話が多いんですよ。騙されたとか」
この国の商業組合の評判は最悪なので、かなり酷いということである。
ヤマト国解放のために行く必要があるはずなのに、行く気が失せて来た。
売店の店員さんは、うちはそういう被害を受けてないから詳しくないんですけどと笑う。
他人事だから軽く話しているだけで、関係者に聞くなら覚悟が必要そうだった。
薬草園の外には広い公園があって、子供たちが元気に駆け回っている。
そして屋台が並んでいるので、椛は玄幽を召喚して一緒に買い食いしていた。
港街なので魚もおいしいようだが、椛はバラの香りのソフトクリームを選んだ。玄幽は一口サイズの白身魚のフライが何個か刺さった串を食べている。
「同じ魚なの?違う味がする?」
「ガウガウ」
魚の種類は分かっていないようだが、味付けが違うらしい。玄幽が美味しそうに食べるので、椛もちょっと食べたくなった。
ソフトクリームも美味しいのだが。
そんな話をしてベンチに座りつつ、一応シラベにメールは送っておいた。
すぐに聞くような噂なら、もう知っているだろう。
ソフトクリームを舐めていたら、今日もシラベの返事が速かった。
[なんでオーフォロ王国でトシュメッツ国のネタを拾ってるの?]
[ここの港からならヤマト国が近いはずって思って聞いたら、違う方向性の話が返って来ただけだよ]
[試しにアルヴィーナ王国にいるクラメンが聞いたら、トシュメッツ国の悪評が出て来たって。かなり酷いらしいよ]
検証クランは多忙そうだ。
でも椛はヤマト国の話が聞きたかっただけなのだ。
まだ先の話だが、玄幽の武器を新調するならヤマト国に行くしかないのである。
「あー、レベル上げもしないと。レベル60ないと行けないところがあるんだよなー」
ここの海はレベル上げに向いているのかな、と検討してみたのだった。
冒険者組合で調べたところ、港の沖にある小さな無人島に推奨レベル55で危険度Eのダンジョンがあった。
レベルが高いので試しに入ってみないと分からないが、無謀にボスに挑まなければレベル上げに使えるかもしれない。
海の騎獣のジェットで海上を移動しながら遠くに見える海岸線を眺めた。
「このまま北上して、帝国に行けたら良かったんだけどなあ」
オーフォロ王国の北側はハイレオン帝国領である。海岸線は全て帝国の領内だ。
ただし港になる場所がなく、海軍もあまり配備されていないらしい。
海上貿易にも向いていない国なのだそうだ。
そういう意味ではオーフォロ王国のラフィスは、帝国に狙われている場所のひとつらしい。
帝国の狙いが内陸、特に大国アルヴィーナのほうに向いているので話題に上がらないだけで。
だから帝国に行くには陸路しかないのだ。
そして寄り道してラフィスに来たが、帝国に行くには王都に戻らないと街道が通じていない。
山の中を蛇行する街道より、道のない海を進んだほうが早く着きそうだなあと思ったのだった。
「そこまで強くなかったんだけどなあ」
ダンジョンに挑む前に、久しぶりに水中戦もしようと思ったのが間違いだったのだ。
無人島の周囲の海フィールドの推奨レベルも55だった。危険度表示はないので1番下のF相当のはずだ。
ダンジョンは島の陸上にあるので水中戦は関係なかった。そして海より危険度はひとつ高い。だからレベル55の魔物のステータスを確かめようと思っただけなのだ。
被ダメが大きくて、あっと思った時にはクリティカルで大ダメージを受けて死に戻っていたのである。
ちゃんと回復してHPが満タンだったら耐えられたはずなので、完全に椛の慢心である。
ついでにダンジョン内なら入口に戻されるだけだった。
ため息をつきながら転移門の間を出た椛は、そこから見える景色に違和感を覚えた。
東へ視線を向けて、海がないと驚く。
「あれ、ここどこ!?転移門の登録忘れてた!?いつから忘れてた!?」
慣れて来て、街に着いたら習慣のように登録していたはずだ。
元々忘れっぽいけど。
「どうしました?ここはオーフォロ王国の王都カドマンですよ」
「王都カドマン!じゃあ忘れたのラフィスの街だけだ」
転移門の間にいた神官に言われてホッとした。
そういえば薬草園に気を取られて、神殿に寄らなかった気がする。
神官に騒いでごめんなさいと謝罪してから外に出た。神殿前広場に出てから気付いた。
「あ、こっちに戻る予定だったっけ」
薬草園目当てで寄り道をしたのだが、もう見物は終えたからあの街に用はなかった。
同じレベルと危険度のダンジョンは他にもたくさんあるので、わざわざ戻ってまで攻略したい場所でもない。欲しい素材があった訳ではないのだ。
予定は狂ったが移動時間が短縮しただけである。
早く着くなら良いか、と前向きに考えることにしたのだった。
トシュメッツ国は街道をちょっと通っただけで街には入らなかったので、椛は行ったことがない判定をしています
関所を通ったので入ったことは覚えてます、きっと
通話機能については否定的なご意見をいただいたため、今後もチャットでやり取りすることになりました
ご意見ご感想ありがとうございます。




