4.努力に勝る天才は無し
さぁ魔法を習うぞとなった1日目
文字が多少読めると驚かれ、えらく褒められた。
この世界でも両親は出来ようになった事に対して過剰なまでに褒めてくれる。
見た目1歳のガキンチョが既にある程度文字を読めたらそりゃあ驚くだろう。
中身おっさんの俺としてはこそばゆいが…
だがしかし、ここで増長して前世の二の舞にはなりたくない。
分からない文字や向こうで言う数字を教えてもらい、その復習で2日目を終えた。
3日目
数字の発音と書く練習を終え、ようやく初の魔法を教わる。
昨日はそれを聞いて楽しみすぎて布団に入ってすぐにぐっすり。
朝お目目ぱっちり頭スッキリだった。
絶好調、ベストコンディションというやつだ。
「さぁ、かあ様行きましょう」
「アグニカどこに行くの?」
さぁ魔法ぶっぱなしてやるぞ、と意気込み外に出ようと提案するとラミナは不思議そうな顔をして止められる。
「魔法は外でしないとあぶないのでは?」
「あら、ちゃんと分かってるのね。でも、いきなりは出来るとは限らないわ。そうね…まずは魔力を感じる事から始めましょうか」
そう言われて抱きかかえられ、椅子に座らされる。
やり方分かればポンポン出るもんだと思ってたが、なるほど確かにその前段階ちゃんとあるよな。
しかし魔力を感じる、か。
何も今までやらなかった訳では無い。
なんなら1番時間を費やしてるまである。
頭の中でイメージしたり、手と手を合わせてみたり、印を結んだり色々してみた。
よくある丹田辺りに力を込めるとかして踏ん張ってみたりもしたが、出たのはクソだった。
「いい?おへその上辺りにあるここに何か感じない?そこに魔力生成器官があるの」
そんな下らない事を思い出しているとラミナが鳩尾の辺りを触れながら聞いてきた。
いかん、集中して聞かないとな。
しかし、自分の鼓動以外何も感じないな。
「何も感じません…何か感じるのに必要なコツとかありますか?」
「う〜ん…ドクンドクンってするのに合わせて力が湧いてくるようなモノが流れる感覚って言うのかしら」
「………やっぱり何も感じません」
前世の世界には無かった器官だし場所を知覚しようもないし感覚も分からない。
うんうん唸っているとラミナがそっと手を添えてきた。
「いい?母さんの魔力を少し流すからしっかり覚えてこの感覚を内から探してみるのよ」
手から温かいモノが流れてくる感覚が伝わる。
と同時に猛烈な吐き気がする。
体が拒絶反応を起こしてる様なそんな感じだ。
吐き出しそうになるのを必死に我慢しながら内側の似た感覚を探す。
「あ、ありました…」
「よく吐き気を堪えて見つけましたね」
そう言って微笑みながら頭を撫でてきた。
「今日はこの辺にして、明日この魔力を体に巡らせる練習をしましょうね」
「……いえ、感覚を覚えているうちにやりたいです」
「無理しなくていいのよ?…いえ、そうね、そうしましょう」
表情からこちらの気持ちを汲んでくれたようだ。
「まず今感じた魔力を全身に巡らせるようにするの、ドクンって感じるのと同じ様に送り出す感じよ」
目を瞑って意識を集中させる。
イメージするのは全力で運動した後の心臓
全身に血を巡らせるように魔力を絞り出す。
毛細血管がどう張り巡らされているのか分からないので大雑把なイメージで送り出していく。
だが、全身に魔力が巡り切る前に体力が限界を迎え、全身から力が抜ける。
1歳児の体力では厳しかったか…
頭をぶつける前にラミナが頭を支えてくれた。
「今日はもう終わりにしましょう、ね?」
悔しいが疲労感から首肯するしか出来ず、その日はご飯も食べさせてもらい、布団へ。
いざ布団に入ろうってした時に抱き寄せられた。
「強く産んであげられなくてごめんなさい」
そう言った母の肩は震えていた。
今日の感じで薄々気づいたが、俺にはやはり才能が無いようだ。
なんと返せばいいのか分からず、抱き返すしか出来なかった。
俺の才能が無い為に、母にこう言わせてしまった。
おそらく、それに気づいていたからこそ俺を傷つけないために反対したのだろう。
泣きそうになったが、グッと堪えて眠りについた。
きっとこれは前世で努力をせず怠けてきた俺への罰でありチャンスだ。
今世の両親に前世で出来なかった親孝行をしたい。
翌日も、朝は魔術教本の基礎部分を読み込み、昼からは魔力を巡らせる練習を行う。
昨日の事から反省し、一気に送り出すのではなく、少しやって休憩を繰り返す。
これでもかなり疲れるし、終わった後は胸焼けしたみたいな痛みがある。
魔術教本にも載ってない症状なので両親には黙ってた。我慢できないほどでは無いし。
翌日も、そのまた翌日も同じ事を繰り返す。
幸い、地道で辛い反復作業は社畜時代のお陰で慣れている。
だが、あの時とは違って目標も有るし、やりたくてやってる事だから続けられるってものだ。
◇
地道な努力が実を結び2ヶ月目にして漸く全身に魔力を巡らせる事が出来るようになった。
今日は念願の魔法を繰り出す日だ。
外は生憎の雨模様
だが、俺の魔力的に大丈夫だろうという事で家の中でする。
息子の初の魔法を見たいと父ベルクーリもいる。
両親が固唾を呑んで見守る中、魔力を巡らせつつ意識は手に集中する。
「燃え盛る烈火よ我が前に姿を現せ、ファイアボール」
初級の火魔法の詠唱をすると、掌にテニスボールくらいの大きさの火が一瞬上がる。
一気に何かが抜け落ちる感覚があり、その後胸に痛みが走る。
だが
そんな痛みよりも今は魔法が成功した喜びが勝る。
「よく、頑張りましたねっ…」
ラミナがそっと抱きしめ、涙を流して喜んでくれた。
その上から更にベルクーリが抱きしめ、頭を撫でてきた。
今世の両親も俺に無償の愛を注ぎ、育んでくれている。
自然と涙が溢れた。
この愛に報いなければな
勝って兜の緒を締めよと言う
これで満足してはいけない。
やっとスタートラインに立つことが出来たのだ。
地道に積み重ね努力していこう。
そう心に決め、今はこの喜びを家族で分かちあった。