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VRMMOぐだぐだプレイ記  作者: 兼乃木


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88プレイ目 アンセム

 このゲームでも定期・不定期に関わらずゲームを更新するアップデートはされている。

 (もみじ)がプレイする夜の時間帯に行われることがなく、椛のプレイに影響する内容がほぼなかったので毎回読み流していた。


 だが今回はクリスマスイベントの告知と同時に、大型アップデートで追加される新要素のお知らせがあって、椛も目を留めた。


「魔物のテイムが追加。従魔士の実装…あ、竜騎士の竜ってコレか!?」


 騎獣でも召喚獣でもないヨ、とは聞いたのだが、はぐらかされて良く分からなかったのだ。

 まさか未実装だったとは。NPCはしれっと使っていたかもしれないのに。


 ここの運営ならやる、と確信させるところがあるのだった。


「それに伴って魔物のタマゴが低確率でドロップするようになります、か。低確率の字面のアテにならなさよ…」


 0.0001%でもゼロじゃありませんよ、という話かもしれない。その程度の期待度にしておこうと思った。


 そもそも魔物のタマゴが欲しい訳でもない。

 あえて言うなら森の主どんくらいだ。


 たとえボスのタマゴも手に入るとしても、100万分の1の確率とかに違いないし。


 お知らせを見ていたので玄幽(げんゆう)を召喚するのも忘れたまま歩いて、冒険者組合(ギルド)まで来ていた。

 組合前広場に何人かのプレイヤーたちがいて、お知らせについて話している雰囲気だった。


 クリスマスがどうこうと聞こえたので、イベントの告知を思い出す。

 椛も組合の中に入る前に広場の隅まで行って確認した。


 今回は詳細は当日のお楽しみではなく、事前に書かれていた。ハロウィンのせいでクレームが多かったのか、またアレじゃないだろうな!?というクレームが来ると予測したのか。


