3.愛しき我が子
選手選考と練習計画表の提出で更新遅れました
すみませんm(*_ _)m
子供を出産する事がこんなにも苦痛を伴うものだとは想像だにしていなかった。
絶え間ない痛みが襲い、呼吸が上手く出来ない。
ベルが横で優しく包み込むように手を握ってくれている。
激しい痛みが襲い強く握る度、無言で握り返してくれる。
独りじゃない、そう言い聞かせる様に。
永遠とも思える時間痛みに耐え続け、漸く外に出てきてくれた。
無事産まれてきてくれたことに、胸を撫で下ろす。
初めての愛しい我が子を抱かせてもらおうとした時ーー。
「うっ…」
産婆として赤子を取り上げてくれたリーさんが絶句したように呟いた。
長時間踏ん張っていたためか視界がチカチカしてよく見えない。
ベルは握っていた手を離し、無言で立ち上がってリーさんの元へ。
そこで初めて気がつく
産まれてきた我が子の泣き声が聞こえてこないと。
自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。
痛みと疲労感と言いようのない不安感から今にも気絶してしまいそうだ。
「リーさん?処置をしないと!道具取って!」
ベルがリーさんから我が子を抱き上げ指示を出して
「あぁぁ、あぁぁう」
間の抜けたような声を発する赤子の顔を見て目を見開いて固まった。
暫く様子を窺っていると困惑した表情で私の顔を見てきたので無言で両手を前に差し出す。
赤子が泣きもせず声を発すした事には驚いたが今は早く赤子を抱いて安心したい。
生きてそこに存在している事を実感したい。
それを察してかベルが恐る恐るといった様子でこちらに赤子を手渡してきた。
初めての我が子ー
その顔を見ようとしてーー
ギョッとする。
髪が赤い
金髪しか居ないエルフではありえない燃えたぎる炎のように真っ赤な髪色だ。
これは、そう
エルフなら誰もが知っているーー
その昔実在した忌まわしきエルフの髪の特徴とまったく一緒だ。
三千年前に差別から来る怒りと恨みから同族を絶滅寸前にまで追いやり、恐怖の淵に陥れた。
激しい闘いの末、最後は荒ぶる自身の魔力により燃え尽き灰になったという。
この時の激しい争いの際に広大な範囲の森が焼けただけでなく、人族に里の位置が知られてしまった。
人族は疲弊していると知るやいなや軍を派遣し脅しをかけてきたそう。
こちらには抵抗する戦力も無く、こちらに不利な条約を結ばされ、現在も属国のような扱いを受けている。
エルフにとってこの様な屈辱的な扱いを受ける原因となった赤髪は忌々しい存在の象徴なのだ。
そんな存在と同じ髪色。
気が動転するのも仕方ない。
「ベル、この子は…」
「大丈夫、だから」
「でも、そんな……」
ベルは肩に手を置いて今にも泣き出しそうな私を落ち着かせようとしてくれているが、手の震えからベルもかなり動揺しているようだ。
元々が閉鎖的なこの里のことだ。
すぐにでもこの事は知れ渡るだろう。
そうなれば嫌がらせだって受けるかもしれない、この子が大きくなった時虐められるかもしれない。
その日は不安からか、かなりの疲労があるにも関わらず一睡も出来なかった。
翌朝ベルと共に両親に報告しに行き、厄除けの札を貰った。
両親は初孫であろうと赤髪である為かなり色々言われたがほとんど聞き流し足早に家を出た。
まさか両親にまで色々と言われるとは……
アグニカと名付けたこの子は、とても赤子とは思えない程静かで手のかからない子だった。
子育てについて何も分からない手探りの状態でこれは有難い。
最近は周りに避けられ、全くと言っていい程交流が無くなってしまった。
大変だと聞いていた夜泣きも無い。
ただ、たまにブツブツ何かを言いながら手を前に突き出したりしているのが少々不気味だ。
なにか見えているのだろうか。
それとも何処もこんな感じなのだろうか。
首が据わり、床を這うようになると頻りに外に出ようとしたり、料理中に台所に来ようとしたりと目が離せなくなった。
本を読み聞かせている時以外はとにかく動き回る。
だが、大変なことばかりじゃない。
アグニカが喋られるようになったのだ。
前々からブツブツ言ったり口の動きを見て真似していたりしたからその兆候はあったが、こうしてしっかりとした言葉を発するのを目の当たりにすると言いようの無い嬉しさが込み上げてくる。
初めて"お母さん"と呼ばれた時は泣きそうになった。
本を読んでいる時、魔法したいと言った時は困ったが…。
歩けるようになり更に移動範囲が広がったアグニカは、今まで以上に動き回るようになった。
まだ小さいから目が離せないが、それ以外は本当に手がかからない。
相変わらず静かで食事も自分で摂とれ、用も自分で足せる。
まだ1歳でここまで出来るのには驚きを隠せない。
それにしても本当に好奇心旺盛なのだろう。
ある日、魔術書を見つけられてしまった。
かなり駄々を捏ね拗ねて言うことを一切聞かない。
こんな事は初めてだ。
アグニカは本が好きだ。
なにか物語だと思っているのだろう。
いや、賢いこの子の事だ、もしかしたら魔術書だと気づいているのかもしれない。
怖いのだ。
可愛い我が子に現実を突きつけるのが。
おそらく、アグニカに強力な魔法を行使する事は出来ないだろう。
生まれついての魔力がエルフとは思えない程微弱にしか感じられないからだ。
しかし、ベルはあっさり許可を出してしまった。
ベルもアグニカの魔力が微弱なのは知っているだろうに。
だが、早めに知ってもらって別の事に興味を持ってもらう様にするのも親の務めかもしれない。
世の中何も魔法が全てではないのだ。
色々な道を示し、親として導いてあげよう。
そう心に決め、喜ぶ我が子を見つめた。