93プレイ目 ブロム
「こんなにも早く、ここに戻ることになろうとはな…鬼女コワイ」
「やめて、湧いて来ちゃうわよ」
椛はブローゼスト王国の王都ブロムに来ていた。
椛だけでなく、ここで発見されたイベントの話を聞いた戦闘職のプレイヤーたちは続々と集まって来ているはずだ。
ハムスターの相棒を探しに旅立ったクラメンだって、秘境探検をキャンセルしてこちらに来ている。
ちなみにハムスターは明るい茶色のメスだった。もちろん可愛い。
せっかくのイベントだからとクランマスターの頼闇が呼びかけたおかげで、クランのメンバーはほぼ集まっている。
「まさかレイドがあるとはなー。鬼女の群れとの戦争イベが先にあるのかと思ってた」
「下手な戦闘民族より強そう…」
「攻略組、マジでシナリオ攻略にシフトチェンジしてたんだな」
発見したのは攻略組と呼ばれるクランのひとつだそうだ。王都ブロムは海でレベル上げがてらにイベント探しが出来てちょうど良かったと証言しているらしい。
鬼女の存在は気にならなかったのかな、と椛は思ってしまうが。
今も神殿前広場に集まっているのだが、どこからともなく不穏な視線を感じる。
多くのプレイヤーや冒険者NPCが集まっているので、椛は埋没して目立っていないはずだが落ち着かない。
そわそわしながら話して待っていると、王国騎士団の団長が騎士たちを連れて現れた。
近衛騎士団ではないのでフレッド団長ではなく、壮年の髭が立派なダンディな人物だった。
今日は数回に分けてレイド戦に関する説明をする集会のうちの1回で、参加者の募集も兼ねていた。
毎回同じ説明をするのは大変そうだが、一度に全員を集めて混乱が起きるよりはマシだろう。
団長の説明によると、数年に一度現れる化物のような巨大な魔物の討伐が目的だそうだ。
とにかく巨大でHPが多いので、人手が必要だという話のようだ。
弱点や基本的な攻撃手段、行動変化のパターンがすでに解明されているので各自で確認しておいて欲しいと言っているが、むしろいたれりつくせりである。
「ああ、レイド戦のチュートリアルなのか」
「それっぽいわね。数年後にまたやりますとも言ってるし」
「サ終してなければ」
「またやれるといいな」
数年後のことは分からないが、レイド戦は数日後である。
まだ猶予はあるが、長居したくないので遅く来たほうなのだ。
クエスト自体はいつも通り冒険者組合で受けられるし、そちらでレイドボスの詳細も調べられる。
資料は多めに用意されているようだ。
「組合なあ…受付嬢も鬼女化してたからなあ…大丈夫かな」
「駄目だったらメールで教えてあげるわよ」
大丈夫と言って欲しかったが、椛もそこで妥協したのだった。
冒険者組合の中は資料を求めて来たプレイヤーたちでごった返していたが、それでも行き渡るくらいにたくさん用意してあった。
「すっげー形相なんだけど」
「目を合わせるなよ」
「他の人たちもソワソワしてるわね…」
もちろん受付嬢たちの話である。
椛を見るなり鬼女の形相になったが、襲っては来なかった。後ろで睨みを利かせている強面のおかげだろう。
だが組合内にいる全員がビクッとして気付く迫力だ。これに気付かずにいられるほど鈍感な者は少ないだろう。
「わたしやっぱり、当日まで隣の街に避難しておく…」
「遅れないようにね」
「まさに夜道には気をつけろってやつだな」
「どこの世紀末都市なんだよ…」
椛もレイド戦は参加したいが、こんな都にはいられなかった。
しかし資料を読み終えて帰ろうとしていたら、クラン『チャレンジャーズ』が呼ばれてしまった。呼んでいるのは奥にいた強面のおじさんだ。
頼闇が代表して応じる。
「何か用かしら?」
「いや、闘技場で名を上げ始めている新人たちの集まりだと聞いていたからな。あいさつしたかっただけだ。オレはここの組合のギルドマスターをしている」
「あら、ご丁寧にどうも。いろいろな経験を積みたいから、アタシたちも今回のクエストは楽しみなのよ」
「実に頼もしい」
