90プレイ目 アンセムとゼロイス
クリスマスのイベントが始まったころに、神殿から伝言が届いて、領主から貸与証明書なるものが届いた。
話がついたので、玄幽が装備しているカタナはアンセムの領主が所有しているものであり、借りているだけだと言って商人どもを追い払って良いという証である。
椛は貸与証明書を冒険者組合と商業組合で数日間ずつ張り出しておいてもらって、有象無象を追い払った。
効果は絶大だったそうだ。
「お礼に何を持っていけば良いかな…七面鳥…どこにいるか知らないし、ゼロイスで猪でも獲って来ようかな…」
「お、いいな!猪肉はここじゃ滅多に出回らないから、喜ばないはずがないぜ」
「豚肉なら養豚場から仕入れられるけどな」
椛が冒険者組合でお礼の品について呟くと、買い取り窓口のおっさんと酒場のマスターがすかさず乗って来た。便乗する気しか感じない。
「養豚場ってどこにあるの?」
「こことドゥナンとの間にある農村だな。お貴族様にしか買えない特別な豚も飼育してるって有名なところだよ」
「ああ、お貴族様しか飲めないワインを作ってる村もあったね」
身分制度のあるこのゲーム世界ではたまにある設定だ。食べたければ貴族に成り上がってみせろ、という意味があるのかどうか。
そういう物は一介の冒険者には手に入らないので、少しだけ珍しいものを獲って来ることにした。
転移プレートがあるので、ゼロイスに行くのは一瞬だし。
ついでに夜のクモ狩りもして来ようかな、と思った椛だった。
神殿の転移門から無料で使える転移プレートにアクセスすると、一瞬で移動が完了した。
迷宮都市に行く時に転移門は使ったことがあるが、もっと気軽にファストトラベルが使えたら良いのにと恨めしく思う快適さだ。
椛の所属しているクランのハウス用の土地は街の中央の神殿のすぐ隣という1等地なので、まだ神殿の建物がない今は見晴らしも良い。
神殿の敷地と神殿前広場を越えて道だけは綺麗に整備されている大通りを南に向かい、冒険者組合のテントにたどり着く。
「おおー、そういえばベリーの苗を渡したっけ…」
「あ、久しぶりだね。ベリーの配給はまだ好評だよ」
「最近、畑じゃないと育たないって聞いたけど、ここはなんで育ってるの?」
とても今さらな質問になったが、当時は知らなかったのだ。
組合の職員は「農村の出身だからスキルを持ってただけだよ」と軽く応じた。
「一時的に農地にしてるだけだから、組合の建屋が出来たら撤去するけどね」
「そうだったんだ」
苗はレンタル畑を借りた時に渡してしまったので手もとにないし、出掛けた先で入手したのはベリー系だけなので、今日は渡すものがなかった。
「今アンセムで買えるようになって来た枇杷と朽梨でもどうぞ」
「いいの!?噂は聞いてたけど、向こうでもまだ買えないって話なのに!」
ずっと荒野にいる職員さんたちに、クリスマスプレゼントということで少し差し入れしておいた。
職員個人に渡すと賄賂扱いになるらしいが、職員のみなさんでどうぞと組合に渡すという体ならセーフなのだ。
神殿なども同じだと教わったものである。
3人の職員たちは1個ずつ味見して、これが幻の枇杷かと感動したり、朽梨も甘いけど食べやすいと驚いていた。
「猪をたくさん獲って帰る予定だけど、売ったほうがいい?」
「いや、さすがに奴らも罠で狩るようになったから大丈夫だ。料理のスキルブックも取り寄せて販売中だしな」
携帯食より自分で肉を焼いたほうがマシだと気付いたそうだ。
ちなみに今は領主の館の基礎工事や役所のあたりを中心に整備をしているらしい。
やる事はまだまだ残っているそうだ。
ゼロイスの南の森にたくさんの罠を仕掛けてから、椛は西の森に移動して来た。
せっかくなので、世界でもここでしか手に入らないクモのドロップ品を集めようと思ったのだ。
夜になると無限湧きするが、昼間にも多少は集めておきたい。
流星と月牙の狼コンビと、まだレベルが低い賢翼と星影を召喚する。
賢翼は椛の肩から動きたがらないが、星影はチョロチョロと走り回っては薬草などを採って来てくれる。
採取物も探すのが好きらしい。
CTが切れたらミルクとブルーに交代して採取を手伝ってもらおうと思う。
椛は採取はさほど好きではないが、召喚獣たちのおかげでそれなりに収穫しているのだった。可愛いを堪能するために。
そうして休憩を挟みながらのんびりとクモ狩りと採取を楽しんだ。
夜を迎えたあとは、飽きるまで無限に湧くクモを狩った。
こういうのは玄幽も好きなので召喚してやり、流星も「面白い!」とはしゃいでいたものだ。
危ないので月牙は送還したが、気にならないくらいに気に入ったようだった。
アンセムに戻って来た椛は、神殿で神官に猪をそのまま渡すか解体してから持って来るか尋ねたところで気がついた。
クリスマスイベント中だったことを。
アイテムポーチの中にクモの数だけプレゼントボックスが増えていた。
「これもいります?」
「子供たちが喜ぶので、寄付して頂けるのであれば受け取りますよ」
「ぬいぐるみですからねー」
中身はランダムだがレアリティなどはなく、全て同じ排出率になっていた。
なのでよほど運が悪くなければすぐにコンプリートできるし、トレードで集めやすい仕様になっていた。
椛もすでにひと通りは入手済みだ。
とはいえ人気の天使や小妖精のぬいぐるみもあるし、同じものでも無限に欲しいと集めている者もいるそうだ。
どういうチョイスか魔物や騎獣も選ばれていて、あんまり人気のない物もある。
椛は狼の騎獣も銀狼も、森の主どんやそこらの雑魚オオカミすらいなかったので、ひそかに落ち込んだものだが。
ともかく神官に希望の数を聞いて、猪は解体せずにそのまま、プレゼントボックスも開封前の物を渡した。
やはりランダムなプレゼントボックスは、開封前のほうが喜ぶに違いない。
次に領主の館まで行って門番たちに相談すると、案外フットワークの軽い秘書官が現れた。
猪を出してみせると、好物だったのかウキウキと受け取りを認めたものだ。
「こんなものしか思いつかなくて。あとプレゼントボックスもたくさんあるので是非」
「神様からの贈り物ですね」
生産作業でも手に入るから珍しくはないが、他の仕事をしていると数が少なくなるのでそれなりに喜ばれた。
「あ、『神の匠』にもお届けしたいけど、配達を他の人に頼むほうが良いですか?」
「いや、あの召喚獣と一緒に行けば喜んで下さるだろう。気に入られたようだからな」
「あの失礼な奴のどこが良かったのか…」
ランクSSに至るような天才様の好みは凡人には分からないものだ。
秘書官も「それな」と言いたげに頷いていたものだ。
というわけで玄幽と『神の匠』の屋敷に配達して、カタナの使用状況を検分されたりもしたが、無事に渡すことが出来た。
そして最後に余った猪は冒険者組合で売却しておいた。それなりの数だったので「しばらくは猪肉が楽しめるぜー!」と冒険者NPCたちも喜んでいた。
噂を聞いて冒険者以外も酒場の食堂を利用しに来たとかで、数日の間は盛況だったそうだ。




