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2.魔術教本

 この世界に来て約1年が経った。


 やっとこちらの言葉でも喋られるようになった。

 聞いて理解するのは意外と簡単に出来たのだが、喋るのには口の動かし方とか少々違いがあってなかなかに苦戦させられた。

 初めて両親の前で喋ってみた時はめちゃくちゃ喜んでくれた。

 なんか前世の両親を思い出して泣きそうになったが。



 ある程度喋れるようになって試しにこちらの言葉でそれっぽい詠唱をしてみたが魔法は発動しなかった。

 正しい詠唱をしなければ発動しないのだろう。


 まぁこれは予想していた範疇だ。

 早く魔術教本か何か見つけたい。


 本といえば、教本ではなかったがそこそこ分厚い本を見つけた。

 冒険物の話だ。

 勇者や賢者はもちろん、ドラゴンが出たり大魔王が出るなど異世界を題材にしたものだったらありきたりなものだが、実際に異世界に転生した今聞くとワクワク度合いが段違いだ。


 夢中になって聞くからか両親が毎日読み聞かせてくれる。

 おかげで多少文字も理解する事が出来た。


 読み終わった後に魔法したいって言ってみたが、苦笑いしながら大きくなったらななんて言われてしまった。

 非常に残念である。


 今現在、俺は母のラミナが掃除をしている傍で寝室を物色中である。

 二足歩行ができるようになったため、ドアを開けられるようになって移動範囲がまた広がった。

 移動速度はまだハイハイの方が速いので上手く使い分けている。


 これにより、トイレだって行けるようになり、精神衛生上よろしくなかった布オムツは卒業だ。

 流石に1人で行かせるのは心配なのかラミナが着いてくる。

 まぁ、ぼっとんトイレだししょうがないか。

 落ちたら大変なことになるだろうし。


 台を押して移動させ、登って棚の扉を開けて物を漁っていると箱の後ろに隠す様にそこそこ分厚い本が置いてあった。

 箱をずらし表紙を見ると、魔術教本と書いてある。

 遂に見つけた!

 めちゃくちゃ重いがそんな事は言ってられない。

 引っ張り出して下に落とそうとした所で本を取り上げられてしまった。


「アグニカ、何見つけたの?」

「これよみたいの」

「あら、これはダメよ〜。この本は危なくて痛い痛いだから」


 可愛くお願いしてみたつもりだったがダメだったようだ。

 くっ

 だがここで引き下がったら魔法はいつ使えるようになるかわかったもんじゃない。

 小さいうちから魔法を鍛えて無双するなんて男の夢だ。

 努力や工夫で強くなっていくのも面白いかもしれない。

 もし凄い魔法を使えるようになるような才能が無くても、多少魔法が使えるようになる程度だろうと、俺は魔法を使えるようになりたいのだ。

 こんな餌を目の前にぶら下げられたような状態で我慢できるか。

 かくなる上は…


「やだやだやだやだやだやだっ!うわぁぁぁん!」


 かなり恥ずかしいがこれしかない。

 必殺・駄々こね

 床で手足を思いっきりばたつかせ、台を蹴とばし大声でやだやだの連呼だ。


「駄々こねてもダメです!」

「やだやだやだ!」

「ダメなものはダメですからね!わかりましたか?」


 そう言って本を手の届かない棚の上に置いてしまった。

 なん、だと……


「危ないから絶対ダメです、めっ。さ、ご飯食べますよ」


 抱き抱えられてリビングの方に連れていかれてしまった。


 やっと魔法を使えるようになるかもしれないというのに諦められるわけがないだろう。

 何が何でも諦めないぞ。

 こうなれば徹底抗戦だ。




「ご飯よ〜、はいあーん」

「ん」


 口を固く横に引き結んで拒絶する。

 ちょっとした反抗しか出来ないが要求を呑んでもらうまで腹が減ろうが怒られようが続ける所存だ。

 俺の決意は固い。


「ほら、しっかり食べようね〜」


 ぷい、と顔を背ける。

 何度食事を近づけられようとも口を閉じ、顔を背け続けていたら諦めたのか自分の食事を摂り始めた。


「あ〜美味しいな〜、ご飯美味しいな〜」


 なるほど、そう来たか。

 だがそんな手に乗るほど俺は幼稚ではない。

 この程度の空腹耐えられるのだ。

 舐めるでない。


 椅子から降りて部屋の隅に移動して寝転ぶ。


 呼ばれようとも絶対に反応しない。

 抱き抱えられそうになると丸まって抵抗。

 まだ赤子だから強くは引っ張れないだろうと思っての行動だ。


 そんなこんなしている内に父のベルクーリが帰ってきた。


「何があった?アグニカは何で隅で寝転んでいる?」

「おかえりなさい貴方、実は…」


 ラミナが今日一日あったことを話す。

 その間も俺は端で動かず、じっと様子を窺う。


「はぁ、そういう事か……」


 話を聞いてベルクーリが黙って暫し目を瞑る。


「わかった、俺が責任を持つから明日から魔法と文字の読み書きを教えてやってくれ」

「ほ、本気なの?!」

「あぁ、遅かれ早かれ魔法には興味を持つものだ。それに、話を聞く限り魔術教本と分かって駄々を捏ねていそうだしな…」

「そ、そんな…」

「ほら、アグニカも何時までもそこに居ないでこっちに来なさい」


 こちらを見やり、ふっと笑う。

 俺にとっては嬉しい状況の筈なのに会話的に何か事情がありそうだ。

 そんな事を考えているとベルクーリに抱き上げられる。


「明日から母さんにしっかり教えてもらえよ」


 母のどこか心配そうな顔と父の笑顔が対照的だった。

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