手前に鬼女たちがいなかったら絵になったかもしれないが、誰もが目を逸らす絵ヅラでしかなかった。
頼闇は笑顔で応じられるとか、大物である。
「何か嗅ぎ回っている移住者たちがいるが、知りたいことがあるなら答えられるものには答えるぞ」
「そこの鬼女を人間に戻す方法…」
「それはオレも知りたい…」
「ギルマスを困らせないの。そうね、まだレベルが足りないのは知っているけど、西の大陸に行く船の話とか?」
椛の切実な問いに答えはなかったが、頼闇の質問にもギルドマスターは渋い顔になる。
「レベルの問題じゃないからなあ、今は。それにレベル60以上の冒険者が同乗していれば船が出せるという条件は、全ての客に共通した最低限のものだ」
「自分がレベル60以上になっていれば、他を探す必要がないってことよね」
本来、西の大陸に向かう船は、護衛役になるレベル60以上の冒険者が乗っていれば出航許可が出るものだった。
しかし現在は西の海の異変のせいで全面停止中なのである。
これには住民たちも困っているのだ。
転移門があるから最低限の交流は出来ているが、それでは困るから船だって出ているのだ。
「まず海上に嵐が停滞していて消える様子もない。これが解消しない限り船は出せない。海軍が原因を調査しているが一向に判明しない。だが漁師たちが怪物を見たという話もある。現在わかっているのはこのくらいなんだ」
「海軍は怪物を発見できていないのよね、確か」
「そうだな。発見して倒せれば解決するだろうに」
海軍だけでも解決する力はあるのだろうが、ゲーム的な都合でプレイヤーが介入しないと進まないイベントなのだろう。
そしてレベル60は必要なイベントだろうと予想して、まだ触らないでいるだけだ。
今のところ、やらかした者はいないらしい。
「早く解決するといいわね」
レベル60はまだ遠いなあ、と思うのだった。
「誰が怪しまれているのかしら…」
「嗅ぎ回っているって言われてたもんな」
組合を出て頼闇がため息をつく。
椛は鬼女たちが気になって聞き流したが、そういえば嫌味っぽい言い方だった。
クラメンたちも面倒そうな顔になっている。
「ジーク様情報とか、そういう話ではなさそう」
「そういうタイプじゃなさそうだな、あいつら」
「検証クランは?」
「根掘り葉掘り聞くけど目的は分かりやすいわよ、あの人たちは。まさに好奇心を満たすためって」
椛はシラベしか知らないが、確かに裏は感じないタイプだ。聞く内容もそう思わせる。
「攻略組?」
「その人たち、1人も見たことないからなあ」
「おれもないな」
「掲示板の中の存在って気がするくらい、無関係で過ごして来たよな」
「闘技場に来ないからな、あいつら」
椛もうなづいてから、ふと思い出した。
「あ、迷宮都市で声かけて来た、悪評が悪評を呼んでた人って攻略組だったかも。聞いてないけど」
「あー、あれか」
タグもそういえばと納得していた。
NPCの態度はあんなものだろ、とか言っていたプレイヤーがいたのだ。好感度がどん底になっているとも気付かずに。
少しは怪しむところだろうに。
「コミュ力は低そうだったね…」
「もっと早く気付くだろって、オレでも思ったくらいだしな…」
「あそこまで悪化させて、他人に指摘されるまで気付かずにいられる連中だってことか」
めっちゃコミュ力低そう。
さほどコミュ力の高くないメンバーすら、オレより絶対低いぞと言い出すレベルだ。
「MMOの攻略クランって何故かカリスマリーダーがいるものなのに、ラノベなら」
「そんなカリスマ持ってたらMMOで廃人プレイしてないでしょって思うあれね」
「でもクラン作って仲間をまとめる力はないと困るんじゃないか?」
「予定とかノルマを決めておけば、リーダーがコミュ障の廃人だってクランは回るわよ」
それは極論だが、王都ブロムにいた攻略組はあんまりNPCとの付き合い方が上手くないのかもしれない。
ただの推測だから決めつける訳にはいかないが、そう思わされたのだった。




