夏の扉の香り
カーテンが朝の光を
すこし遮れないので
うす青い薄氷が部屋に入って
初めてのあの日を想い出す
なんだかその清らかさに
笑えて来たりして
夏の朝はそれでも
なに蝉か知らないけど
バカ丸出しの鳴き声がケバケバしく聴こえる
なにもかもが淋しい考えが
降り頻る鳴き声を正しく理解し
慌ただしい光の帯が争いの無い世界を目指す
鬼面の逆光に
愛を感じるセンチメンタルな朝に
瞼を閉じる闇を救う愛がそこでは
木洩れ陽の暖かさが
心の氷を溶かす虚像の愛がそこでは
螺旋のように全てを赦そうとするだろう
夜に、なれ。
夜にさえなればまた静かで怠惰な世界が
私の心を捉えて離さないだろう
夜への希望は淋しいくらい孤独だけれども
夏の扉の香りだけが
ぎっしりと詰まった海岸へゆこうよ
鶴に似た流木をたったひとつみつけたよ
『乾いた渚、わからない無限
宇宙と薔薇の甘い接吻を
誰もみたことがないからすこし淋しいのです』
波に持ってゆかれた純情は
ゼロの調べをゆらゆらと奏でて
夜を迎え入れるかのように夕陽が沈む
沈む懐かしさに
静かな、それでいてすこし痛い想いで
生きる意味なんて問いかけたりして
ささやくようになにもかも
やめたくなるトモシビの儚さ
灯すは、祭りのあとの静かな異界の獣か