呪いは解けたが誤解は解けない
夜。騎士団の詰所の片隅では、レオニスを中心に異様な静けさが漂っていた。
会議の最中、地図を見つめながら戦略を練る団長。その横顔に、今日もひとすじ、ふたすじと涙が伝っていく。
「……この地形では、南側から進軍するのが得策だろう」
冷徹な分析。的確な指示。そして、流れる涙。
(言ってることは正しいのに、涙が……!)
(あんな無表情で泣くなんて……あれは……魂の痛み……!)
部下たちはどんどん勝手に解釈を重ねていく。
「やっぱり、あの戦のことを……!」
「副団長を失ったの、まだ引きずってるんだ……!」
「団長って、ほんとはすっごく繊細な人だったんだな……!」
レオニスは気づいていた。部下たちが勝手に感情を盛り上げていることも、その目が時折潤んでいることも。
だが──
「好きに思わせておけ。泣いているのは事実だからな」
その心中は、やはり氷のように静かだった。
そして翌日、呪いが解けた。
「……あっ、団長、今日は泣いて……ない?」
「指輪の効果が切れた。やっと拭かずに本が読めるな」
そう言って、何事もなかったかのように書庫へ向かうレオニスの背を、部下たちは神聖なものを見るような目で見送った。
(……団長、きっと一晩泣き続けて、心を整えたんだな……)
彼らの中で“涙を流す氷の獅子”の伝説が刻まれたのは、言うまでもない。




