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第四十七話:副団長の魔剣と、三重の連携

「この私を倒してから、行ってもらう」


王国魔導騎士団副団長、バルト。その手には、まるで生きているかのように、禍々しい紫色のオーラを放つ、巨大な魔剣が握られていた。

彼一人から放たれる圧は、先ほど俺たちが殲滅した、数十の魔物の群れにも匹敵する。

セレスティア団長の右腕。その名は、伊達ではない。


「この男…私一人で十分だ!」

最初に動いたのは、シルヴァだった。

彼女は、自らのプライドと、そして、俺たちの進むべき道を切り開くため、銀色の閃光となって、バルトへと襲いかかった。

〝銀閃〟の異名に違わぬ、神速の剣。常人であれば、その切っ先を認識する前に、首と胴が泣き別れになっているだろう。


だが、バルトは、動じなかった。

「――遅い」

シルヴァのレイピアが、バルトの間合いに入った瞬間、彼女の動きが、まるで、粘性の高い水中にでも入ったかのように、急激に鈍る!


「なっ…!?」

シルヴァの顔に、驚愕の色が浮かぶ。

バルトの持つ魔剣が放つ、紫色のオーラ。あれは、ただの威嚇ではない。周囲の空間に、**【服従】と【重圧】**の概念を、強制的に定義する、呪いのフィールドだったのだ。

その絶対的な支配の概念の前では、シルヴァの速ささえも、その輝きを失う。


「小娘が…思い上がるなよ!」

バルトは、その速度を失ったシルヴァのレイピアを、自らの魔剣で、たやすく弾き返した。シルヴァは、その衝撃に、大きく後方へと吹き飛ばされる。


「シルヴァ!」

俺が叫ぶのと、ガウェイン卿が、その巨体を俺たちの前に躍り出るのは、ほぼ同時だった。

「ハッハッハ!小娘の相手をするには、ちと、役者が悪かったようだな!このガウェインが、相手をしてやろう!」

ガウェイン卿は、その戦斧を構え、バルトの魔剣と、正面から激突する。

凄まじい轟音と共に、二つの巨大な力がぶつかり合い、闘技場の床に、深い亀裂が走った。


ガウェイン卿の【不動】の概念が、バルトの魔剣が放つ【重圧】を、かろうじて押しとどめている。だが、その顔には、苦悶の汗が浮かんでいた。拮抗しているが、長くは持たないだろう。


(…なるほどな。あの魔剣が、バルトの力の源泉か)

俺は、二人の激突を横目に、冷静に、敵の能力を分析する。

(俺の定義を、直接、バルトに与えても、あの魔剣の力で、ある程度は相殺されるだろう。なら――)


俺は、体勢を立て直したシルヴァに、視線を送る。

彼女も、俺の意図を察したように、小さく頷いた。

俺は、彼女にだけ聞こえるように、短く、作戦を告げた。

「シルヴァ、もう一度、彼の懐へ!」

「…分かった!」


シルヴァは、一瞬の躊躇の後、再び、地を蹴った。

「愚かな!何度来ても、同じこと!」

バルトが、ガウェイン卿を押し込みながら、シルヴァを嘲笑う。

シルヴァは、先ほどと同じように、彼の魔剣が放つ【重圧】のフィールドに突入し、その動きを、再び、鈍らせていく。


――だが、今度は、先ほどとは違った。


俺は、その瞬間を、見逃さない。

シルヴァが、敵の間合いに入る、その刹那。

俺は、バルトでも、彼の魔剣でもない。シルヴァ自身に、新たな概念を、定義した。


「――シルヴァ。今、この一瞬、お前は、“いかなる外部の定義からも、影響を受けない”」


俺は、彼女の存在そのものに、絶対的な**【不可侵】**の概念を与えたのだ!

瞬間、シルヴァの体を縛り付けていた、あの重苦しい圧力が、まるで嘘だったかのように、綺麗さっぱりと消え去った。


「なっ!?」

バルトが、驚愕の声を上げる。

だが、その時には、もう、全てが遅すぎた。


本来の神速を取り戻したシルヴァは、もはや、誰にも止められない、本物の“銀閃”だった。

彼女のレイピアは、バルトの魔剣の防御を、まるで置き物であるかのように、すり抜け、その利き腕を、的確に、そして、深く切り裂いた。


「ぐああああああっ!」

バルトの腕から、魔剣が、カラン、と音を立てて滑り落ちる。

そして、そのがら空きになった胴体に、好機を逃さなかったガウェイン卿の、戦斧の峰が、まるで巨大な鉄槌のように、叩き込まれた。

バルトは、断末魔の叫びと共に、その巨体を、テラスの壁に、叩きつけられた。


勝負は、決した。

俺たち三人の、完璧な連携による、圧勝だった。


シルヴァは、レイピアを鞘に収めると、俺の方を、信じられない、という目で見つめていた。

「…今のは…私に、力を…与えたのか…?」

「あんたの力を、邪魔する概念を、消しただけだ」

俺がそう答えると、彼女は、ふい、と顔を逸らした。その耳が、少しだけ、赤くなっているように見えた。


ガウェイン卿が、倒れたバルトを一瞥し、俺たちに言う。

「よし、これで、道は開けた!一気に、オルダスの元へとなだれ込むぞ!」


俺たちは、力強く、頷き合う。

王都動乱の、本当のクライマックスは、もう、目前に迫っていた。

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