89プレイ目 アンセム
商人たちは「ヤマト国の民族衣装を着た狼獣人の男」という存在しないものを探して歩いているらしい。
椛が玄幽を連れて歩かなくなったら、全く気付いていないようだ。
知り合いの住民NPCたちも「だってあれ、召喚獣って聞いてたし」「耳としっぽはアクセサリーだし」と言って、聞かれても知らないと言ってくれたそうだ。
それにギラギラした商人たちは、NPCからも敬遠されているらしい。
まあ、椛も同じ日本人でしょって同類扱いされたくない人間なんてたくさんいるが。
親戚扱いされたくない人間だっているし。
「それで改めて思ったのは、わたしの知り合いって屋台通りの食べ物屋ばっかりだな!ってことだった」
「毎日のように通ってるからだろ」
「く、薬屋さんとか魔導具屋さんも良く行くし、古本屋のおじいさんとも知り合いになってるし」
でもカフェや食堂のほうが良く行くし、クロワッサン目当てで行くパン屋では店員どころか客たちとも顔見知りになって来ている。
食べ物関係が圧倒的に多かった。
そんな話を冒険者組合の買い取り窓口のおっさんとしていると、アンセムではあまり見た覚えのないタイプのプレイヤーたちがドタバタと駆け込んで来た。
いや、キノコパニックの頃に良く見たほうのプレイヤーと言うべきか。
アバターの造形の傾向というか、キッズが好みそうな外見というか。
強そう、派手、威圧的みたいな顔と体型で、装備のカラーリングも10代の若者っぽいというか。
緑茶の渋味を美味しいと感じられない年齢だろうな、と伝わって来るのだ。
椛がアラサーだから。
「ここにランクSSの鍛冶師がいるんだって!?そいつに作らせた武器を手に入れた奴がいるって本当かよ!」
「どんなイベントで手に入れるんだよ!」
そして組合内で無遠慮にプレイヤーやNPCたちを詰問して回っている。
NPCたちの好感度が不穏な音を立ててガンガン下がっていくのが聞こえて来るようだった。
椛のところにも来たので「どこで誰に何を聞いたの」と逆に聞いてやった。
「商人たちが言ってたんだよ!」
「新作がどうこうって!そいつからなら巻き上げるのは簡単だって!」
「和服の男だって言ってたからプレイヤーだろ!」
「は?ヤマト国の人もたまに歩いてるよ。プレイヤーだと思い込んで確認しなかったんじゃないの?」
「どこにいたんだよ!」
「闘技場」
闘技場にはヤマト国の民も西の大陸の人も、出場者としてたくさんいるのだ。観客にもそれなりに混ざっている。
窓口のおっさんも「腕試しに世界中から集まるらしいから、そりゃいるわな」と納得していた。
「隣の港街のハトロワと闘技場は直通便があるから、ここまで来るのはそんなに遠くないし」
そんなに遠くはないが、船で1日かかるので乗り合い馬車と同じくログアウト放置をしたくなるくらいには船旅はヒマだが。
椛も直通便の船の話はあとから聞いたので、陸路で遠いと勘違いしていた頃もあった。
やかましいプレイヤーたちもマップを確認したのか、海路を使えば近いことは理解したようだ。そして近いのなら闘技場からここまで来るNPCがいる可能性も認めたらしい。
プレイヤーがイベントを起こして手に入れた、という決めつけは一応引っ込めたようだ。
それでも諦める気はないらしく、それならそれで和服のNPCがいるはずだと聞いて回り、ここでは埒が明かないと騒々しく出て行った。
「…おまえ、白々しく言うよな」
「えー、わたしはこの街でヤマト国の民族衣装を来た人間なんて見てないしー」
「人間は見てねえよな」
召喚獣だからネ!とすでに知っている人は気付いていて黙っているだけの情報なのだ。
バレていない訳がなかった。
噂が他の街にも広がっていることを知ったので、椛は神殿で賢翼と神話の朗読会に参加してから、神官たちにちょっと愚痴った。
