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実験をしよう

 並べられた物体は様々だった。

 布に包まれた長さの異なる棒状の物体が5本。鞘に入ったサーベルが3本。その他重そうな鉄の箱が1つと軽そうな革の袋が1つ。


 まずは棒状の物体の包みを解いていく。

 すると現れたのは、3丁のライフルと大小異なる2本の杖だった。

 ライフルは猟銃のような形をしており、ストックの部分は木製である。

 そのライフルに飛びつくように手を伸ばしたのはカルアだ。


「おお! なんかカッコイイなこれ! どう使うんだ!?」


 この世界には銃という概念がなく、それどころか弓矢の概念すらなかった。

 遠距離の殺傷については、その殆どを魔法が担っているのである。

 だが、魔法を習得するのには適正が必要だ。それに十分な教養も必要になってくる。

 前世では当たり前の物理学や計算式、そういったものが魔法を使うのに必須になるからだ。

 魔法を使用するためにはまず魔法陣を魔力で描く必要がある。これから何を事象として現象させるのかを、記号によって描くのである。

 それはつまり数学だ。万物の全てを数字という記号に置き換える数学の考え方と似ている。

 識字率すら低いこの世界で、魔法を扱えるほどの教養を得るのは簡単な事ではなかった。


 だからこそ、銃である。

 取り扱いに多少の習熟は必要だろうが、圧倒的に簡単に大きな結果を出せる武器だろう。

 リアンは、年齢層の高いクラウディウス家の騎士団の主要武器として、銃を考えているのであった。

 今回はその威力や精度の試験を行うつもりだったのである。


 革袋の中から小さな水晶が付いたイヤリングを取り出し、エラに手招きをする。


「どうしましたか? リアン様」


「エラ、ちょっと耳を貸して」


 言われて、少し躊躇ってから顔を寄せるエラの耳に、イヤリングを取り付けながら言う。


「これはね、すごい音から耳を守る魔道具なんだよ」


「は、はい」


 心なしか顔が赤い気がするエラに、安心してもらうように微笑んでから、カルアにもイヤリングを投げてよこす。

 

 実際、銃はかなりの音を発生させるものである。

 消音装置、一般的にサイレンサーやサプレッサーと呼ばれるものを装着しても、条件が揃わなければ鼓膜を傷つける程の轟音を発生させるのだ。


 条件というのは、弾速である。

 火薬が爆発する衝撃波に加え、弾が音速を超える際に発生する衝撃波、つまりソニックブームが爆音の正体だ。

 音を抑えるためには、亜音速弾という、弾速を抑えた弾を使用する事でソニックブームを発生させないようにし、それであればサプレッサーを使用する事で劇的に消音効果があるというものである。

 とはいえ、劇的な消音効果といっても、耳栓やヘッドセットをせずに銃を撃っても鼓膜を傷つけないといった程度で、近くにいるとかなりの音はするのであるが。

 しかし、亜音速弾にするという事は、精度や威力など、何かを犠牲にしなくてはならない。


 そもそも銃の威力は弾で決まる。ゲームなどの感覚で考えると、銃そのものに攻撃力があると思ってしまいがちだが、それは事実とは異なる。

 銃における攻撃力とは、弾にある。つまりどれだけ威力を持つ弾を撃つ事が出来るのか、という所が銃の攻撃力であるのだ。

 

 勿論その弾頭も、威力の定義が貫通なのか、体内でエネルギーを発生させる事なのかで変わってくるのだが。

 ともあれ、リアンの用意した銃には消音効果などは考えられていない。


 だからこそ、銃を扱う者は風魔法によって、耳に入る一定以上の空気の振動を抑制する魔道具を付ける想定で設計されている。


「じゃあ、まずは弾を詰めていこう」


「はい」


「おう! 楽しみだぜ!」


 ライフルの右側面に空いた楕円形の穴に、弾を押し込むように詰めていく。

 詰められた弾は銃身の下にある筒、マガジンチューブと呼ばれる物の中に納まっていく仕組みである。

 10発ほども弾を込めた頃、トリガーの後ろにあるレバー、ナックルガードのようなそれに中指、薬指、小指を通してレバーを前方に押し出す。

 すると、撃鉄の手前にある部分がスライドし、弾込めの穴のやや上にある排莢口が姿を現し、同時にマガジンチューブに収まっていた弾がチャンバーに収まり、その姿が排莢口から見える。

 勿論、この動作で撃鉄が起きるので、発射準備が完了するのだ。


 前世ではレバーアクションライフルと呼ばれる銃だった。

 当初はオートマチックライフルを開発しようと思ったのだが、リアンの知識ではそもそも銃の仕組みが分からなかったのだ。

 ボルトアクションやレバーアクションの開発には成功したが、それも『そういうものがあった』という認識から試行錯誤を繰り返してようやく完成したくらいである。

 部品を容易に加工できる錬金術という魔法があった事は幸いだった。それがなければ、リアンのなんとなくの知識では、開発自体が現実的ではなかったかもしれない。


 ともあれ、全員が発射準備を終えた所でリアンは説明の為に口を開いた。


「ストックを肩に押し付けるように。そして引き金を引いた時の反動には逆らってはいけない。反動制御を肉体で行うと筋肉や骨が傷付いちゃうからね。それと、狙いはアイアンサイトっていう所を使って覗くんだ。でも気を付けて、集中してあんまり目を近づけ過ぎないように、少し遠くから見る癖をつけて欲しい」


 リアンの注意点を咀嚼するかのように頷いた二人に満足したのか、リアンは「よし」と一つ頷いて、開始の合図を声にした。


「じゃあ、適当な枝を狙って撃ってみよう! ファイア!」


 ドン、という重く大きな衝撃音が銃口から三つ花開く。同時に周囲の鳥たちが飛び立っていった。

 リアンたちにはドンという衝撃音に聞こえただろうが、離れて聞く者には「パァン」という炸裂音に聞こえただろう。

 距離によって聞こえ方の異なるその音は、何が起きたのか分からなくても付近の生き物に恐怖を植え付けるだろう。

 もしかすると、今飛び立った鳥たちは、もうここには戻ってこないかもしれない。


 もうもうと漂う煙はいつまでも消えず、その中にあってカルアが残念そうな声を上げた。


「外れた! これ難しいな!」


 どうやら狙った場所には当たらなかったようだ。

 エラが前方に指をさし、その言葉に続く。


「私は当たりました」


「まじかよ!?」


 確かに、指先を追った先にある木の枝は折れており、その言葉が真実である事を告げている。


「すごいな、エラは」


 言いながらレバーを操作し、排莢口から煙まみれの薬莢を吐き出させながら、次弾をチャンバーに送ったリアンは、エラに負けまいと別の枝に向かって引き金を引く。

 そんなリアンに触発されたのか、カルアもエラもまるで競うかのように引き金を引いた。

レバーアクションライフルというと、ウィンチェスターを思い描くと思うのですが(特にイエローボーイと呼ばれるM1866)、リアン作レバーアクションライフルのイメージとしてはマーリンM1893が近いかなと思っています。

あんまり銃に詳しくないリアンは、映画やドラマでなんとなく排莢口って横だったよなと記憶しているので、排莢口を上にするという発想がないのです。

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