勘違いではなく、演技の話
王都歓楽街・某酒場にて。
喧騒の中、ひと際目立つ男がいた。
「いや〜今日も美人が多くて困っちゃうな〜。選べねーっつーの!」
明るく茶色に染めた髪、襟をはだけたシャツ、軽薄な笑み。
彼の名は“レオン”。もちろん偽名だ。正体は、あのレオニス団長本人である。
「ねぇねぇお姉さん、こんなとこで酒なんて勿体ないって〜。俺んとこで最高のワイン、開けよっか?」
女給が吹き出す。「もう、また口だけなんだから〜!」
その間にも、耳は周囲の会話をすべて拾っていた。
(密輸品の話が、裏の倉庫で──)
「ちょ、ちょっと団長、あんなチャラ男のフリしながら聞き耳立ててるなんて……!」
遠巻きに監視していた部下ケインが震える。
(声が軽い、目が笑ってる、口説き文句が自然すぎる……どこでそんな技術を!?)
一方のレオニスはというと──
「おいおい、お嬢ちゃん、俺にそんな視線送って、もしかして惚れた〜?」
「惚れるわけないでしょ!」
「ツンデレか〜。やっべぇ、俺、そういうの刺さるんだよな〜♡」
そう言ってウインクひとつ。
が──その直後、彼の目が一瞬だけ鋭くなる。
(今だ。倉庫に入った)
「ごめんね?ちょっと用事思い出しちゃった。代わりにこのチップ、取っといて♡」
銀貨数枚を女給の手に握らせ、レオニスはするりと席を立った。
──そして裏手で密輸組織をあっさり制圧。
数時間後、フードを脱いだ彼を見た女給たちは声を失った。
「あのチャラ男が、あの“氷の獅子”……!?」
「まさか別人じゃないよね!?」
「声……同じだった……気がする……」
団に戻った後、部下たちは恐れと敬意と混乱で沸騰した。
「団長、あの軽口、どこで……?」
「王立演技学校で2年学んだ。潜入任務が増えると判断したからな」
「ガチで“完璧超人”じゃないですか!?」
──そして団員たちの中で語り継がれる。
「あの人、何しても完璧なのに、チャラ男やっても最強だった……」
「むしろ一周回ってこっちが本性なんじゃって思えてくるレベルだった……」
「“俺の団長がこんなチャラいわけがない”って言いたい……でもチャラかった……」