賢翼は子供たちに狙われて室内を飛びまわっている。でも怒っているわけではなく、遊んでやっているという雰囲気だ。
「『神の匠』の話なら、西の大陸の果てまでもすぐに広まるでしょうね…」
「価値が分かってないくせに欲しがるアホも湧くし…」
「ランクSSの鍛冶師が作ったというだけで価値があると思うのは当然ですけどね…」
性能はそんなに高くない。あえてレベルの低い玄幽に合わせてくれているからだ。
強い武器を使って自分が強くなったと勘違いしないように、分相応の性能がいいと注文した。
怒らせて断られたら、そのほうが平和だなとちょっと思った上での注文だった。
何故か怒らずに作ってくれただけである。
商人どもは性能など眼中にないので、噂にものぼらないだけだろう。知っても『神の匠』の名前だけで売れると気にしないだろうし。
プレイヤーたちはすごい性能だと勝手に思い込んでいるだけだから、知ったら「騙された!」と喚くに違いない。
「たとえ聖女様に解決して頂けても、先行した噂だけ聞いたアホ商人が無限に湧きそう…!」
「どこに行ってもいるでしょうねえ…」
全然解決する気がしないので、椛は頭を抱えてしまう。
いったいどこで間違えたのか。
特殊クエストのチェックなどしたせいだろうか。
いや、店で買えないのに玄幽にカタナを使わせようとしたからか。頼闇だって使いたがっていても諦めていたのに。
なんか良い双剣をもらっておけば良かったな、と後ろ向きなことを考えていると賢翼が戻って来て椛の肩に停まった。
「あー、いいなあ。ワタシもフクロウさん欲しい!」
「我と契約したくば力を示すが良い!って戦いが始まるから、レベル50以上にならないと契約してもらえないんだよ。しかも下手なボスより強かった…」
椛の感想に賢翼がやや得意げに胸を膨らませている。子供たちは「強そうに見えない」と残酷だが。
「聖女様が強そうに見える?見た目で判断してるうちはまだまだですなあ」
「聖女様って強いの!?」
「神法士だから回復がすごいんだよ、聖女様は!」
「強いんじゃなくてすごいの!」
子供たちの解釈に神官たちが苦笑いしている。引退後の聖女様しか知らない子供たちにとって、強い人とは思えないようだ。
椛も知らないが、勇者パーティにいたレベル99のメンバーが弱い訳がないだろう。
でも神官たちは「お強いですよ」とも言いにくいようだ。
「まあ、街をうろついてる見た目が威圧的で強そうな移住者たちは、温厚な衛兵隊の人たちにひと捻りされる程度だから、見た目と本当の強さが違う良い例だよ」
「衛兵さんは強いよ!」
「でも怖そうな人より強かった…」
「見た目の強さ…」
子供たちもどこかで見たことがあったらしい。見た目で比べたら強そうなのに、衛兵たちに手も足も出ないゴロツキなどを。
衛兵さんたち、目障りな商人どもを片っ端から捕まえてブタ箱にでもぶち込んで出荷してくれないかな、と椛は思ってしまった。
すでに存在が迷惑なのだから。
「…聖女様って強いの?」
「聖女様に「お願いできるかしら?」って頼まれて断れる人がいる?それもまた強さなり」
「いませんけど!適当なことを言って!」
神官に怒られたが、子供たちは聖女の強さに納得していた。存在が強い。
「あと神官様も強いから怒らせちゃ駄目だよ」
「知ってるー!」
「神官様こわーい。怖い?強い?」
「勝てないから強いってことだよ」
「勝てないね」
怖いと言いつつ懐いているので、子供たちは言うほど怖がってはいない。
だが言われたほうは「怖い…」とショックを受けたようだ。
怒ると怖い、くらいのイメージがなければ舐められるだけなので、多少は仕方がないんじゃないかなと、余計なことを言った椛は心の中で言い訳してしまったものだ。




