97プレイ目 ヴィスタ
椛が比較的よく滞在しているアルヴィーナ王国の王都ヴィスタに立ち寄ったのは、国立図書館があるからだ。
館長は面倒臭い存在だが、調べきれないほどの蔵書があるのは魅力である。
ついでにヴィスタを拠点にしているエンジョイ勢のお菓子メインの料理人たちがいたことを思い出しただけだ。ロウガイにも確認したから間違いない。
生産トップの品質9のものを作れるようになっているプレイヤーたちほどではないが、ベリー系のお菓子はよく売っていたはずだ。
あとのんびりした女性ばかりで、時々買いに行くとおしゃべりするだけで癒された。
きっとモフラーだとしても、そこまで豹変しないはずだ。だといいな。
と思いつつ屋台や露天の出ている通りに行くと、見覚えのある女性プレイヤーが店番をしていた。並んでいる商品も可愛いお菓子ばかりだ。
「こんにちはー。ベリー系のお菓子ある?」
「あ、時の人…じゃなくて、いらっしゃい。ラズベリーとブルーベリーしかないけど、このあたりはベリーのお菓子よ」
時の人くらいなら可愛い呼び名である。
椛は代わりにヴィスタでは手に入らないだろう果物を少し売って、菓子をひと通り買わせてもらう。
それから月詠を召喚した。
「みゅっ!…みゅみゅっ!?」
「お菓子も食べるのかなって」
アイドル登場!みたいなノリで出て来た月詠は、すぐに目の前のお菓子に気付いて興味を示した。
匂いを嗅いで確かめていたが、加工品は食べないらしい。生のラズベリーを出すと、それを取ってかじっていた。
「ほ、本物はスクショより可愛いわねっ」
パティシエールは「きゃー♡」と可愛い歓声を上げそうな表情で月詠を見ている。こういう反応なら椛も「スクショ撮る?」「抱いてみる?」と言うのもやぶさかではないのだ。
言うと後で迷惑をかけるので、黙って楽しんでもらった。月詠も自分のファンだと思ったのか、サービスたっぷりに愛想を振りまいていた。
おかげで近くの屋台の者たちも寄って来たが、常識的なプレイヤーばかりで助かった。
「あの、ハムスター君も見てみたいのだけど…」
「いいよー」
遠慮がちなリクエストに星影を召喚する。月詠が「ライバル!?」という様子で見ているが、星影はアイドルより忍者になりたい派だ。
可愛いと言われて怒り、カッコいいと言い直されて腕組みして満足そうにしていた。
誰もが「可愛い」という顔になっていても気付いていない。
月詠が対抗するように腕組みをして、可愛いと言われて満足そうにドヤっている。
今度は星影が「おまえはそれでいいのか?」という顔で見ていたものだ。
召喚獣たちの表情だけのやり取りも、見ているだけで面白い。
「いつか護衛を頼んで契約しに行きたいのだけど、まずは騎獣なのよね」
「パーティ組んで代わりに戦ってもらえば契約できるらしいけど、お金がなあ」
生産職はなにかとお金がかかるそうだ。
土地代、店代、工房代、クランハウスも欲しい、自宅だって欲しい。
素材を買うから売り上げはそんなに多くならないし。屋台の場所を借りる代金もかかる。
それを聞くと戦闘職は元手なしで儲けが入る物が多いなあ、と椛も思った。
可愛い女性プレイヤーの料理人たちだけなら、お代はお菓子でいいよと付き合うのもアリだが、他の連中まで群がってくるだろうから言えない。
それをきっかけにフレンドになって欲しいなあ、とか思っていても言えないのだ。
椛も残念だった。
図書館に来たら館長が即座に現れたが、今回は積極的にぽよちーを召喚してやった。
帰りが面倒くさいことになるが、図書館内にいる間はぽよちーに夢中で静かになるからだ。
「伝説の幻獣ミーティアと契約したんだけど」
「え、見たい!」
「目の色を変えた連中に追われてる…」
「…そうなんだー」
今のところは誰も来ていないが、いつ追いついて喚き出すか分かったものではなかった。
伝説の幻獣は全プレイヤーの共有財産なんだから独占するなんて許されない、ワタシがログインしている時は必ず召喚しろ、とかフザケたことを言い出すからつい運営に通報したら余計に怒り狂っていたし。
運営からイエローカードが出たなら自分が規約違反したと悟るところなのに。
他のプレイヤーに何かを強要する発言がアウトだったはずである。
そもそも全プレイヤーじゃなくて自分の都合で命令して来た。何様のつもりなのか。
館長は何かを悟ったのか、諦めてぽよちーを見上げていた。
「でも伝説の幻獣なら、城でも見たがる連中がいるかなあ。言わないほうがいいかも」
「国王がなんかアレって話?」
「王の腰巾着たちも同類だからね」
知られたら不愉快な思いをさせられるのだろう。
「王妃も王よりマシだけど、自分に酔ってるタイプでね。誰かに優しくするのも全て自分のためっていう…慈善活動しながら孤児たちに愛想を振りまいて、自分の産んだ子供たちは放置してるっていうね」
「あー…」
「第一王子殿下は両親の尻拭いで忙殺されてるし、お労しいよ」
ここの国は王と王妃が駄目っぽい。
館長の話だけを鵜呑みに出来ないが、人望はなさそうだ。
椛はそんな話を聞きながら、本棚を見て歩く。確たる目的はないが、タイトルだけで惹かれる本もある。
史上最強のランクSSと伝わる男の伝説とか。
アルヴィーナ王国が誇るランクSSの猛者たちの全てとか。
魔術士系だろうが、強いなら気になる。
「現存する勇者武器の全て…!」
「好きだね、そういうの」
「『神の匠』の作品はすごかったよ。神の授けた武器はあれ以上なのか!?って気になる」
「えー、オークションで買った連中、しまい込んで自慢はしても人には見せないタイプが多いのに」
「そうなんだ」
椛は『神の匠』本人の屋敷で見たので、隠されてはいなかった。
しかも本人は出来に不満が残っている様子だった。
「こっちは名工たちの有名な作品集」
「過去の鍛冶師の作品は、現存するものが全てだからねー」
伝説の武器ではないが、どれもすごい値段がついているらしい。むしろ金があっても買う機会がないくらいだ。
「博物館で展示してないのかな」
「城とかに展示室があるけど、許可がないと入れないね」
「ですよね」
貴族や豪商の屋敷でも展示室がありそうだが、一般人には縁がないやつだ。
椛もそんなものには期待していない。
「北の小国群を旅して回りたいなあって思ってるんだけど、何かおすすめある?」
「錬金術のメッカって呼ばれるブリュマルクは、何か面白い発明がありそうかな」
「錬金術かー」
「オーフォロ王国の薬草園は世界中から集めた植物が育てられているって聞くね」
「観光名所っぽい」
「でも行ってみたいのはグルメの街かなー」
「お金ないと無理なところー」
椛もいつかは行ってみたいが、入場すら拒否されるらしいのでそこは行く予定はない。
一応サブ職が薬師なので、薬草園は行こうかなと思ったくらいだ。
そして今度こそ帝国も行ってみようとは思っていた。
召喚獣の強化に必要な店の話は椛も記憶の片隅に残っていたのである。
伝説のミーティアが後ろ肢だけで立つ様子は、少しリスっぽいイメージ
(とにかく可愛いなら全て採用して行くスタイル)