「魔物を1体倒すごとに中身がランダムのプレゼントボックスが入手できます。生産作業でアイテムを作るたびにもプレゼントボックスが入手できます」


 それはどういう状況?と聞きたくなる説明である。何か作るたびにプレゼントボックスが降って来るのだろうか。

 せめてアイテムポーチにこっそり入れて欲しい。絶対に邪魔だから。


 さすがにプレゼントの中身はまだ伏せられていたが、ランダムで種類は多いようだ。


「つまり、クリスマスガチャ…苦しみマスガチャ…」

「なんで不穏なこと言ってるんだよ…」

「ガチャ運ねえんだぞ!」

「わたしもないよ!」


 嫌な連想をしていたら、通りすがりのクラメンに声をかけられた。これから予約していた教官の指導を受けに行くそうだ。


 椛もまた予約して来ようと思う。


「じゃあ、ゼロイスの夜の西の森で無限湧きするクモを狩るのがプレゼントボックス入手の最高効率かな」

「あ、未練の塔で千人斬りもやりたかった!」

「ああ、ダンジョンのほうが効率が上かも」

「うちのクランの人以外には「おまえは何を言っている?」って宇宙人を見る目で見られるけどね…」


 椛は楽しかったし、機会があればまたやりたいが、同志は少ないのだった。

 数少ない同志たちは「そうだった…」と遠い目をしていたものだ。






 椛が1人で冒険者組合に入ると、冒険者ではないNPCたちが一斉に振り向いたのでビクッとしてしまった。


 ホラーの演出かと思ったが、良く見ると商人たちのようだった。


 何こいつら、と思いながら買い取り窓口のおっさんに小声で尋ねる。

 受付嬢たちはみんな忙しそうだったので。


「なんなの、商人がいっぱいいるけど」

「『神の匠』の新作を手に入れた冒険者がいるんだとよ」

「…あー、ランクSSのすごい鍛冶師の」

「まだ噂だけどな。本当なら買い取りたいらしい」


 どこからバレたのか。

 買ったのは領主という情報は掴んでいないのか。

 椛は頭を抱えそうになりつつ、クエストを確認する。


「オークションに出品するような物をはした金で巻き上げる気らしいからな。冒険者もなめられたもんだぜ」

「そういえばオークションってどこでやってるの?」

「どこの国でも王都や首都でやってるはずだぜ。会場は貴族街のほうだから分からないかもな」


 貴族街は貴族のお屋敷が並ぶ高級住宅街のほうにある、高級店の並ぶ商店街のことらしい。

 一般人は近付かないので、そんな場所があることも椛は初耳だった。


「行ってもお役所とかだから、あの広い区画は未知しかなかった」

「有名になって指名を受けると、行く機会も出来るかもな」

「『絶賛邁進』とかは受けてるのかなあ」

「どうだろうな」


 おっさんは澄まして答えたつもりだろうが、我がことのようにドヤりたいという顔になっていた。


 でもこの国の貴族ってアレだったなとか思い出したが、おっさんの夢を壊すようなことは言わないでおいたのだった。






 椛は予定を変更して神殿に来ていた。

 領主を上回る存在なんて、ここにしかいないからだ。


 まず知った顔の神官がいたので正直に事情を説明して相談すると、聖女様が介入するような話ではありませんと言われた。

 しかし、ご本人の判断を仰がなくては答えられませんと譲歩の姿勢を見せる。


 むしろ建前が必要だっただけかもしれない。

 そのまま椛を聖女様のところへ案内してくれたのだから。


 聖女様にも同じ説明をすると、困った顔をされた。


「あなたも領主様もかの匠も、誰も悪いわけではありませんが…慎重さが足りなかったかもしれませんね」

「所有権の在処(ありか)を明確にして、借りてるだけって形にするとかですかね」

「そのほうが良いかもしれませんが…匠はちょっと頑固な方ですし…」


 椛もそんな気はしていた。

 同席している神官たちも頷いている。


「でもそんな匠に気に入られた召喚獣には興味がありますね」

「お許しいただければ召喚しますけど、礼儀とか持ち合わせてないもので」


 神殿に入りたがらなかったし、と思ったがお許しが出てしまったので玄幽を召喚した。

 すかさず梨を渡しておく。


「あ、耳としっぽはただのアクセサリーなので、獣人じゃないですよ」

「本当に人間そっくりなのね…」

「お腰のものが、問題の…」


 玄幽の外見から、『神の匠』の新作へと注目が移る。玄幽は特に気にならなかったようで大人しい。


「孫を見る好々爺って顔になってたんですけど、もしかして珍しいことでした?」

「まあ、匠が?」

「このままだとこの子の大好きな街での食べ歩きが出来ないんですって同情を誘ってみてもいいのかどうか…」


 これには玄幽も反応して、どういうことだ!?と怒り出した。

 すでに食べ歩きは趣味になっている。


「椛さんはしばらくはアンセムにいるの?」

「教官殿に教えてもらいたいことがたくさんあって…こいつは特に」

「ガウ」


 玄幽もそこは同意していた。

 あの強者から学ぶことは無限にある、とばかりに重々しくうなづいていた。


「でしたらまずは匠の奥方様に尋ねてみます。その子が自由に街を歩けるようにしてあげたいと伝えてみるわ」

「宜しくお願いします」

「少し時間をもらうわね」


 椛も解決するまで他の街には行けない。

 商人どもを黙らせる秘策がなければ、どこに行っても同じことだろうから。そしてそれは、ここの領主か『神の匠』以外には出来ないことだろう。


「それで、そのカタナはもう使ったの?」

「はい、初陣は森の主でした。そのあと森の奥のほうでレベルが高めの魔物とも戦いましたけど」

「ガ、ガウ」


 玄幽は掠りもしなかった攻撃でも思い出したのか、ちょっと慌ててから「次は勝つ!」と言いたげに気合いを入れていた。


 聖女様が微笑ましそうに見ていたものだ。






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